解析
3
-ダイモス解析室-
先程まで喧騒の中にあった解析室が、俄かに整然と静寂に包まれた。全てのスタッフが手を止め、席を立って起立する。
そんな中、入口の戸がスライド、3人が入室した。
「敬礼!」
ランディの号令の下、一斉に直立不動の敬礼をした。
「あぅ……あたしこれは苦手だ」
京子は口を歪めて溜め息を吐く。
「あの……普通にしてください。別にあたし、偉くも何ともないんですから」
しかし、ランディは緩めない。
「頼みますよ、ランディさん。王女が困ってます」
雷が吹き出しそうなのを堪えてなだめにかかる。
「いえ、二代目。これは、義務です」
雷も溜め息。京子に耳打ちした。
「えっと……それじゃぁ、休め。……でいい?」
京子の自信な気な声に応じて、一糸乱れず休めの形を取る。
「ほれ、もう一押し」
明らかに面白がっている雷。
……人ごとだと思って!
「王女として命じます。普通に対応して下さい!!」
ランディは非常に渋々従った。
「さ、どうぞお座り下さい」
ランディは集中指揮席を京子の為に引いた。
その椅子に躊躇いながら腰掛ける京子の横より、すかさず女性スタッフが紅茶を差し出した。
「どうぞ、冷めないつちにお召し上がり下さい」
お茶よごしのケーキに喉を鳴らしつつ、京子は雷へ情けない顔を向けた。
「た、助けて雷~」
イゾーデと並んで直立する雷、口許は今にも吹き出しそうだ。
「どうぞ、王女の思うままに」
「この……」
完全に遊ばれている。
……ええい、自棄よ。
京子はケーキにがばっと食い付いた。
「で、あたしは何をすればいいんですか?」
口の周りにクリームを付けた王女に辟易しつつ、ランディはデータを京子のコンソールに集めた。
「ご覧の通り、解析しきれぬデータがございます。王女に解析をお頼みしたく、おいで頂きました」
……何をご覧になればいい訳?
京子には正直ちんぷんかんぷんだ。
すると、イゾーデが身を乗り出した。
「解析プロトコルが欠落しているのですね」
ランディは得たり、と頷いた。
「さすがでござる」
「セリア王女……案ずることはありません。貴女の中にプロトコルはあります」
京子は眉を顰めるばかりだ。
「ランディ様、私の指示に従っていただけますか?」
イゾーデの申し出に、ランディは赤面しつつ頷いた。
「それはもう」
「それでは……まずエステールの制御システムの言語を、フェスティマに設定してください」
「これは……古い言語ですな」
ランディがスタッフに指示を飛ばすと、ディスプレイが目まぐるしく変化し始めた。
しばし手持ち無沙汰な京子は、ずっと抱えていた疑問を雷にぶつけた。
「ねぇ……とりすとらむって、なんか凄いの?」
「はぁ⁉︎」
銀河中の騒動を根底から覆すような京子の疑問に、雷は思わず声を上げた。
「お前、そんなことも……」
京子はフォークを咥えて、ぶすっと頬を膨らませた。
「だって、誰も教えてくれないじゃん。それに、当時も子供相手に凄いものの話すると思う?」
……それもそうか。
雷は少し息を吐き、軽く情報をまとめた。
「簡単に言うとだな、トリストラムシステムは、通常空間で光の速度を超える力を与える機関なんだ」
「ふ〜ん。……で?」
当然、まるで分かっていない。
「で、ってお前、コレ凄いことなんだぞ!いいか、速度を増すと、物ってのは重量を増すんだ。光の速度になれば、その重量は無限と言われている。それを超えるんだぞ!それがどんな力か……兵器転用しようものなら、銀河系も消し飛びかねない、とも言われているんだぞ!」
「ぴんとこないなぁ」
京子の頭上にはクエスチョンマークが飛び交っていた。
「ブラックホールの超重力が可愛いものだ、と言ったらどうだ?」
「え、ブラックホールより⁉︎それってすごいじゃん!」
……やっと響いたか。
ブラックホールはやっと分かるようだ。しかし、翔龍姫の機関(縮退炉)がブラックホールであることは、まだ言わない方が良さそうだ。
「でも、そうしたらさぁ……」
京子が口を開くと、ディスプレイの作業が終了した。
「イゾーデ殿、良いですぞ」
「翔龍姫とエステールをリンク。データを3単位で送って下さい」
そしてイゾーデはコンソールよりプラグを引き出すと、ピンを自分の首筋に。髪をかき上げたそこには小さなソケットが存在した。
「セリア様、手を……」
両手差し出すイゾーデに言われるまま、京子はそこに手を置いた。
「ライツ様、ゲィツとしての初仕事です。セリア様をサポートして下さい」
雷は緊張気味に頷き、京子の肩に手を掛けた。
「ランディ様、これから解析されるデータをエステールにプールして下さい」
「承知した」
「では、セリア様、お願いします」
「でも、あたし……」
「力を開放して下さい」
「力を…開放?」
……分からない。
「安心しろ、俺が誘導する。お前はただ俺を感じ、俺を探せばいい」
雷の言葉には、なぜだか説得力があった。
息を呑んだ京子は、ただ無言で頷いた。
「さぁ来い」
……あずま。
目を瞑り、ただ自分を支える存在を探した。すると、闇の向こうに僅かな光を見付けだす。
……あれだ!
迷わず京子はそれに近付いた。その瞬間、腕輪が光を放ち、京子を包む。
「そのまま開放しろ!」
京子を包む光は雷にまで達した。
「くぅぅぅ!」
……熱い!
京子は体の芯に、荒れ狂う炎のような熱を感じた。
「……扉を開け!!」
雷の扉が開いた。
直後光が安定、ディスプレイのデータが雪崩のように解析されていった。
「ふぅ……」
解析されたデータを処理するスタッフを尻目に、京子は大きく息を吐いた。
「雷、ありがと。本当に、助けてくれたね」
雷が笑いかけた。
「当たり前だろ。疲れたか?」
「うん……少し」
正直、体が抜け殻のようだ。
「少し、休むね……」
腰を上げた瞬間、ぐらりと景色が傾いた。
「……あれ?」
意識が暗転した。
「京子!!」




