鍵
-ダイモス解析室-
「お疲れです」
珈琲を持ったコールが入室した。
月などと比べると、それこそ岩石でしかない衛星、ダイモス。その最奥部に位置するのが、解析室だ。
多数のディスプレイを設置し、それらがあらゆる方面の情報を解析処理する、いわゆる中核だ。戦闘ともなると、CDC(中央作戦指令室)にもなるここに、古参騎士のランディが居座っていた。
「おやっさん、飲んで下さい」
多くのスタッフが情報処理に取り掛かるこの部屋を、1段高い位置より見下ろす場所にコンソールが据えてある。指揮デスクだ。コールはそこで進行状況を見守るランディへ、右手に持つマグカップをさし出した。
「おやっさんとは酷いですな。私はまだ若いですぞ」
くっくと笑いながら、コールは自分のカップを傾ける。
「なんだ、珈琲ではないですか」
「まだ仕事中ですよ。酒はよして下さい」
ランディは珈琲を啜り、苦い顔をした。
「やはり堅いですなぁ」
「お互い様です。入港直後の件、聞きましたよ」
雷のことだ。
「あれでは騎士の規律もあった物ではない。魂まで海賊になった覚えはないですぞ」
コールは苦笑した。
「大目に見てやって下さい。ライツは、王女と兄妹のように暮らしていたんですから」
「団長の考えとは言え、一国の王女が……嘆かわしい」
幼い頃のセリアを知るランディには、不憫でならないのだ。
「そうですか?私はあの姿に好感を持ちましたよ。良き王女に育ちました」
ランディは、ふんと鼻を鳴らしてカップを捨てるようにデスクに置いた。
「副長の貴方からしてそれでは示しがつきません」
「一番のカモフラージュです」
この話は終わり、とばかりにランディはディスプレイに視線を飛ばす。
「陛下は……どこですかのぉ」
今、ここのシステムの60%が翔龍姫のデータ解析に当たっている。龍皇消失までのデータと、正確なポイント。あの一瞬の中に、膨大なデータが凝縮されていた。この宇宙で最も待たれる情報だ。
「焦ることはない。我々が最も近い場所に居ます」
「しかし、このままでは解析出来ませんぞ。特殊な数列があります。解析プロトコルがないと……」
「やはり、セリア王女が鍵……ですか」




