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第5区画

 「なんだよ、いつまで笑う気だ?」

 ゲィツ達と医務長が退室してしばらく、京子は笑いの虫に襲われていた。

 「うん。だって、楽しいんだもん」

 「そりゃ結構」

 「あ、怒らないでよ」

 そして、京子は笑い治めて、優しく雷を見詰めた。

 「雷、愛されてるんだね」

 「おいおい、からかわれてるだけだぜ」

 しかし、京子はかぶりを振った。

 「そんなことない。あたし、羨ましいな」

 「おいおい……」

 京子は寂し気に微笑んだ。

 「あたしには、家族がいないから」

 母の王妃は追撃で死亡。父のエドワード王は生死不明。それに、未だ自分がよく分かっていない。

 「ちょっと、辛いかな」

 それでも明るい笑みを作った。

 「馬鹿言うなよ。お前はここの全員に愛されてるだろ」

 ふっと目を上げる。

 「そうですよ、私も家族同然です」

 イゾーデがそっと京子の手を包み込む。

 「ん……ありがと」

 そう、自分が誰であろうと構わない。今があれば……。

 「そう、みんな家族みたいなもんだろ。ランディのおっちゃんなんか見てみろよ」

 力説する雷に、京子は悪戯っぽい視線を向けた。

 「雷も?」

 「今更言ってんなよ。家族同然だろ」

 「違う違う。あたしを愛してるかって。あたしを愛してる全員の中に、雷も入ってる?」

 途端、雷の顔が硬直。

 「ば……当たり前だろ」

 「じゃあ、何番目?」

 「な……そんなこと、し、知るかよ」

 「ダメじゃん。それくらい決めておきなさいよ」

 「決めるような物じゃねぇだろ!」

 「つまんないの。怒んないでよ、冗談なんだから」

 と、ドアから妙な気配。咄嗟に雷は枕を投げ付けた。

 「覗き見してんなよ!!」

 開いたドアにはゲィツの3人が。

 「悪い悪い」

 「ライツ、顔赤いぞ」

 「い~物見せてもらったぜ」

 「副長まで、大人気ないぞ!!」

 くすくすと笑いながら、今度こそ本当に退場した。

 ……ただね。

 それでもやはり、京子は複雑な思いに取り込まれた。

 ……セリア王女。雷以外の人が愛するのは、セリア王女だよ。

 「…最悪だぜ」

 腕を組んで息荒い雷に、京子はまたもくすくすと笑い出した。

 「お前、ここぞとばかりに俺を笑ってるな」

 「そりゃぁ、いい機会だもん」

 暫くして落ち着いた京子が、雷に真剣な目を向けた。

 「訊いていい?」

 「だから決められないって」

 思わず京子は軽く吹き出した。

 「まだ気にしてんの?」

 「おい……」

 「真面目な話だよ。なんで、7年後の今日だったの?」

 雷は眉を寄せた。

 「覚醒が?」

 京子は頷いた。

 「親父は毎年江之島に行ってた」

 「なんで?」

 「江之島の海中にフェーベを隠してた。覚醒を警戒してね。毎年お前からは信号が発信されてたんだよ」

 しかし、イゾーデが首を傾げた。

 「覚醒レベルでの確認は今日が初めてでした」

 「でも雷、3年前に……」

 「子供の頃はまだ能力が備わっていないんだ。だから、龍皇脱出時に、トリストラムを探し得る力が備わるまでイゾーデが覚醒しないよう設定したそうだ」

 雷がイゾーデに視線を送ると、彼女は顎を引いた。

 「ただ、気になるのが年齢と、その腕輪だ」

 京子は無意識に左腕を触れた。

 「……母様の?」

 「本来フェスト人の能力者は14歳であらかた力が備わる物だ」

 3年前……雷が脚を失った日。

 「ヘリオスフィア(太陽圏)外延まで届く信号ってのは、俺達からすればかなりの力だ。ところが……覚醒には至らなかった」

 「じゃあ、なぜ?」

 京子はイゾーデを振り返る。

 「私には……」

 「分からないのか、応えられないのか、どっちだ?」

 イゾーデは表情固く、口を閉ざした。

 「まぁいいや。……で、残るは腕輪。どうやらそいつで覚醒レベルの能力に達したらしいが……なぜ必要になったのか」

 雷は意味あり気にイゾーデへ視線を向けるが、尚も応えはなし。

 「最初から意図していたのか、何かに気付いたか……」

 「要するに、雷には分かんないんだ」

 明るく言いのけられた雷は、仕方なく苦笑した。

 「ま、有り体に言やぁ、そうなるな」

 そして、京子の腕輪に手を伸ばし、指で弾いた。

 「こいつには他にも色々能力があるらしいな」

 「はい、翔龍姫の鍵になっております」

 「じゃあ、第5区画にあった部屋……あのロックも解けるのか?」

 息を詰めるイゾーデ。

 「雷、何よそれ」

 「翔龍姫の中枢部に開かずの扉がありやがんの。気になってさ」

 「開かずの扉?」

 眉を顰めながらも、京子はイゾーデに詰め寄った。

 「本当なの?」

 またしても口を閉ざす。

 「京子の……いや、セリア王女の質問でも、応えられないのか?」

 「申し訳ありません」

 雷はあっさりと息を吐く。

 「いいさ。そのうち分かる。京子、もう休めよ」

 「え……だって」

 「俺の看病はいらないよ。それに、翔龍姫の航行記録を洗ってる今は、何もすることはないしさ」

 尚も雷を気にする京子の頭を、くしゃくしゃっとかき回した。

 「疲れてるんだろ。それに、俺も眠らせてくれ」

 「うん、分かった」

 イゾーデに添われて部屋を出ようとした京子は、ふと思い立って振り返る。

 「添い寝が必要なら、すぐ呼んでね」

 「早く行け!」

 廊下の先より響く京子の笑い声を聞きつつ、雷は大きく溜め息を吐いた。

 ……どうにも怪しいぜ、これは。

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