敬礼
-ダイモス-
洞窟状に掘り込まれた坑道を抜け、ダイモスの中心部へ。そこは内部を大きくくり抜いた港である。
30000トン級の巡洋艦2隻、ミーティアとリステンを繋留してもまだ余裕のある埠頭へ、駆逐艦程の大きさもない翔龍姫が接舷した。
「大きい……」
白い船体の前部より港へ足を踏み出した京子は、思わず感嘆に口を吐く。
「足下、気を付けろよ」
「……え?」
雷を振り向いた瞬間、その体が妙な具合に浮いた。
「うわっ……ちょっとちょっと何これ!?」
咄嗟に雷が捕まえ、京子はその腕に収まった。
「港では慣性制御装置を使ってない。引力が極端に小さいんだ。あまり派手に体を動かすなよ」
「わ、分かったから降ろしてよ!」
京子は赤面しつつ降り、正面に目を移した。
すると……。
「セリア・フェスト王女に、敬礼!!」
港に集合する50人からの男女が、一斉に右手を額へ。
「……ひっ」
京子は思わず身を退いた。全ての瞳が、京子のみに熱く注がれているのだ。庶民生活を続けていた京子にとっては衝撃である。
「うぁぁぁ……ヤバいよこれは」
「ほれ、お王女さん。背筋伸ばせって」
顔を引きつらせて及び腰になる京子の尻を、雷がぱしりとひっぱたく。
「痛っ!何すん……」
「二代目!王女に向かって無礼ですぞ!!」
先程のランディだ。そして騎士達、特に古参の者が殺気立つ。
「いけね、やっちまった……」
つい、いつもの調子で手を出してしまった。
当の京子は慌てるばかりだ。
「ゲィツでなかったら、即刻首を刎ねている所だぞ!!」
「ちょっと……そんなに熱くならないで……」
「いいえ、王女は黙っていて下され」
ランディは雷に詰め寄った。
「二代目、貴方には騎士という立場が……」
雷の表情がやけに青い。しかも、多量の汗が浮いていた。
「……二代目?」
「いやぁ、そろそろダメっぽいですね……」
直後、雷の右脚が火花を上げて爆発。
「あずま!」
そのままふらり、と倒れ込んだ。
-ガーヘルト-
暗かった艦内に、一斉に照明が復帰した。
「動力炉、正常作動しやした!」
機関士のホッブが宣言すると、鉄腕クックは胸を撫で下ろした。
「やっとかよ……」
エステールのウィルスに汚染されたシステムを復帰させるのに、約20時間。跳躍ミサイルの直撃によって受けた被害も相俟って、復旧にはかなりの手間を要した。
「センサー類と通信機を最優先に復旧させろ!装甲損傷箇所、作業は!?」
「主機関部が難航してやす。あと6時間は欲しいっすね」
クックは舌を打つ。
まぁ、どちらにしろ、ルーテシアを回収しなければ移動出来ないのだが……。
「奴等……なぜ?」
小さく呟いた。
最初の猛攻だけで、後は静かな物だ。手負いの亀に止めを刺すなど、赤子でも楽に出来るだろう。
目を瞑ってくれればそれでいい……確かそう言った。
基本的に撃沈が目的じゃぁない。
……逃走目的か?
「お頭!」
通信士のデップの声に、クックは意識を呼び戻された。
「通信回復!同時にルーテシアの姐さんから連絡入りやした!」
「待ってたぜ。何してたやら……こっち回せ!」
通信がクックのコンソールへ。クックが口を開きかけた瞬間、ディスプレイのルーテシアが先制。
『クック、あんた何やってたんだい!!』
「あぅ……」
台詞を取られたクックはしばし固まった。
「言ってくれるじゃねぇか。そっちこそ連絡もなしに何してやがった!」
『したさ!したけどあんた、受信しなかったろ!!』
……そういえば。
「……悪い。システム汚染されてよぉ。今しがた復旧したところだ」
『ドジ!』
「いや面目ねぇ……ってぇか、お前ぇの方はどうなんだ!?きっちり王女さんと翔龍姫、押さえたんだろうな」
『えっと……』
ルーテシアは微妙に視線を外す。
「失敗したな」
『あっはっは、いいじゃないかい、そんな小さなこと』
……小さかねぇよ、それがメインだろぉが。
口に出して言えない所が物悲しい。
「で、手ぶらか?」
『それはないよ。プックとデスデモーナを沈められちまったけどね』
「……あ?」
一瞬クックの思考が停止した。
「ちょっと待てこの女!!失敗して、しかも揚陸艇を2隻もだと!?」
『悪かったよ。でも、いい情報があんのさ。それでチャラといこうよ』
まるで悪びれていないのだが、取り敢えずクックは先を促した。
『クレシダのレーダーでエステールを捉えたよ』
「んだとぉ!!」
俄然クックは身を乗り出した。
『ほぉら、乗って来たじゃないさ』
「んなこたぁいい!野郎、どこ行きやがった!!」
『がっつくんじゃないよ、みっともない。第四惑星に向かったよ。多分、その辺りに基地でもあるんだろうね』
……ビンゴだぜ。
「ルー、お前はすぐに動けるか?」
『あと5時間おくれ。大気圏跳躍の影響で、一度操舵システムがすっ飛んじまったんだ。クレシダのエンジン調整して、すぐ跳躍するよ』
「おぅ、こっちも復旧次第向かう。現地で落ち合おう。いいか、先に着いても手ぇ出すんじゃねぇぜ」
ルーテシアはウィンク一つ残して通信を終了した。
「聞いたか野郎共!仕返しのチャンスだ!!」




