第225独立特務部隊
第2章 赤の星
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-銀河連邦軍辺境支部ベース・リュヒテン-
交易都市惑星、リュヒテン。地球の方向からすると、ルイテン星に位置する恒星だ。
連邦発足より未だ120年。リュヒテンはその幼い国家形態の交易拠点として、オリオン腕の中では要衝とされた。
そこに、銀河連邦最強の部隊、第225独立特務部隊が駐留するようになり、5年が過ぎた。
……全ては、あの「光の航跡」からだ。
部隊、と言っても巡洋艦一隻のみだ。35000t級攻撃型巡洋艦、フォクスター。統一戦争の英雄の名を冠するこの艦の艦長、ヨハン・クラウス大佐は机に立てる写真に手を伸ばす。この艦長用個室が住居となって7年。写真に写る、当時5歳だった息子とも、月に1度会えればいい方だ。
……どこに居る、エドワード。
彫りの深い目に皺を寄せ、ヨハンは強く目を瞑った。
7年前……
-プロキオン近傍-
「どうしても受諾してくれないのか……?」
特命を受けた第225独立特務艦フォクスターは、子犬座α星の商船航路を外れた宙域で、一回り大きい船に身を寄せてていた。
その、一回り大きな船……フェスト王国旗の掲げられた、龍皇。
両船とも停戦旗が掲げられ、繋船ラインの中央で会合が持たれていた。
「応ずることは出来ん……」
国王、エドワード・フェストは重い口を動かした。相手は、当時中佐のヨハンである。
「俺の……頼みでもか?」
国王は顎を引いた。
エドワードとヨハン。2人は連邦軍士官学校時代からの仲だ。連邦とは友好関係にあった独立王政国家のフェスト。その王家の男子は連邦の士官学校で心身鍛えることを通例とした。
その友好関係も、2年前に終焉を迎えた。
連邦の、吸収合併を求める圧力。理由は明らかだ。連邦が全銀河にその版図を広げるため……そして、フェストへの恐怖。代々フェスト人に継がれる超常能力と、その科学力である。
フェストは元来平和を好む民族だ、友好条約を破棄して連邦に仇なすことなど有り得ない。ところが、連邦当主カイト・オルゲン公の意見は別にあった。危険民族である、取り込めなければ、排除せよ。そして……欲しい、あの科学力が欲しい!
吸収合併などと、無茶な話だが、行動も攻撃的だった。いや、平和的にことを進める気などなかったのだろう。もとより侵略する気であったのだ。
勧告と同時に、フェスト本星を8個師団が取り囲み、和平を促した。条件も、王位剥奪とトリストラム・システムの譲渡。これに反抗したエドワードと、フェスト国民。一斉攻撃を受け、僅かに猛攻を逃れた者も居たが、事実上フェストは崩壊した。
「騎士団さえも散り散りになって、頼みのゲィツも居ない。丸裸のお前に何が出来る!!」
トリストラム・システムは殆どは破壊した。しかし、オリジナルの1基が龍皇の腹にある。
「何も出来んかもしれん。しかし、世に放つ訳にはいかんのだ」
「いいか、俺は軍人だ。命令こそが全てだ。しかし、その命令を冒してお前を救いたい!生きていて欲しいんだ!!」
ヨハンの叫びに、同伴した参謀が顔色を変えた。この言動は明確な違反だ。
「ヨハン、君はいい友だ。こんな世に、得難き存在だ」
エドワードの脳裏に、士官学校時代の思い出がふと過ぎる。
ヨハンと、フェスト騎士団長のジョーカー・クロウ。よく3人で寮を抜けだし、酒場で夜を明かしたものだ。
「もう一度言う。トリストラムを渡せ」
エドワードは苦い笑みを浮かべてかぶりを振った。
「我々フェスト人の存在意義を知っているか?」
しかし、もはやヨハンは睨み付けるばかりで応えない。
「古代の技術を世に放たぬため、異能を以て存在するのだ」
ヨハンが奥歯を噛み締める。
「私は国王なのだよ。先祖の想いは裏切れぬ」
「ふざけるな!!」
遂にヨハンがエドワードの胸倉を掴み、場が一瞬殺気立つ。
「それで満足か!政治の思惑に流され、その命を落として満足か!!全てを失っても、そんなくだらな……」
は、とヨハンは言葉を詰めた。
エドワードは優しくその手を胸倉より解いた。
「くだらなくはないさ。全てを失おうとも……」
「国民を……いや、エリシアも、セリアまでも巻き込んで、その言葉を吐くのか……」
「もう、地獄に落ちる準備は出来ている」
エドワードの瞳には、揺るがぬ決意が伺えた。
「もう、駄目なんだな……」
ヨハンの問いに、エドワードは笑みで応えた。
「私情で銀河を崩壊の道に向かわせる訳にもいかん。これは、我が家族、フェスト国民総てを以ってしても守らねばならん。……そうだろ、ヨハン」
それが、フェストの民最大のアイデンティティ。それを分からぬ訳ではないヨハン、俯いて首を振った。
「行くがいい。ここで訣別だ。ここを去った後、本隊に龍皇発見の報を打つ」
「そうしろ。それが君の使命だ」
しばし目を合わせた2人は、何かを断ち切るように背中を向けた。
「次に会う時は敵同士だ」
ヨハンの言葉を背に、エドワードは衛士を促し船に足を向けた。
「願わくば、君の手で私の命を絶ってくれ」
ヨハンは、胸の奥より込み上げる想いに、動けずにいた。
その32時間後……連邦軍第5艦隊の追撃の末、ケンタウルスα星付近にて加速。龍皇は光の速度を超えて、消失した。
その航跡は1年、消えることなく光り続けた。
俗に言う、光の航跡事件。
ヨハンは溜め息を吐く。
今この辺境と呼ばれる宙域は、伝説の兵器トリストラムを求める海賊でごった返していた。しかも、彼のもう1人の友、ジョーカーまでが海賊として連邦軍艦船を襲撃し、広域手配にある。
「エド……嫌な時代になったな」
本来ならば将官に昇進していよう筈のヨハンも、未だ大佐の身。どこからか、プロキオンでの会合が漏れたのだろう。7年経った今でも、このフォクスターに運命を預ける身だ。
しかし……望む所だ。光の航跡事件に……いや、エドワードとの決着をつけるまで艦を降りるつもりはない。
「シオン、済まん……」
息子の写真を戻すと、不意にブリッジからの呼び出しが入った。
「私だ」
机の端に置く受話器を耳に。
『大佐、すぐブリッジに上がってください!』
半舷上陸の居残り組、デイビス少尉だ。
「どうした、まず報告しろ」
デイビスのただならぬ気配に、自然ヨハンは身を正す。
『まず、そちらに送ります』
机の正面に据えられたディスプレイにグラフが現れた。
『特別警戒宙域に発生した重力変移です』
その形に眉を顰めた。
「何だ、この異様なエネルギーの反応は……」
見たこともない反応だ。しかし、転瞬ヨハンは直感した。
「そうか!デイビス、どの星域だ!?」
『ソルです』
……青の星か!
「出港準備!至急上陸組を呼び戻せ!!」
-火星軌道-
夏の南天、夜の蠍座付近に輝く赤い星、火星。地球より0.524AU(78300000Km)の遠望は、今だ人類の進出を拒む遥かな道程である。
その未踏の(筈である)宙域を、白い船体が静かに航行した。
外洋航宙船にしては非常に小さな船、翔龍姫である。
「……ホントに赤い」
個室に設置されたモニターに、第四惑星の火星が大写しに。
京子はベッドより降りて、モニターに張り付いた。正面に据える赤茶けた惑星が、荒涼とした中にも雄大さを感じさせた。
かかった時間、19時間。現在の地球の技術を思えば、異常に早い到着だ。しかし、自らを見詰め直すには長過ぎる時間であった。
確かに、翔龍姫に乗って龍皇より脱出した時、ここを経由した筈なのだ。
赤い星……ぼんやりと記憶にある。しかし、未だ納得しきれない自分がいた。
……本当の私は、どこに?
思えば思う程空虚になる。いや……答えを出すのが怖い。10才までのセリアが本物なのか、10才からの京子が本物なのか……。
と、不意に呼び出し音が。
『京子、ブリッジに来てくれ』




