ウィルス
-小惑星帯 ガーヘルト-
小惑星ベスタに身を潜める鉄腕海賊の巡洋艦、ガーヘルト。その広域パッシブセンサーのエネルギーレベルに反応が出た瞬間、艦内照明が自然灯より緊急の赤色灯に切り替わる。
「どうしたぁ!」
轟くサイレンに負けぬ、クックの声。
「第三惑星の衛星上に艦影有り!」
「なぁにぃ!野郎、ジョーカーか!?」
ロバート・クックの叫んだ名に、ガーヘルト艦橋クルーの肌が粟だった。
……あの、ジョーカーか!?
「動力は対消滅炉、推進機関推定エルダーザ社製八発。全長250m。波動紋照合……間違いねぇ、ジョーカー艦、エステールですぜ!!」
「くそ、動き出しゃぁがったか!おぅデップ、制圧部隊からの連絡は!?」
通信士のデップはヘッドセットを僅かにずらして振り返る。
「プック、クレシダ、デスデモーナ、未だ返答なし。翔龍姫回収に問題が発生してるらしいっす!」
「……ちっ。ルーテシアが付いていながら何してやがる!野郎、地上にエステールで介入する気か?」
「敵艦浮上、衛星を離れやす!」
カロスの続報にクックは舌を打つ。
「ますます軌道から後退したのが痛い。野郎共、対艦戦用意!機関全力稼働。惑星と空間がどうなろうと知ったこっちゃねぇ、ショート・ジャンプでエステールと惑星の間に入って進路を塞ぐ!!」
「あいよ!その無茶っぷり、気に入ったぜお頭!!」
機関士のホッブが応えてコンソールに立ち向かう。
「お頭!」
デップからだ。
「なんでぃ!」
「衛星軌道の……恐らくエステールからの量子通信っす!」
にやり。クック口端が歪んだ。
「開戦前の挨拶……いや、白旗か?デップ、こっち回せ」
「へい」
『よう、クック。久し振りだな』
クックのコンソール・ディスプレイに現れたのは、予想に反し副長のコール・ディアスだった。
「ジョーカーはどうした。俺は坊やと話す為に回線開けてやったんじゃねぇんだぜ」
『悪いな。うちのおやじ、遊び回っててな』
「用件は何だ?土下座して助けてくれってんなら、コア・ブロックくらいは残してやるぜ」
『いやいや、少し目を瞑ってくれればそれでいい』
「お頭!」
航法士のクルツが突然声を上げた。
「星間図消失しやした!」
「……なに?」
次はホッブが青い顔で振り返る。
「機関内圧急速に低下しやした!こっちの言うことなんも訊きやせん!!」
「……まさか、野郎!」
「すんませんお頭」
ヘッドセットをむしり取ってデップが振り返る。
「ウィルスっす!野郎、量子通信に乗せてウィルス流してきやした!!」
『と、いう訳だ。同業者として、無事を祈る』
「ちくしょう!」
コールの映像が消えると同時、クックの義手がディスプレイを粉砕した。
「ワクチンとカウンター・ウィルス急げ!」
コンソールより義手を引っこ抜くクックの前で、火花が散った。
「さっきから試してやすが、うちの対ECMシステムがまるで効きやせん。こりゃぁ、付近にブースター隠してやがるぜ」
「なんだとぉ」
そのブースターが、よもや先日ちょっかい出してきたシャトル、雷の置き土産とは思うまい。
クックは歯ぎしりをさせた。これでは無防備に肉食獣の平原に放り出されたような物だ。
「やりやがるぜ」
この手際の良さには感心するしかない。
「汚染を逃れたシステムは!?」
さすがのクックにも焦りが見え始めた。
「光学センサー、作動確認っす!」
「生命維持システム、作動確認しやした!」
「非常用レーザー通信システム作動確認!」
「対ショックGキャンセラー作動確認っす!」
つまり……ほぼ亀さん状態。
「くそっ。管制システム修復急……」
「パッシブ・センサーに反応!」
探査要員のカロスに視線が集中。
「跳躍ミサイル多数確認!命中まで15秒!!」
叫びつつカロスはヘッドセットを頭よりむしり取る。
「総員耐ショック態勢!!」
鉄腕クックの怒号が飛んで間もなく、巡洋艦ガーヘルトに激しい爆発と振動が十数秒、間断なく襲いかかった。




