エステール
3
-秋田県上空-
レーダー追尾方式の対空ミサイルが放つアクティブ・ソナーの反応が、コクピットに警告音を充満させた。
いや、それだけではない。復座式の小型シャトル、フェーベは各所被弾し、独立補佐システムのソフィスティが苦情の警告音を発する事しきりなのだ。
「ソフィ、あまり文句を言うもんじゃねぇぜ」
Gに耐えつつ速水英が言い返した。
いくら高機動の小型シャトルと言えど、戦闘目的の揚陸艇相手では少し分が悪い。
が、本来の英、いや、ジョーカーの腕を以てすれば、身重な揚陸艇など躱すのに何の苦はなかった。
「ソフィ、現在地は!?」
フットペダルを蹴飛ばし、操縦桿を倒す。フェーベはロールを切って左下方へ。ミサイルが逸れ、あらぬ場所で爆発した。
『Akita Pref.altitude 3500m sir.』
……雷達から随分引き離したか。
「そろそろ、潮時だな……」
後方のプックより砲撃。それを右へ転舵し、一度プックの上空へ。
「この辺で、お別れだ!」
急ぎフェーベを追うプックを、上空より錐揉み状に躱し後方へ。プックのメイン・エンジンにぴたりと付ける。照準が瞬時に同調。『rock』間髪入れず、英はトリガーを引き絞る。フェーベのレールガンが電光を放ち、弾丸がノズルへ。プックは後部より黒煙を吹いて、高度を落としていった。
「よし、これで暫くは動けまい」
目的は達した。英は機体をチェック。
「おいおい、機関部食らってるぞ」
確認した次の瞬間、フェーベの出力が急激に低下。速度と高度が落ち始めた。
「ソフィ、通信は……」
『usual correspond……negative sir.』
つまり、通常通信は使用不能だ。
「冗談だろ……しかもこの出力じゃぁ大気圏も抜けられねぇよな」
……ちとお遊びがすぎたか。
舌打ち一つ、英は耐Gシートより立ち上がる。
「ソフィ、暫く操縦交替だ。少しでいい、保たせろ」
『yes sir.I have control.』
英は床下よりケースを引き出した。
「奴ら、サボってんだろうなぁ……」
ぼやきつつその中に収まる機器を組み立てると……パラボラ式の簡易通信機が組み上がる。
「パルス通信しか出来ねぇが……」
アンテナをまずは月軌道へ。
A a g→G m d。そして、今度は神奈川方面へ向け、G m d。
「雷、気付けよ」
すると、警告音が一際激しく甲走る。
『Emargency!』
機関停止。フェーベの高度が急激に低下した。
通信機をそのままに、英は再び耐Gシートへ。
「んじゃ、不時着でもするかな」
少しの焦りもない英、笑みさえ浮かべ、黒煙噴き出すフェーベを滑空させた。
-月軌道-
地球上の重力変移を観測して15分、今度はフェーベからのパルス通信を確認した。
「あう……おやっさん、平気かよ」
エステールのブリッジに詰めるレイは苦笑した。
ゲィツの4th、レイ・ハワード。7年前は新入りの騎士だったが、今では立派な海賊である。
「レイ、おやっさんは何て?」
艦長席に着く、黒髪をオールバックにした男、コール・ディアス。ゲィツの2ndにして、フェスト騎士団の副長だ。
「通信機やられたってことは、攻められてますね。パルスでA a g→G m d……」
すると、ブリッジの戸がスライドした。
「攻撃命令か?」
入るなり操船席に着いた、ぶっきらぼうな女、クリスティーナ・レオン。ゲィツの3rdだ。
「遅いぞクリス。寝てたな」
「いや……」
タンクトップにカーキ色のパンツのクリス、銀の髪を無造作に後ろで縛る。
「目覚ましに食堂で珈琲を飲んできた。あれは不味い」
思わずレイがくすりと笑う。
「レイ、笑いごとじゃない!」
「はいはい、そうですね」
レイはネットワークに接続した。
月の軌道に待機する、クロウ海賊団の戦闘艦、エステール。25000tと少し小振りだが、電子戦に長けた高機動艦だ。元は、フェスト騎士団の旗艦だったが、今では連邦を荒らす海賊船として広域手配にある。
「レイ、何故ネットを繋ぐ。攻撃命令なら、発艦が先だろう」
既にクリスは火器管制を立ち上げていた。
パルス通信の内容は、アタック、アステロイド・ベルト、ガーヘルトだ。
レイは指を左右に振った。
「こないだライツに突っ込ませた時、ガーヘルト周辺に細工してありましてね」
クリスは舌を打つ。
「お前の作戦はつまらん。ライツを変なことに使うな」
レイにとって、ライツ……雷は唯一命令出来る後輩だ。
「クリスさんはライツに甘いですよ」
「ふん。お前より可愛いからな」
コールとレイが目を見合わせた。
よもやクリスから「可愛い」などという言葉が出ようとは……。
「とにかく……レイ、準備はいいか?」
ディスプレイに、月、火星、小惑星群を巡るネットが表示された。
「いつでも!」
「よぉし、戦闘開始だ!」




