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Error&衝角(ラム)

   -翔龍姫-

 「くぅぅぅおぉぉぉ!」

 雷の口より呻きが洩れる。

 爆発するガスタンクでの急制動、そして直角に近い急上昇。連邦の技術を以てしても、この機動は無理だ。しかも、通常の慣性制御技術では乗員が全てGにより圧死であろう。

 それをこの翔龍姫は……。

 高度6000mで反転。次いで急降下。

 「京子、おい京子!」

 「……な、なによ」

 ジェットコースターを余裕で凌駕する制動加重に、それでも京子は辛うじて意識を保つ。

 「手元のトリガー、俺の合図で引け!」

 「も、もう何でもやるわよ!」

 一瞬でデスデモーナの白い機体に肉迫。

 「いっけぇぇぇ!!」



  -デスデモーナ-

 ブリッジに警報が駆け抜けた。

 「艇長ぉ!野郎、急降下してきやす!!」

 急接近する翔龍姫を前に、ザックの声は半ば悲鳴だ。

 「情けねぇ声だすんじゃねぇ!ダン、上部砲門全門開け!!」

 「やってるっつぅの!」

 「上等!」

 砲撃管制の測距儀が勢い数字を減らす。

 「よぉく引きつけろ!」

 トリガーを握るダンの手が汗ばんだ。

 「5、4、3、2、1……」


   -翔龍姫-

 相対距離500m、突如デスデモーナの上部が開放。

 「だろうと思ったぜ!」

 雷が急制動をかけた。慣性制御で打ち消し切れぬGが3人を苦しめる。

 「くぅぅ!」

 デスデモーナの上部砲門が火を吹いた。

 「っせい!」

 刹那、垂直に停止した翔龍姫が、スラスター制御で扇状に90度旋回。

 デスデモーナより放たれた砲弾は、青空へ向けて空を切る。

 通常では有り得ない機動。デスデモーナは一瞬翔龍姫の姿を見失った。

 翔龍姫の機首はデスデモーナの左舷にぴたりとロック。

 「京子、今だ撃て!!」

 激しいGに打ちのめされた京子は、それでもトリガーを引き絞る。

 と、不意に警報。そしてディスプレイの左端に真っ赤な文字が点灯した。

 Error

 「はい!?」



  -デスデモーナ-

 全クルーの呼吸が、その一瞬止まっていた。

 翔龍姫にとって必殺の瞬間、デスデモーナにとっては恐怖の瞬間。

 ……不発か?

 いや、それより。

 「ダン、グズグズするな!チャンスだ!!」

 「へい!」

 無防備な翔龍姫へ、全弾叩き込まれた。



 炎の向こうに突っ込んだ翔龍姫の映像を前に、デスデモーナのクルーは言葉を失った。

 「……なんてヤローだ」

 直撃。

 今度は文句のない直撃だ。しかし、高揚感は冷め切っていた。

 確かに当てた。当てたが、迫る高速の弾丸に対し、偶然振り上げた刀身が当たっただけ。小回りの利くバイクが、大排気量の車に機動で振り回されたような……そんな衝撃があった。

 「外洋航宙船の機動じゃねぇぞ……」

……欲しがる訳だぜ。

 ディックの背筋を冷たい汗が伝う。

 「艇長、どう、しやす……?」

 ダンが恐る恐る訊いた。

 ディスプレイに映る翔龍姫が、再び浮上。

 あの様子では、さ程ダメージを受けたとは思えない。

 「ふざけんなよ……。相手はガキ2人じゃねぇかよ」

クルーは気付いていた。艇長の震える声に。しかし、誰もそれを笑えない。皆、震えていた。

 「でも、あのクロウ海賊団、朧のジョーカーの息子ですぜ……」

 「それがどうした!ビビるんじゃねぇ、ヒヨッコどもに空の厳しさを教えてやる!!」

 ディックは勢いコンソールを蹴り付けた。

 「野郎ども!なんとしても、あの船を叩き潰すぞ!!」

 生け捕り命令などどうでもいい。面子、海賊としての面子がルーテシアの恐怖を超えた。


    -翔龍姫-

 「どういうことだよ!」

 撃墜の衝撃に頭を振る雷。

 今のは食らい過ぎた。それに、なぜ火器管制が作動しない。

 「それより、被害甚大です」

 珍しくイゾーデの声が切実だ。

 「現状は!?」

 「今の砲撃により、前部複合装甲の第1装甲板小破。15%に傷が入りました」

 「……他は?」

 「これ以上損傷があっては困ります!」

 ……おいおい。

 「航行に支障はないんだな?」

 「あれくらいで機能に支障をきたす程やわな体(船体)はしていません」

 しれっと言いのけるイゾーデ。京子がぼそりと一言。

 「被害ないじゃん」

 イゾーデが一瞬息を詰めた。

 「なんという……。王女のお言葉とは思えません!お肌(装甲)に傷が付いたんですよ!!」

 「いえ……あのね」

 「王女、貴女にもすぐ分かる時が来ます、年齢と共にお肌が……」

 「んなこたぁいい!」

 遂に雷がキレた。

 「何で火器管制にエラーが出るんだよ!!」

 きょとん、とイゾーデ曰く、

 「Saftyが解除されておりません」

 「……何だって?」

 初耳だ。

 「そこんとこ詳しく……」

 「はい、セリア様に開鍵して頂いておりませんので」

 「だから聞いてないぞそれ!!」

 「はい、言っておりません。惑星の大気圏内、それも市街地上空のことですので、承知の上での行動かと思いまして」

 雷は京子に視線を送る。すると京子は慌てて手を左右に振った。

 「知らない知らない、ホントだって」

 ……だろうな。

 「で、どうやって解除するんだよ」

 「はい、セリア王女の持つ腕輪を……」

 雷の首筋を、不意にちりちりした感覚が襲う。

 「ライツ様、敵機より……」

 イゾーデが言い終わる前に、雷は船を右舷へスライド。その左舷、正面より蒼い光芒が地を薙いだ。

 「……素粒子砲が発射されました」

 「らしいな」

 後方に火柱が立つ。

 「続けます。腕輪をコンソールの……」

 追い討ちのように砲弾が追いかけた。

 「後でいい」

 雷の口端が笑みで歪む。明らかに楽しんでいた。

 「京子、言い忘れてたけどな……」

 デスデモーナは回転半径を生かして、翔龍姫の後方を取る。

 「最近の親父の仕事は海賊だ。前の会社、フェスト王国の騎士団が倒産しちまって、転職ってこった。……クロウ海賊団、朧のジョーカー」

 「え、だって騎士って……」

 「それもホント。ただ、負ければ賊軍って言ってね」

 デスデモーナの砲撃が熄み、射線に乗った。

 「予測ですが、素粒子砲の砲身冷却終了です」

 「京子、イゾーデ、掴まってろ。海賊戦法を見せてやる!」

 「まさか……止めて下さい!」

 イゾーデの悲鳴、そして同時にデスデモーナの砲身が閃光を放つ。

 「っせい!」

 翔龍姫の機首が突然真上を向き、上昇と急減速。真下を蒼い砲光とデスデモーナが通過した。ロシアで生まれた空戦の大技、プガチェフ・コブラだ。

 「衝角(ラム)戦だけは止めてください!」

 降下角45゜。

 「いい勘してるぜ!」

 翔龍姫の機首が下方、デスデモーナの上部装甲板へ向けて急降下した。

 「いっけぇぇぇ!!」

 翔龍姫の船首が、デスデモーナの機体を貫いた。

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