↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が戦うたびに王都が壊れるので、復旧担当の俺が魔王を直しに行くことにした  作者: U2U


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/13

第4話「じゃあ、俺が行く」

あの襲撃から、五日が経った。


西街道には荷車が戻っていた。


中央水路には水が流れ、通りの店も営業を再開している。


南三番街では、あの老人が直った家の前に椅子を出していた。


グレンと目が合う。


「おう」


「ああ」


それだけだった。


老人は日向へ顔を戻し、グレンも足を止めない。


西街道では、若い局員が数人の職人を動かしていた。


道脇に積まれていたはずの石材が、三か所に分けられている。


グレンが足を止めた。


「それ、誰の指示だ」


若手が振り返る。


「自分です」


「理由は?」


「前回、一か所に置いて全部埋まりましたから」


グレンは石材を見る。


「……そうだったな」


隣のトーマが笑った。


「主任、先回りされましたね」


「いいことだ」


「悔しくないです?」


「何でだよ」


若手は笑いながら職人たちへ戻った。


その先では、西街道最後の本復旧が終わろうとしている。


石工が手を上げた。


「主任! 荷重試験、問題なしです!」


「沈みは?」


「ありません!」


「なら開けろ」


柵が外される。


待っていた荷車が一台、二台と石畳を通っていった。


トーマが息を吐く。


「やっと終わりましたね」


「ああ」


カン。


二人の動きが止まった。


カン、カン、カン――。


警鐘。


トーマが口を開く。


「主任」


「言うな」


「まだ何も言ってません」


騎士が通りを駆けてきた。


「魔王軍接近! 北西、北、西の三方向! これまでで最大規模です!」


グレンが眉を寄せる。


「いつもの倍じゃねえか」


「少なくとも!」


ほどなくアルトたちも到着した。


全員、すでに戦闘装備だ。


アルトが聖剣に手をかける。


「俺たちが出ます」


「ああ」


セリアが地図を広げた。


「私とアルトが中央、バルガスが西。エリスは避難と負傷者対応をお願い」


「分かりました」


エリスが頷く。


その横で、バルガスも地図を睨んでいた。


やがて太い指で一点を叩く。


「地下はない! 確認した!」


グレンも地図を見る。


確かにない。


「……成長したな」


「ガハハ!」


セリアが呆れた顔を向ける。


「そこ褒めるところなの?」


アルトがグレンを見る。


「できるだけ王都から離して止めます」


今度は誰も笑わなかった。


グレンは頷く。


「頼む」


四人が城門へ走る。


グレンも復旧局へ向き直った。


「こっちも動くぞ!」


局員たちが散る。


「重要資材は分けろ! 水路は緊急遮断できるようにしとけ!」


すぐ若手の声が返った。


「石材はもう三か所に分けました!」


グレンがそちらを見る。


「……そうか」


トーマが横から言う。


「また先回りされましたね」


「仕事が早くて何が悪い」


遠くで爆音が響いた。


戦闘が始まった。


しばらくして、騎士団の伝令が駆け込んでくる。


「主任! 南橋を落としました!」


グレンの手が止まる。


「理由は」


「敵騎兵を止めるためです!」


「住民は?」


「全員退避済みです。敵部隊も南岸で止まりました!」


「分かった」


グレンは橋梁班へ顔を向けた。


「戦闘が終わったら仮橋を最優先!」


「はい!」


伝令が戻っていく。


トーマが小さく言った。


「必要だったんですよね」


「ああ」


グレンは南の方角を見る。


「……でも直すの俺らなんだよ」


その直後、上空で大きな光が弾けた。


セリアの魔法と敵の攻撃がぶつかる。


王都への直撃はない。


代わりに強い風圧が街を抜けた。


「主任!」


局員が走ってくる。


「西側の送水塔が傾きました!」


「倒れるか?」


「まだ持ってます!」


「支柱三本!」


「二本でも持つと思います!」


「次の衝撃まで考えろ!」


「三本入れます!」


さらに別の声。


「主任! 西街道!」


朝まで通れていた道の脇。


本復旧を終えた石畳そのものは残っている。


そのすぐ横が沈んでいた。


トーマが顔をしかめる。


「朝、終わったばかりなのに……」


グレンはしゃがんで路面を見る。


「終わったところは持ってる」


亀裂は新しい。


「新しい方だけ止めろ。通行幅は残せ」


「はい!」


日が傾く頃、魔王軍が退いた。


アルトたちが戻ってくる。


四人とも泥と埃まみれだった。


だが、敵を王都へ入れてはいない。


アルトが被害を見渡した。


「……すみません」


「謝るな」


「でも」


「お前らが止めなきゃ、これで済んでない」


アルトは少し黙ってから、袖をまくった。


「手伝います」


「いいのか。戦った後だろ」


「放って帰れません」


「じゃあ頼む」


アルトが瓦礫へ向かう。


一つの石材へ手を伸ばしかけて、途中で止まった。


「これ、捨てない方がいいですよね?」


グレンが確認する。


割れてはいるが、まだ使える。


「ああ」


アルトが少し嬉しそうに頷いた。


「やっぱり」


「……覚えたな」


セリアが横から口を挟む。


「散々言われたものね」


「教育した覚えはない」


アルトが笑った。


「怒られた覚えはあります」


「怒ってない」


「怒ってたわよ」


セリアが即答した。


少し離れたところでは、バルガスが大きな瓦礫へ手を伸ばしていた。


一度止まる。


足元を見る。


左右を見る。


地面を軽く踏む。


それから瓦礫を持ち上げた。


グレンは何も言わなかった。



夜。


仮設机の上に復旧予定表が広げられていた。


南橋。


送水塔。


西街道。


また新しい予定が増えている。


トーマが報告書を置いた。


「南橋は明日の昼までに仮橋。送水塔も朝までには安定します」


「ああ」


グレンは予定表を見たまま聞いた。


「……これ、全部直せるんだよな」


「はい」


「時間と材料があれば?」


「直せます」


グレンは黙った。


しばらくして言う。


「で、また来る」


トーマは答えなかった。


そこへ騎士が入ってきた。


「魔王軍の撤退を確認しました。ただ、魔王城方面で再編成の動きがあります」


グレンが顔を上げる。


「いつ来る」


「分かりません」


グレンは予定表へ視線を戻した。


明日かもしれない。


数日後かもしれない。


もっと先かもしれない。


だが、撃退するたびに同じことを繰り返している。


「……もういい」


トーマが顔を上げた。


「主任?」


グレンが立つ。


「こっちで何度直しても終わらん」


アルトたちも、その声に振り返った。


グレンは魔王城のある方角を見る。


「向こうを見てくる」


アルトが聞き返す。


「向こうって……」


「魔王城だ」


全員が黙った。


セリアが最初に口を開く。


「何をしに?」


「知らん」


「知らないのに行くの?」


「だから行くんだよ」


グレンは机の上の復旧予定表を指した。


「こっちで壊れた場所だけ見てても、原因が分からん」


「何で何度も来るのか。向こうで何が起きてるのか」


一拍。


「原因の現場を見てくる」


アルトがすぐに前へ出た。


「だったら俺たちも行きます!」


「来るな!!」


復旧局にグレンの声が響いた。


四人が止まる。


「お前らが一番来るな!!」


アルトが目を丸くした。


「なんでですか!?」


「お前ら連れてったら、向こうでも直す場所増えるだろ!!」


セリアが即座に言い返す。


「敵の城よ!?」


「だからだよ!!」


バルガスが首を傾げた。


「敵の城なら壊していいだろ!」


「直すかもしれねえだろ!!」


沈黙。


アルトが恐る恐る聞く。


「……魔王城を?」


「知らん!」


グレンが吐き捨てる。


「何があるか分からんうちに壊すな!」


バルガスが腕を組む。


「敵しかいないんじゃないのか?」


「だからそれを見に行くんだよ!!」


「ああ!」


「納得するな!」


セリアが額を押さえた。


アルトだけはまだ表情を崩さなかった。


「でも、グレンさん一人では危険です」


今度はグレンも声を落とす。


「お前らは王都に残れ」


アルトが黙る。


「次に魔王軍が来た時、誰がここを守る」


四人が王都を見る。


まだ仮橋を組んでいる。


送水塔には支柱が入っている。


西街道でも作業が続いていた。


グレンは続ける。


「俺は戦いに行くんじゃない」


「向こうで何が起きてるのか、見てくるだけだ」


アルトはしばらく迷っていた。


やがて小さく頷く。


「……分かりました」


「王都は任せろ!」


バルガスが胸を叩く。


セリアが横を見る。


「今度は地面も守りなさいよ」


「もちろんだ!」


グレンは一瞬だけバルガスを見る。


「……頼むぞ」


「任せろ!」



局長室。


グレンが扉を開けた。


「局長」


ラガンは書類から顔も上げなかった。


「駄目だ」


「まだ何も言ってません」


「魔王城へ行くんだろ」


「……はい」


「駄目だ」


「理由くらい聞いてください」


ラガンが顔を上げる。


「聞いたら通してしまいそうだから、先に止めた」


「じゃあ聞いてください」


「戦えるのか」


「無理です」


「帰ってこられる保証は」


「ありません」


「却下だ」


グレンは復旧記録を机へ置いた。


「勇者たちは悪くありません」


ラガンは黙って聞く。


「騎士団も正しい」


「ああ」


「俺たちも直せます」


「なら何が問題だ」


「終わらないことです」


ラガンの表情が変わった。


グレンは復旧記録を指す。


「何度追い返しても、また来る」


「なら、何で来るのか確認する必要があります」


「魔王軍に聞くつもりか」


「話が通じれば」


「通じなかったら」


「帰ります」


「簡単に言うな」


グレンは少しだけ肩をすくめた。


「原因の現場を見てきます」


「魔王城を現場扱いするな」


「現場でしょう」


「敵地だ」


「だから確認しに行くんです」


ラガンは窓の外を見る。


橋梁班が仮橋を組んでいる。


配管班が水路を確認している。


若い局員が職人たちへ指示を出していた。


「お前がいなくても回るのか」


「回るようにしてきました」


ラガンはしばらく黙った。


やがて息を吐く。


「王都はこちらで持たせる」


グレンが顔を上げる。


「行ってこい」


「ありがとうございます」


「一つだけ条件だ」


「何です?」


「戻ってこい」


「戻ります」


「根拠は」


グレンは少し考えた。


「仕事残ってますから」


ラガンが目を閉じる。


「……それを根拠と言うのはお前くらいだ」



翌朝。


王都の門。


グレンの腰に剣はなかった。


ぶら下がっているのは、使い込まれた工具袋。


背には補修材。


鞄には測定具、簡易図面、水、保存食。


トーマがその装備を見る。


「……主任」


「何だ」


「剣は?」


「使えん」


「盾は?」


「重い」


「魔王城ですよ?」


グレンは工具袋を担ぎ直した。


「だから何だ」


城門の向こうを見る。


「現場だろ」


歩き出す。


背後では水が流れている。


南橋では仮橋の工事が進み、西街道を荷車が走っていた。


復旧局員たちは、もう今日の仕事を始めている。


グレンは振り返らなかった。


一人、魔王城へ向かった。



――第4話 じゃあ、俺が行く 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。