6.進むも戻るも死あるのみ、なら
アシェルの合図とともに爆発したのは、どこに配置した爆弾かしら。
ネイサンが被弾していないことを願うしかない。
(…………まあ、ネイサンは寝室に運んでおいたし。そこから移動していなければ、直撃はしてないはず。きっとね)
彼の無事を願っておこう。
威嚇の意味もあるのだろう。それから数発、アシェルは爆弾を爆発させた。
その度に轟音が響き、地響きがあちこちから起こる。
天井からパラパラと石壁の破片が落ちてくる。
いつ崩落してもおかしくない。
(だから、これは賭け)
私たちが逃げるのが先か。
あるいは──陛下たちと共に、私たちもまた、ここで瓦礫に埋もれるか。
私はちらりと、床に転がったままのメルンシアに視線を向けた。
十人を超えるオッドアイの少女たちはみな、その身は崩れ、魔力化した。既に魂は滅び、その肉体も朽ちていたのだろう。だけど、魔石化されたことで、この地下室に固定されていた。
魔石化が解けたことで、彼女たちは砂のように消えてしまったのだ。
だけど、メルンシアは──私の考えが正しければ、魔石化してからそう時間が経過していない。だから、肉体を保っている。
(これも、時間の問題だとは思うけど……)
何せ、メルンシアは自他ともに認めるほどに魔力量が少ない。彼女に残された時間はどれほどだろうか。
まだ意識はもどらない。そもそも、意識が回復するものなのかすらも分からない、けれど。
私は首を傾げて陛下をみた。
「彼女はよろしいのですか?彼女は不用意に魔道具に触れて、魔石化してしまった。メディリアン公爵は、ご息女を溺愛なさっていると聞きますし……せめて、彼女の肉体は、ご実家にお渡しするべきでは?早くしないと、消えますわよ。先程の彼女たちのように」
「そ──な──ッうわ!?」
陛下は、怒りのあまり口を開いたものの、言葉になっていなかった。しかも、そのタイミングでまた、爆発が起きた。パラパラと瓦礫の破片が落ちてくる。本当に、一刻の猶予もない。
爆発で、地面が揺れて、陛下がたたらを踏んだ。
「それに、この爆弾。実は、ネイサンの部屋にも仕掛けてるのです。どういうことか、ご聡明な陛下ならお分かりでは?」
「──」
私の言葉に、陛下の顔が青ざめた。
ネイサンは、唯一の子供。…………と、陛下は思っている。
だからこそ、唯一直系の血を引く王子が失われる自体は裂けたい、と思ったのだろう。
ダメ押しのように、私は言った。
「さらに、ネイサンはお休み中です。ぐっすりと♡」
アシェルが眠らせたもの。薬でね。
私が何か仕掛けたことで、王子がお休み中。そらにその部屋に爆弾が仕掛けられた──となると、近衛たちも平静ではいられなかったようで、陛下に指示を仰ぐように視線を向ける。
それに、陛下はギリギリと歯ぎしりをしていた、が。
ふたたび爆発が起きたことで、陛下は素早くその身を翻す。
「撤退だ!!!!ネイサンを保護せよ!!急げ!!天井が崩れるぞ!!」
「ハッ!!」
陛下がマントを翻して、その場を後にする。
近衛たちが続き、彼らはメルンシアを回収し、撤退した。
あっという間に、地下室は私たちだけとなった、けど。
ミシ、ミシミシ……。
パラパラパラパラ……。
大変、不穏な音がするのである。頭上から。
ミリアが、真剣な面持ちで私に言った。
「姉様。私たちも早く脱出しなきゃ!生き埋めになってしまうわ……!」
近衛たち戦力とぶつかることは避けられたけど、このままだと私たちも生き埋め待ったナシだ。
「…………急ぎましょう!」
入口あたりは、見張りを立てられているだろうけど、少人数なら、手持ちの魔道具と、ミリアとアシェルのふたりで事足りる。
私とアシェル、ミリアはそれぞれ顔を見合せ、階段を上っていった、のだけど。
私たちは、地上に繋がる扉の前で立ち尽くしていた。
既に地下の崩落は始まり、背後を振り返ると、先程通ってきた道に天井が落ちている。
あと一歩遅ければ、完全に巻き込まれていた。
「まあ、これくらいはするわよね」
地上への扉が、完全に封鎖されている。
「ていっ!やぁっ!!……うーん。だめ。なにかが引っかかっているわ。鍵に細工をされたかも」
ミリアが、大剣を振り回してガンガンと扉を攻撃するけど、鉄の扉はビクともしない。
押しても引いてもだめ。
このままだと、生き埋めに──と、思ったところで。
ハッと、なにかに気がついたようにアシェルが顔を上げた。
「…………フローラ!お前も!!扉から離れろ!!」
アシェルが珍しく声を荒らげた、と思ったら──鉄の扉を囲うように、火の手が上がっていた。
「チッ……火をつけていったのか……!」
アシェルが舌打ちをして、扉を見る。
よく見れば、鉄の扉の足元から火の手が上がっている。私たちが上がってくることを見越して、火をつけていったのだろう。
近衛のマントと、それが濃く色を変えている。その上を、舐めるように炎が走っていた。
「ゲホッ……どうする……!?姉様、このままだと私たち……!」
戻れば、生き埋め一択。
進めば焼け死ぬ一択。
そしてこのまま立ち往生すれば──一酸化炭素中毒での死、あるのみ。
既に空気は薄くなっていて、私は思わず咳き込んだ。
それから、アシェルを見る。
「…………アシェル!」
「ミリア、離れて。フローラ、結界の魔道具はまだある!?」
「っええ……!あとひとつだけ!」
手持ちで残っている魔道具は、あと三つ。
そのひとつが、結界。
もうひとつが、視覚撹乱。
もうひとつが、神経作用。
だけど、どれも先程の戦闘で使ったものなので、あとどれほどの耐久値が残っているかは不明だ。結界魔道具は……一回だけなら、保つとは思う。二回目は分からない。
そう答えると、アシェルは「十分!」と言い、困惑しているミリアに説明した。
「地下室の出入口近辺に、視覚撹乱効果のある爆発魔道具を隠しておいた。ほら、お前が作ったやつ」
ミリアのアイスキルは、能力付与。
だから、私が持っている魔道具のほとんどは、彼女が作ったものだ。
アシェルの説明に、ミリアは頷いた。
「でも、あれって……」
「今は話してる時間が惜しい!良い?フローラ、三つ数えたら、魔道具を!」
「分かったわ……!!」
既に火の手は私たちの膝あたりまで伸びていて、酸素は薄い。呼吸をするだけで、咳き込んでしまう。手で口を覆いながら、私とミリアは頷いた。
アシェルは、空気が薄いために、荒い呼吸を繰り返しながら、カウントダウンを始める。
「いち」
「に」
「…………さん!!」
その瞬間、私は結界の魔道具──親指にはまる指輪に触れて、ありったけの魔力を込める。眩い光がこぼれると共に、扉の向こうで、轟音。
地響きが起きた。




