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【書籍化企画進行中】公爵令嬢フローラの選択  作者: ごろごろみかん。
4.公爵令嬢フローラの選択

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5.さながらヘンゼルとグレーテル

「国のために喜んでその身を捧げよ、と?では、そう仰るから、御身自らその手本を示してくださるのですよね?」


「話にならんな」


吐き捨てるように陛下が言って、私は自身の考えが正しかったことを悟る。


つまり──


「やはり、あなたは、いいえ。あなたたちは、私を──夜明けの花嫁を、同じ人間として見ていない。あなたたちにとって、私たちは、ただの部品。魔道具を動かすための素材に変わりないのでしょうね」


だから、私たちの意志など、あってないようなものだと、言うのだろう。


「よく分かりました。話にならない、というのは私も同意見です。その上で、言いますが──ひとをバカにすのも大概にしていただきたいものだわ。無自覚の侮辱は、自分の品格を貶めるだけよ」


「なっッ……!!ッ近衛!!何をしている!?早くこの女を捕らえよ!!もはや、怪我の有無は問わん!!命さえあれば、何をしてもいい!!早く──」


「あら。陛下はご存知ないのですか?」


陛下の言葉を遮るように、私は笑みを浮かべた。


「あなた方はなぜ、私を夜明けの花嫁に選出なさったの?……私が、色違いの瞳(オッドアイ)だからではなくて?」


私はそっと、自分の目に触れた。

色違いの瞳。それは、アイスキルがふたつあることを示している。記録を見る限り、オッドアイを持って生まれた人間はみな、魔力維持と、魔石探索のアイスキルを所有している。

陛下は固唾を飲んで、私の話を聞いていた。

手で、近衛たちの動きを制している。


いちか、ばちか。


私はちらりと、アシェルに視線を向ける。

意図を理解して、アシェルが微かに頷いた。


「そう。私の持つアイスキルのひとつ。それは魔力維持。…………分かりますか?先程、私と同じオッドアイの女性十人の魔力が霧散しました。その魔力を全て、私が吸収した、としたら」


その場合、私の保持する魔力量は、ネロワローの国民全員に相当する、といっても過言ではない。


(その場合、だけど)


そう。普通に考えて、ひとりの人間が、自分の持つ魔力値×十倍を吸収できるはずがないのだ……!!


つまり、これは完全なハッタリ。

ここは地下で、魔道具のほとんどを先程の戦闘で使い切ってしまった。


客観的に考えて、普通に戦ったら私たちに勝ち目はない。だけど。


地下(ここ)に来る前に、万が一に備えて、奥の手を用意しておいた。

いざとなれば、それが時間稼ぎに使えるはずだ。


「ふふ。では、始めましょうか。十名の魔力維持(マナ・ホルダー)の魔力を吸収した私と、持久戦といきましょう?」


挑むように言って、私は魔石探索のアイスキルを使用する。左の瞳から、仄かな青い光を纏った蝶が次から次に、踊るように現れた。

それに狼狽えたのは、近衛騎士だ。

彼らは、間近で魔力探索のアイスキルを見たことがない。だから、この蝶は前哨戦のひとつだと考え、警戒しているのだろう。

陛下は私の言葉が真実かどうか探っているようで、鋭く私を睨みつけていた。


「…………よい。どちらにせよ、貴様には務めがある。ネロワローのために生きて死ぬ義務と、そして、祭壇を破壊した責任を、取ってもらう」


「ふふ。首に縄でもつけて、言うことをきかせますか?そうすれば、命を魔石化した時に比べれば、量は落ちるかもしれませんが、使い勝手がいいですものね」


私のアイスキルは、言ってしまえば魔力(魔石)を発見、吸収、そして保持する能力。


だから、王家は遠征の時にでも、私を連行させて、自前で魔石を調達させ、その魔力を使用させれば、私を魔石化させるより扱いやすいと考えたのだろう。

問題は、どうやって言うことを聞かせるか、だけど。そんなもの、いくらでも手段はある。


たとえば、脅迫。

一番手間がかからない方法だわ。

アシェルやミリアを人質にされら、私は従わざるを得ないもの。


それがわかっているからこそ、ここで負けるわけにはいかない。捕まるわけにもいかない。


それに。


「絶対にこのことは公にします。王家が、このような恐ろしいことをしていた、と」


私の宣言に近い言葉に、陛下は失笑した。


「ハッ!ハハッ…………ハハハハハハ!何を言うかと思えば……!!口だけは達者な女だな!道具として生まれ、道具として育った割に、生意気な!」


明らかに私を侮辱した言葉に、ミリアとアシェルが動きかける。

今度は私が彼らを手で制止する。


ミリアが抗議するように僅かに動いたけど──まだ。後、少し。

私はアシェルに視線を向けた。


後、もう少しだけ。


(騎士たち(彼ら)がこっちに踏み込んだら)


その時は。


「…………やれ!」


陛下が近衛をけしかけたのと、私がアシェルに合図を出したのはほぼ同時。私の頷きに反応して、アシェルが手をかすかに動かした。


次の瞬間。


ッドオオオオン……!!


という、激しい重低音が聞こえてきた。

それも、頭上から。


「なっ──!!」


これには流石の陛下も予想外だったのだろう。目を見開き、咄嗟に後退する。近衛騎士も同様だ。


私は、唖然とする陛下を見据えて、不敵に笑みを浮かべた。


できれば、この手は使いたくなかった。

なぜなら。


「あらあら……。どうしたのかしら?どこかで爆発が起きたみたい」


ゆっくり、私は首を傾げて、自身の顎に指で触れた。


「そう──。まるで、上の方で、爆発が起きたみたい。……どうなさいます?」


そう。これは賭け。


(一歩間違えたら私も、アシェルも、ミリアも死んでしまう一か八かの賭け……!!)


先程の『十人分の魔力持ってますけど』というデタラメは、もしかしたらこれに引いてくれたりしないかしらねー?という微かな希望を持っていたけど、きっとこれでは引かないだろうと考えていた。

だからこそ、アシェルと相談したのだ。

ネイサンの部屋を出る、直前に。





時は、今から1時間ほど前に遡る。


『今から地下に行くわけだけど……万が一に備えて、保険が欲しいわ』


儀式の祭壇は必ず破壊する。

だけど、破壊した後に、万が一、王国軍と鉢合わせしたら?手持ちの魔道具だけでは、不十分だ。何せ、こらちの人数は私とミリアとアシェルの三人。圧倒的人数不足。


『最悪のケースを考えて……逃げ道を確保しておきたい』


相談した私に、アシェルがそれなら、と言った。

首を傾げて、ふんわりと微笑んで。


『僕にいい案があるよ』



その、案、というのが。

魔道仕掛けの爆弾を仕掛けていく、というもの。ネイサンの応接室から始まって、そのまま私たちがたどってきたルートにそうように、爆弾を配置している。

さながら、ヘンゼルとグレーテル。

こんなヘンゼルとグレーテルは嫌だ。




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