2.賛美歌
(しかも、一体や二体じゃないわ……)
一、二、三、四……。
ざっと十体ほど。
それはガラスでできているようで──
「…………!!」
その時。
どこからか、何か、音、が──
「姉様、下がって!!」
すぐにミリアとアシェルが反応して、身構える。
アシェルはダガーを、ミリアも短剣を手に持っている。
先程近衛騎士から奪取したものかしら……。
そんな考えが頭の片隅を過ぎったけれど、すぐに思考は違うこと。レッドカーペットの奥。
説教台の向こう……パイプオルガンへと視線は向いた。そこから、音楽が流れ始めたのだ。
もちろん、演者はいない。それでも、勝手に音楽は流れていく。まるで、誰かが弾いているかのように。
これってこれって、これって!!
「ホラー現象……」
ってやつじゃない!?
(えええ!?ここにきてホラー現象とか勘弁して欲しいのだけど!?!?)
確かに、儀式(笑)とか不穏にも程があるけど、でも、まさか、ホラー展開が待ってるとか思わないじゃないの!!!!
えええ。どうしましょう。
ここに、なんか、こう、アレなものが封印とかされてて!!
それに生贄を捧げてて!!
ここに足を踏み入れたが最後!お前も蝋人形にしてやるー!みたいな、そういう、ホラーゲームみたいな展開だったら!!
(私、ホラー耐性ないのよ!?!?)
グロ耐性もないけど!!
だって、ホラーゲームの敵役?お化け?って、物理攻撃が効かないじゃない!!
オマケになんか、だいたい地の利は向こうにあるし!!
私、原作では、階段あたりで救出されてるから、ここでどんな儀式が行われているのか知らないのよ!!
ここで化け物に食わせる系のやつだったらどうしましょう!?
や、やっぱりネイサンを生贄に捧げるしか……。
と考えていたところで。
ミリアが注意深く前方を警戒しながら私に尋ねた。
「?何か言った?姉様?」
「ななな、なんでもないわ。それより、この曲……」
そう。今も流れてるのよ。例の曲。
「チャペルの賛美歌だね。よく流れてるやつだ」
「…………」
怖。
誰もいない地下の教会を模した地下室で、賛美歌が流れるとか、何のホラー映画?ゲーム?
ごめんなさい。帰りたいです。
とは、絶対に言えないので、私は
(ここにいるのはお化けではない、はず。お化けがいたとしても、こう、なんか、撃退術があると願いたい。そう、祭壇。あれを壊せばオールオーケーのはず。そうであってちょうだい……!)
と願いながら、深呼吸をして平静を試みた。
若干、不安の残る結果とはなったけど、多少、落ち着いた。
しばらく待ってみても変化はない。
ミリアが武器を下ろすが、アシェルは変わらず武器を携えたまま、周囲に視線をくばっていた。
「あ、ら……?」
その時。ふと、左目のアイスキル──魔力探知が反応するのがわかった。
左目が……疼く!とか、厨二病真っ只中みたいなことを考えている余裕もなく、私はその理由を探す。そして、答えにいきあたった。
まさか。
「──」
動揺と衝撃のあまり、思わず目を見開いて、周囲に視線を配る私にアシェルが気がついた。
「どうしたの?フロー……」
しかし、アシェルが私を呼ぶより先に、ミリアが鋭い声を上げた。
「姉様、あれ……!」
「……!」
ハッとしてそちらを見ると、パイプオルガンの手前。
説教台の下。
まるで、台に被さるようにしてひとりの女性が倒れていた。
薄い茶色の髪。ふわふわの髪は幻想的で、フリルをふんだんに使った白のドレスを着ているのは──
「メルンシア……!?」
どうしてここに、という疑問と、彼女の様子がおかしいことに動揺が走る。
気絶……してる?
でも、いつから?
だって、メルンシアが行方不明になってから、一日以上が経過する。
彼女はその間、ずっとこのままだったの?
すぐにミリアが近づいて、彼女の手を取ろうとしたけど、それは失敗に終わった。
なぜならミリアの手から、それははつるりと滑り落ちたからだ。
まるで、陶器のように。
かつん、と彼女の手が、説教台にあたり、音を立てる。その音はもはや、生身の人間のものではない。
「──!姉様」
「ええ。……この蝋人形。もとはみな、人間だったみたい、ね」
私の返事に、ミリアが動揺した気配を感じた。アシェルは変わらず周囲に視線を走らせている。
私は、レッドカーペットを挟むように、間隔を開けて並べられている蝋人形をそれぞれ見ていった。
そして、共通点に気がつく。
彼女たちはみな──
色違いの瞳を持っている。




