1.祭壇の秘密
地下に続く階段を降りていると──
「いたぞ!ここだ!!」
「地下へは入らせるなと、陛下の仰せだ!!」
「【夜明けの花嫁】以外は殺しても構わんとのお達しだ!急げ!!」
背後から、大声が聞こえてきた。
「…………!!」
「見つかったみたいだね」
「姉様、どうする?迎え撃つ?」
ミリアに尋ねられて、私は直ぐに回答を出した。
「追ってこられたら面倒だわ。ここで、眠っていただきましょう!」
ようやく、家から持ち出した魔道具の出番だわ……!
「多そうだよ。十……いや、百はいるかも」
アシェルの静かな声が聞こえて、ミリアが魔力灯の光量を絞る。階段で戦闘は分が悪い。かといって、何があるかも分からない階下に急いで降りるのはもっと危険。
少し考えた私は、風を起こす魔道具を手に取ると、それを起動させて──
「わぁっ!?」
「何だ!?」
メルンシアの白いリボンを飛ばした、地上に。
予想通り、突然飛んできたリボンに動揺した近衛達がそれに気を取られている隙に、次々と私は魔道具を起動させていく。
地面に着地した瞬間、激しい揺れを起こす魔道具(私はこれをトランポリン化魔道具と呼んでいる)。
甲高い周波数を響かせて、聴覚を攻撃する魔道具。
砂煙が上がって、視覚を乱す魔道具。
アンクレットから、ブレスレット。ネックレスから髪飾り。そのような形の魔道具を次から次へと起動させて、その間にミリアとアシェルが、階段を登って、魔道具に気を取られている近衛騎士を打ち倒していく。
魔道具を起動させながら私が階段を登り終えたころには、だいぶ近衛たちの数は減っていた。
彼らは、私が城にいるとは知らなかったのだろう。目を見開いて驚いていた。
「おっ……お前は……!」
「あら。お前、なんてずいぶんな挨拶だこと」
私は、指輪の形をした魔道具──これは旋風が起きる、というもの。間隔を開けて、何度も突風が吹くのだ。この間隔というものが厄介で、術者の指定によって異なる。慣れるまでに時間がかかるし、慣れる前に隙をつかれることがほとんどだろう。
「陛下が仰ったの?地下には行かせるな、と」
「フローラ・L・ローレンシア!国家反逆罪であなたを捕縛する……!抵抗すれば、罪は重くなる!」
「それこそ今更だわ。私はもう、ローレンシアの名を捨てるつもりだし、社交界に戻るつもりもない。お尋ね者になっても構わないの。それより、今はご自分の身を心配した方が良くてよ?」
新たに魔道具を起動させようとした時。
誰かが叫んだ。
「じき、魔道具の稼働は止まる!こんな量を動かしてるんだ!すぐに魔力切れを起こすはずだ!」
「──……」
その言葉に、活気を取り戻した近衛騎士たちが、ミリアとアシェルに応戦する。数では、圧倒的に私たちが劣る。魔道具があって、何とか五分五分……というところだろう。
確かに、この数──ざっと、十を下らない魔道具を同時稼働させたら、それはそれは、魔力の消費はとんでもないことになる。
だけどそれは──。
「ふふ。そうね。普通は、そうなのでしょうね」
私は、指に嵌る指輪──これも、魔道具のひとつ。それに触れて、微笑んだ。
「だけど、私は【夜明けの花嫁】だもの」
夜明けの花嫁──儀式の生贄に、私が選ばれた理由は色違いの瞳だから。
そして、私は色違いの瞳にそれぞれアイ・スキルが宿っている。
ひとつめは、魔石探索。
これは、文字通り魔石を探知するもの。
そしてもうひとつが、魔力維持。
こちらも、文字通り、魔力を吸収できるもの。制限はない。容量はない。
だから──家を出る際、魔石を魔力に変換して、私の体内に収めることも可能だし。収めた魔力をこのようにして、放出することも可能。
つまり──
「残念!姉様の魔力はほぼほぼ無限よ!」
ミリアが、説明するようにそう言って、相対していた近衛騎士を打ちのめした。
「あら……」
本当に大剣使うのね。
ミリアが手にしていたのは先程見たものではなく、恐らくは敵の近衛騎士から奪取したと思わしき大剣だった。
それの柄で相手のこめかみを殴打したミリアは軽々と舞うと、その近くにいたアシェルの肩に手を置いて、またふわりと飛ぶ。
その動きはあまりに鮮やかで、まるで何かの演武のようだった。
流石、双子。息があってる……!
と、思っていたら。
「うわっ!いきなり踏み台に使うなっていつも言ってるだろ……!」
「ちょうどいいところにいたん、だものっ!」
アシェルも突然踏み台にされたことに驚いたらしい。
私が駆動している魔道具は、全部で十六台。
その全てが、視覚、聴覚を乱すもので、さらに足底感覚すらも狂わせるのだから、対魔道具慣れしていないひとは、まず全力を出し切れない。
特に、近衛騎士は魔道具の扱いに慣れていないひとが多いと聞く。
だいたい、魔導師相手との戦闘は、王宮魔道士と連携をとるものね。
それに加え、私の稼働する魔道具は、魔力切れを起こさない。持久戦になれば、勝ちは見えている、というもので──。
ものの十分もしないうちに、勝敗は決した。
「ふう……良かった。長引けば、面倒なことになっていたわ」
あまり騒ぎになると、応援が駆けつける可能性がある。
まだ、ネイサンが昏倒させられたことは気付かれていないのだろう。
私たちは互いに顔を見合せた。
そして、近衛騎士たちに薬を嗅がせて、深い眠りに落としたあと、私たちは再び地下への階段へと足を向けた。
真っ暗な階段を降り、降り立った先には、木の扉がぽつんとあった。鍵はない。
だいふ昔のもののようで、木の扉は傷んでいた。
アシェルが先頭にたち、私たちにひとつ頷いてから、一気に扉を開ける。
「……っ!?」
「──」
「これ、は……」
扉を開けた先。
そこには、思わず、息を呑んでしまう光景が広がっていた。
地肌が剥き出しになっている岩壁に、地面。
そこは、広間のような造りをしていた。
あちこち綻びが見られるレッドカーペットが敷かれ、その先には──。
「悪趣味だね」
ぽつりと一言、アシェルが零した。
まるで教会を模したよう。
だけど確実にひとつだけ異なっているのは。
レッドカーペット。バージンロードの両脇に置かれているのは会衆席ではなく。
妙齢の女性の──蝋人形だった。




