↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】公爵令嬢フローラの選択  作者: ごろごろみかん。
3.チェックメイト、ですわね

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/39

10.メルンシアの行方

「あなた方は、私をひとりの人間として見ていないのね。だから、反抗されると腹を立てる。違う?」


「ど……うして、それを、お前が!」


「どうしてかしらね?まあ、もっとも──誰かの犠牲で成り立つ国家なんて、必要ないんじゃないかしら。……というのが、私の考えなのだけど。どう?」


「な……お前、何を言って?」


唖然としたようにネイサンがこちらを見る。

だから私は、ふたたびにっこりと笑みを見せた。


「だから──犠牲の上で成り立つ国なんて、なくなってしまえばいいのではない?って、思うのだけど。ぜひ、王太子殿下のご意見も聞いてみたいところね」


「な……ネロワローという国を、潰すつもり……か?」


ここになって、ようやくネイサンは私の言葉を理解したらしい。顔を蒼白にして、彼が信じられないものを見る目を私に向けてくる。


「そんなことしたら、罪のない民まで巻き込んでしまう。そんなことはしないわ。ただ、もう二度と、儀式なんかできないようにする必要はある、と思っているわ」


「何を……するつもりだ!?」


「それは、起きてからのお楽しみ♡……ということで、ハイ、お喋りはここまで。起きたらきっと、世界が変わっているわ。ねえ、アシェル?」


振り返って彼を仰ぎ見れば、アシェルが頷いてポケットから取り出した小瓶を、ハンカチに湿らせているところだった。

それを見て、何をされるか察したのだろう。ネイサンが大声をあげようと息を吸ったが、彼が叫び出す前にアシェルが手に持っていたハンカチを、彼の口元に押し当てた。


「ンンンン!ンン!!」


「ああほら、暴れると薬の周りが早くなるわよ?まあ、熟睡はできるでしょうけど」


「ンンーーー!!ンン!!」


ハンカチに染み込ませたのは、発揮性のある眠剤だった。チラ、と視線を向ければネイサンはあっという間に夢の中。


「おやすみなさい、いい夢を」


これで、王手(チェックメイト)。



眠りに落ちたネイサンの寝顔からは──過去の面影を感じさせた。

あどけない寝顔は、意図せず昔の記憶を呼び覚まさせる。


(もし──)


だから、かしら。

つい、考えて、しまう。


もしかしたら、の未来。


彼と、笑い合える日々も、有り得たのだろうか……なんて、ね。


思わず考えてしまうのは、知っているから。


ネイサンと過ごした日々は、最悪の一言だった。

何が最悪かというと、最悪な日々にでも、楽しい出来事もあった、ということ。


誰しも、そのひとを嫌いになる時、ふとした時に……そのひととの楽しい記憶もあったことを思い出してしまうのは……あることなののではないかしら。


きっとこれは……この感傷を抱くのは、私だけではない。そう思う。



『ねえ……!ネイサン、どうして私にチューリップの……ブーケを?』


『だって、きみは、チューリップが好きなんでしょう?』



他愛のないやり取りを、思い出してしまう。

あの時はただ純粋に、他意もなく、想っていたから、こそ。


「…………はぁ」


私はため息を吐いて立ち上がった。


過ごした時間が長ければ長いほど、想起する出来事も自然と多くなる。


だけど、それはそれ。これはこれ、だわ。


許せないことは、許せないもの。


私はネイサンが大嫌いになった。

何より、ミリアを巻き込んだことが心底許せない。


それはもう、理論とかを超越した何か。感情論だ。


だけど──だからといって、過去、彼を想っていたフローラ(わたし)まで蔑ろにする必要は、無い。

私に必要なのは記憶の整理、というラベル貼り。


昔の記憶を、過去の私が抱いた感情を、その日々を、ぐちゃぐちゃにする必要は無い。

自らの手で壊す必要は無い。


ただもう、思い返したりしない。

ちゃんと、整理し終えたから。

ラベルは貼った。




「恋愛感情って、本当厄介」


ぐっと腕を伸ばして、呟く。


「なんでこんなひとを好きだったの?とか、正気に戻った時のショックが激しいというか……。そもそも恋愛自体、正気を失わないとできないわよね」


と、オモワスそのようなことを口走っていた。

だってもう、色々と信じられない。恋は盲目、とはいうけれど、今まで見て見ぬふりをしてきた違和感を、きっと私は奥底に沈めてきた。


今思うと、どうしてあの時ああしなかったの?とか。

ああ言えばよかった、とか、後悔が次から次に湧いてでる。


「……そういえば、あなたたちは、想うひととか、いないの?」


どちらの話も聞いたことがない。


ふたりは、婚約の話が出ても断っていると聞いた。

実はいいひとがいる可能性もある。


そう思ってアシェルを見ると、アシェルはアシェルでなにか考え込んでいたらしい。ハッとしたように、彼が私を見る。


「……アシェル?」


「ああ、いや。……そろそろ行こう?ミリアが痺れを切らしてるかも」


「ええ、急ぎましょうか」


(うーん……?)


今、明らかに話をそらされた、ような気がする。

けど。気のせいかしら?


いや、と私は思い直す。


(アシェルは今年十七歳。多感な時期だし、あまりこういう話はしたくないのかも)


姉弟とはいえ、こんな時に聞く話でもない。


私はひとり、反省会を開くのだった。


そこで、ハッと思い出したことがあって、顔を上げる。

私は、既にバルコニーに足を向けていたアシェルを呼び止めた。


「ねえ、アシェル」


「どうしたの?」


「今から地下に行くわけだけど……万が一に備えて、保険が欲しいわ」


私の言葉に、アシェルは私の意図を理解したようだった。




☆




城の警備兵の姿は見えない。

廊下には誰一人姿が見えないので、もし何も知らない第三者が足を踏み入れたら、その異様さに戸惑うことだろう。


予め予定していたルートで降りると──


「っあ!姉様。おかえりなさい!」


壁に背を預けたミリアが、私たちに気がついてにっこりと満面の笑みをうかべた。


「ミリア……!無事でよかった。怪我はない?」


尋ねると、ミリアは満面の笑みを浮かべて答えた。


「もちろん!相手は、実戦経験の少ない兵隊よ?取るに足らないわ」


得意げに言うミリアを、上から下まで怪我がないか確認するように見つめる。確かに、怪我はしていないみたい。

それより、気になったのが──


「……それはミリアの武器?」


首を傾げると、ミリアは手に持っていたそれ。

刃先が柔らかく、柔軟性に優れている武器は、目にしたことがない類のものだった。尋ねると、ミリアが、武器に視線を落として答える。


「これ?私の獲物!ウルミ……っていうの」


「ミリアは、こう見えて武闘派だよ」


アシェルが続けて言う。

ミリアがウルミ……という武器を丸めてコートの内側に収納するのを見ながら、アシェルは続く地下への扉を確認する。


「僕は長剣より短剣派。大剣(ロングソード)より、短剣(ダガー)派。だけどミリアは全部逆」


「そうなの……!?」


この細腕の、一体どこにそんな力が……??

困惑してミリアを見ると、ミリアは少し気恥ずかしそうに頬を染めた。


「巡回の近衛がそろそろ来るかもしれない。急ぎましょう」


声をかけると、ふたりとも頷いて答えた。

ちらりとアシェルに視線を向けると、先程の相談の通り、アシェルが仕掛けを施す。


それから──ゆっくりと、私たちは階段を降りる。

地下への階段は真っ暗で、魔力灯がなければ、降りるのは困難だっただろう。


「こ、こわぁい……姉様……」


「お前、いつもこのくらい──」


「こわあい!!くっついてもいい!?」


アシェルが何か言いかけた言葉を、ミリアが大きな声でさえぎった。アシェルが何を言いかけたのかも、ミリアが甘えたがっていることも把握した私は、それを微笑ましく思いながらくすくすと笑みをこぼす。


「いいけど、足元には気をつけてね。下が見えないから、なおさ──……」


最後まで、言葉は音にならなかった。


なぜなら、見てしまったから。

魔力灯で照らした足元──進行方向に、見覚えのあるものが、落ちていた。


白のリボン。


あれは──メルンシアがいつも、身につけているもの……ではない?


息を呑んだ私に、アシェルとミリアも続けて、私の視線の先を追う。

それから、ふたりとも、顔を険しくしたよう……だった。


「あれ……メルンシアのものよね」


硬い声でミリアが言う。

アシェルが声を潜めて、続けた。


「どうして彼女が地下に向かったかはともかく……気をつけて進んだ方がいいみたいだね」


アシェルの言葉に、私もミリアも、頷いて答えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。