4.メルンシアはどこに
その日は、茹だるような暑さだった。
(あ、暑い……!!)
このままだと茹で上がる。
ネロワローの夏は厳しい。
夜は逆にすごく冷えるので、砂漠のようだ。
暑さにヘロヘロになりながらも、私は準備を進めていた。
ソファに座って、双子があれこれと話す。
「やっぱりここは派手に陽動を起こそうよ」
「せっかくなら、あの王太子に痛い目を合わせたいわ。ここは下剤でも仕込むとか」
……お茶の用意で少し席を外していただけなのに、戻った時には既に不穏な会話が繰り広げられていた。
一体、どこからどうその話に繋がったのか。
最初、ことを荒立てないで進めましょうといったはずなのだけど、現在その真逆を爆走している。
双子は血の気が多い。
このままだとネイサンの身と名誉が危うい。
「神経系に作用するのはどう?痺れくらいならセーフだろ」
「下剤に、痺れ薬?事故が起きないかしら」
「それなら、下剤はやめて食あたりにすればいい。腐ったもん混ぜれば、地獄を見るだろ」
「即効性がないと意味ないわよ」
私は、双子の前に、それぞれコップを置いた。
裏の庭で取れたハーブを使ったハーブティーだ。
「はい、お茶が入ったわよ。ミリア、アシェル。ネイサンに薬を盛るのはやめましょうね。腐ったものもね」
「ありがとう姉様!……どうして?」
ミリアは自分の前にサーブされたカップを手に取ると、可愛らしく首を傾げて見せた。
ううーん、その姿はとても可愛い。
可愛いのだけど。
「私たちの目的はあくまで、地下の探索。王太子殿下に薬を盛ったことがバレたら、王家への叛意ありと見られて、拘束されてしまうわ。今捕まるわけにはいかないでしょ?」
今回の作戦、もとい目的はあくまで魔道具の確認。祭壇を破壊するにしても、それをしたのが私たちだと気付かれるわけにはいかない。
地下の情報が不足している今、深堀するのは危険だ。
今回は、魔道具から情報を得たら、速やかに撤退するべきでしょう。
「確かに、姉様の言う通りだわ。あの王太子殿下には一泡吹かせてやりたいけど……時期尚早ということでしょ?」
それに、アシェルが足を組んで言った。
「というか、もう彼を生贄に捧げればいいんじゃない?」
「え!?」
「は!?」
私とミリアの声が揃う。
それに、アシェルは眉を寄せて疑問を口にした。
「それとも。男は生贄にはできないって決まってんのかな」
「で、できないんじゃないかしら。捧げるのは王家の花嫁と決められているらしいし──」
大胆なことを言うアシェルに、正直私は面食らっていた。ネイサンを生贄に、なんて考えたこともなかった。
それは、ネイサンが男性だというのもあるし、王家の人間を捧げる発想がなかったためだ。
それに、アシェルが首を傾げた。
今日もさらさらの黒髪が、アシェルの胸元に滑り落ちる。
「生贄には王家の花嫁を……って話らしいけど。そもそも、略奪したのは初代国王だろ?なら、そいつが贖罪するのが筋だと思うけどね」
それに答えたのはミリアだ。
「伝承の話?確かに、元々、娘と太陽神は愛し合っていたらしいし、裏切ったのが娘なのか、奪ったのが国王なのか。それで見方は変わるわよね」
「娘にばっかり罪を背負わせるのもどうかと思うよ。娘が悪いって言うんなら国王も同罪だろ。なら、ネイサンにも生贄役の資格はある」
アシェルの言葉に、ミリアは「ふむ」と顎に手を置いて考え始めた。
だけどパッとなにか思いついたように顔を上げる。
「……あらっ!?それってつまり、私たちにもその資格があるってことじゃない!?」
「そーいやそうだったな。忘れてたよ」
本気で忘れていたとでも言うようにアシェルが冷静にコメントした。
それに、ミリアも深く頷く。
「いえ、アシェルの気持ちもわかるわ!私も、自分のこと王家の人間とは思ってないし!」
と、天に向けて拳を突き上げ、ミリアは強く宣言した。
(……ふたりは、物心ついた時にはオー・ヴォワールにいたということだし)
王家の人間という意識が薄いのかもしれない。
ミリアは続けて言った。
「正直、あの家と関わり合いになりたくないのよ!あの家の血が、私にも流れてると思うと、ゾッとするわ!!」
ミリアの気持ちもわかるけど──
このままでは、話が逸れてしまいそうだ。
私は咳払いをして、ふたりの意識をこちらに向けることにした。
「ゴホンッ、とにかく、ネイサンを捧げられるかどうかはともかくとして」
「女のように着飾らせればいいんじゃないかしら。捧げるのは太陽神なんでしょ?上辺だけ取り繕えば分からないわよ!」
「……………とにかく!ネイサンを捧げられるかどうかはともかくとして!」
一瞬、女物のドレスに身を包み、化粧するネイサンを想像しちゃったじゃない……!!
私は強く言い、話題転換を試みた。
「まず第一に、魔道具の確認。第二に、祭壇の破壊ね。決行日を決めましょう。決行は──」
私がそこまで言った時。
「待って、姉様」
「姉さんこっちに」
ミリアがその口元に人差し指を当て、アシェルが私を引き寄せた。
「どう──」
したの?という言葉は、大きな物音に遮られた。
──ドンドン!!
玄関の扉がノックされる音……じゃない!
これはノックとは言わないだろう。
こんなに荒々しく、物々しいのだから。
瞬時にミリアとアシェルの目が鋭くなった。
私は常に身につけている魔道具を確認してから、扉に向かおうとした、その時だった。
扉の向こうから、大声が聞こえてきた。
「フローラ・ローレンシア!!お前をメルンシア・メディリアン公爵令嬢誘拐事件の首謀者とし、拘束する!速やかにこの扉を開けよ!!」
(…………はぁ!?!?)
玄関に向かおうとしていた足が、思わず止まった。
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