3.誰にとっても予想外な
私が首を傾げると、ヴァレシスは呆気にとられたようだった。
「そ……そうですか。いえ、確かにその通りです。ですが、そのような案も、あるのですね。予想外で驚きました」
ヴァレシスは困惑したような、戸惑っているような顔をしながらも、納得してみせた。まるで、肉を食べたと思ったらよく出来たコンニャクだった、みたいな顔だ。
ミリアが後ろ手に組んで、私に視線を向ける。
「姉様って、意外に土壇場に強いわよね?覚悟が決まっているって言うか」
「そう?」
「ええ。……前はその覚悟が自己犠牲ありきに見えたから……心配してたんだけど……。でも、今の姉様はそんなことないわよね?安心してついていこうって気になれるもの」
「──」
ミリアの言葉に、私は息を呑んだ。
不安げな彼女の桃色の瞳を見つめ返して、私は微笑みを浮かべた。
「もちろん。頼ってくれていいのよ?」
そう答えると、ミリアは安心したように笑った。
「……ええ!」
それから、思い出したように言った。
「それで。儀式の祭壇を壊すとしても、問題はどうやって忍び込むか、よね?」
「それは僕とミリアでやればいいんじゃないの?そういう潜入は僕らの得意分野だろ」
「え」
私はアシェルとミリアに頼るつもりはなかった。
自分ひとりでやるつもりだったのだ。
驚く私に、ミリアが顎に手を当てて考える素振りを見せた。
「それはそうなんだけど、でも、警備が尋常じゃないのよ。前にちらっと見たけど……配置してる魔道具の数だけでも異常よ」
「え?ええ!?いや、待ってその前に。あなたたち、もしかしてふたりで行こうとしてる!?そんな危ないことさせられないわよ……!」
儀式の場に忍び込み、もし見つかったら。
公爵家の人間だとしても、死刑は免れない。
(王家は、理由をつけて殺すはずだわ)
口封じのために。
だから、そんな危ないことを双子にして欲しくはなかった。
だけど私の言葉に、ミリアも、そしてアシェルも半目になった。
そこで、ヴァレシスが控えめに微笑んだ。
「…………ふふ。姉君であるあなたの気持ちは、私には分かりますよ」
「ふたりが優秀なのは知っているわ。長年オー・ヴォワールに席を置いていることも。……でも、だからといって安心なんてできないわ。心配なの」
「それは私も同じよ!それに姉様!忘れているかもしれないけど、今回の件、私だって当事者なのよ!?それなのに、全部姉様に頼り切り……なんて、したくない。もし……もしもよ?これが逆の立場なら、姉様は大人しく待っていられる?」
「…………それは」
できないと、思う。
私が押し黙ると、ミリアが得意げに笑った。
「でしょう?」
「…………」
でも、ミリアは私の妹で、アシェルは私の弟だわ。
私にとって、ふたりは何物にも代えがたい宝物だ。
そんなふたりを巻き込むことを、私は躊躇していた。
アシェルが深くため息を吐いた。
「はあ~~~~姉さん。もし、姉さんが反対しても僕らは勝手に行動するよ。あのね、僕らは守られるだけの存在じゃないし──」
ズイ、とアシェルが顔を近づけて言った。
「僕たちも、フローラ。あなたを守りたいと思ってるんだよ」
「……!」
アシェルに名前を呼ばれるのは、これで何回目だろう。
驚いて目を瞬いていると、ニョキッとアシェルの横にミリアが顔を出す。
「そうよ、姉様!私たちは姉様が大好きなんだから。私たちの意志を無視しないで!」
それに、びっくりした。
大好きという言葉に驚いたのではない。
意志を無視しないで、と言われたことに、だ。
ふたりは、ふたりの意志で、私のために動いてくれようとしているのだ。
急に、胸が痛くなった。
鼻の先がツンとして、言葉につまる。
優しさが、嬉しくて。
あたたかさが、苦しくて。
嬉しくて、悲しくて、私は泣きそうになってしまった。だけどそれを堪えて、呼吸を整える。
「……ありがとう、アシェル、ミリア」
その声は、思ったより細くなってしまった。
だけど、ふたりはそれぞれ笑ってくれたので、ちゃんと聞こえたのだろう。
そうして、私たちは改めて地下の攻略法について相談することにしたのだけど──。
翌週、私は思いもしない報告を目にすることになる。




