2.パワーこそ全てを解決するのですわ
私の同意を得ると、ミリアがヴァレシスに尋ねた。
「ヴァレシスさんは……王家の儀式について、何か知っていることはありますか?」
元々双子は、儀式について知っていた。
私が打ち明けずとも、ふたりは知っていたのだ。
暗殺者ギルドは、王家の暗殺部隊も兼任している。
だから、知らないはずがなかった。
王家の花嫁は、儀式の生贄に捧げられると、知っていたからこそ。
ミリアもアシェルも、私に家を出ようと言っていたのだ。
ミリアの質問に、ヴァレシスは難しそうな顔になった。
「……すみません。私はネロワロー国についてあまり詳しくないんです。あなたたちが知らないなら、私にも分からないでしょう。ですが──」
「ですが……何ですか?」
アシェルが尋ねると、ヴァレシスは少し考え込んだ末に口を開いた。
自分でも、それが正解なのか分からない、というふうに。
私は、彼の話に耳を傾けながらも彼の存在自体に目が釘付けだった。
(こ、このひとがレルエピシアの本物の王太子……)
いざ目の前に現れると本当に実在していたのかというか、奇妙な気持ちになる。何せ、このヴァレシスは偽物の王太子と瓜二つなのである。
ヴァレシスは、ふと顔を上げた。眉を寄せて。
「ですが──事実をそのまま記す魔道具があると、昔、聞いたことが、あります。恐らくそれは、ネロワローの城にあるでしょう」
「どうして、それを?」
尋ねると、ヴァレシスの肩がぴくりと揺れた。
それから、彼は苦笑して答える。
「……昔、聞いたことがあるのです。嘘ではないでしょう。信ぴょう性は非常に高いと思います。何せそれは、壊れないようですから」
「壊れない?」
「建国時に作られた魔道具です。何でも、女神ピュトフォアの加護を受けて作られたとか……」
そこで、ミリアが眉を寄せる。
彼女が首を傾げ、滑らかな黒髪が肩を滑る。
「女神ピュトフォアは、隣国レルエピシアで信仰されている神様ですわよね?なぜ、女神ピュトフォアなのです?」
ミリアのごく自然な疑問に、ヴァレシスは僅かに目を見開いた。ともすれば、気が付かないほどの僅かな変化だった。
(うっかり、出ちゃったのでしょうね)
彼はレルエピシア人だ。
太陽神よりも、女神ピュトフォアの方が親しみがあるのだろう。
「そうでしたね。これは今から千年前。三国軍事同盟を結ぶ際に造られたものだと聞いています。レルエピシア、ネロワロー、ロガルダ。これらの国に危機が迫ったら、条約の下、他の二国は協力を惜しまないという内容です」
それをなぜヴァレシスが知っているのか、というのは野暮な質問、というものなのでしょうね。
ミリアとアシェルも情報の出処は気になるだろうが、今は聞かないでおくつもりのようだ。
「当時、ネロワローは建国して間もなかったですから、そこからこの千年。その間の出来事は全て記録されているはずです」
「では──」
私は口を開いた。
「その魔道具を確認すれば、儀式がどのような経緯で成り立ったか分かる……と?」
「……正直、私は太陽神の伝承には半信半疑です。一応お伝えしておきますと、私はレルエピシア人ではありません。他国の人間です」
あっさりヴァレシスはカミングアウトした。
あ、隠してるわけではなかった……のね?
目を瞬く私に、ミリアとアシェルは予想がついていたのか、彼らも驚く素振りは見せなかった。
「もし、太陽神が実在するなら、この千年、何の干渉もしてこなかったのは、不可解です。王家がその干渉を秘匿している可能性もありますが──ともかく、その魔道具を確認してみないことには明確なことは言えません」
「ですが、その魔道具が造られたのは千年前……なのでしょう?流石に、壊れているのではないかしら……」
通常、魔道具の保証期間は五年と王国法で定められている。
魔道具は、厳しく国に管理されている。
交換期間を過ぎても変わらず使用を続けた場合、王国法違反で罰金対象になる。
所謂、免許の更新と似たようなシステムだ。
それなのに、千年も稼働する魔道具──。
現実味がない。
私の疑問に、ヴァレシスが眉を下げて微笑んだ。
「それは私も同意ですが……三国はそれぞれの総力を賭して製作に当たったはずです。私は、現存していると思います」
「……じゃあ」
そこでアシェルが口を開いた。
「問題は、それがどこにあるのか、ということだね」
「こういうのって、宝物庫か王の寝室にあるっていうのが定石よね?」
ミリアの言葉にヴァレシスも頷いた。
「そうですね。王はそれを隠したかったはずですから、人目につかないところ、というのは正解だと思います」
「隠したかった?」
「表に出たらまずい真実というのは、どこの国にもあるものですから」
私が聞き返すと、ヴァレシスは困ったように笑った。
表に出たらまずい真実、というのは自分の素性のことを指しているのだろう。
ヴァレシスの意見には私も同意だった。
……とはいえ。
私はふう、とため息を吐いて頬に手を当てた。
「……儀式の祭壇を壊してしまえば話は早いと思ったけど。やっぱりそれは、最終手段にした方が良さそうね」
ポツリと零した私に反応したのは、ヴァレシスだった。
彼らしくない、素っ頓狂な声を出して彼が私を見る。
「さっ……祭壇を壊す!?ですか!?!?」
「最終手段ですわ。だけど一番話が早いと思いますの」
このままでは、ミリアが儀式の生贄に仕立てあげられてしまう。
最悪、私は儀式を執り行う地下の祭壇に忍び込んで、それを破壊するつもりだった。
祭壇が壊れてしまえば、流石の王家も諦めるでしょう?
私が首を傾げると、ヴァレシスは呆気にとられたようだった。




