6.宣戦布告を報せる手紙
そのまま、手のひらでトントン、と押し込めば、それはポロポロと落ちてきた。
魔石の原石は、ぐにゃぐにゃと柔らかな性質をしている。
これを火で炙って、研磨して、ようやく市場で売られる魔石の姿になるのだ。
「──」
固唾を飲むようにして見守っていたふたりが、思わずと言ったようにため息を吐いた。
「すごいわ……いつ見ても、すごく綺麗。姉様のアイスキルは特別ね」
「こんな方法が広まったら、姉さんは引っ張りだこだろうね。何せ、魔石の原石をとろうとしたら本来は闇雲に石壁を叩かなきゃならない。そうやってポロポロ崩れてきたものの中から魔石の原石を探す。それが、デフォルトのやり方だ」
「姉様のアイスキルは画期的だわ!これが世に広まったら──」
「姉さんは馬車馬のように働かせられるだろうね。悪い奴に捕まったら、利益も取られて最悪だ」
肩をすくめるアシェルに、私は頷いた。
彼の言う通りだ。
「誰かに横流しする気は無いわ。……そのために、商売を始めたのだから」
このアイスキルは有用だ。
ひとつ難点があるとしてら、長時間の使用は不可能だということ。
液晶画面と長時間睨めっこしていた時のような眼精疲労が起きるからだ。
だから、アイスキルの使用後はいつも、私はホットタオルを目元に乗せていた。
アシェルが声を潜めて言った。
「【アンノウン商店】。あっちの世界では話題になり始めてる。上等な品を、こんな短期間でいくつも出店したんだ。探られ始めてるよ」
「そう……そろそろ潮時ね」
私は採取した魔石を確認しながら答えた。
三ヶ月前。
前世の記憶を取り戻して私がすぐになったことは、資金繰りだった。自分が自由にできるお金が欲しいと考えた私は、これらを売り捌くことにしたのだ。
幸い、私には時間だけが沢山あった。
今まで、この魔石の活用方法なんかも図書室の本で調べていたのだ。基礎は身についていた。独学だけど。
魔石を動力源に魔道具を自作したこともある。
(もっとも!魔道具作りってものすごく大変なのだけどね……!!)
そもそも、魔道具作りは独学で学ぶものでは無い。専門機関で学び、その資格をとる必要がある。何もかも手探りの状態では進みも遅く、一作完成させるのに半年を費やすなどざらだった。
だけどその経験があったために、私は魔石を用いた魔道具をいくつか所持していた。全て、身の安全のためのものだ。
だから私はそれを持って闇市に行こうと思っていたのだけど、双子が護衛を買ってくれた。
店の名前は、アンノウン。
店舗は持たない。足がついたらまずいもの。
「それじゃあ、しばらくは大人しくしていようかしら」
元々決めていた金額は達成している。
質のいい魔石を、定価より安く出す。
予想通りそれは、とても売れた。
ただし、これは市場荒らしと変わらない。こんなことを続けていればいずれ調査の手が入るのは予想していた。
だから、荒稼ぎは短期間。
後は時期を見たり、やり方を変えていく必要があると思っていたのだ。
とはいえ、現時点で必要な金額は手に入った。
(家も買えたし)
ひい、ふう、みい……と、ついつい、前世での数え方で魔石を数えていく。
そこで、ミリアが覗き込むように私を見て、尋ねてくる。
「姉様は、今日からあの別邸?」
(全部で九つ。これだけあれば、半分は魔道具に加工できるわね)
残りの魔石は、保管しておこう。
九個の魔石をじゃら、と両手で持って、私はそれをポシェットにしまった。
「ええ。今日からあの別邸よ。お父様と顔を合わせるのは避けたい」
私は、魔石の売上金で家を買った。
丘の上に建つ、ひっそりとした邸だ。
王都から少し離れているのもあって、それは想像以上に安く買えた。
私は身を隠すつもりだった。
婚約が、正式に解消されるまでは。
私が帰れば、待っているのはお父様からの叱責と──説得という名の軟禁だろう。
ネイサンは必ず、お父様に連絡する。
彼の性格上、そうしないはずがない。
だから私は、蛍涼祭を境に家を出るつもりだった。
お父様から見限られても構わない。
むしろ、そうしてくれたら嬉しいくらいの気持ちだった。
そうすれば、これから私はただのフローラとして生きていけるのだから。
魔石をポシェットにしまった私は、ふたりを振り返っていった。
闇が濃い。
もうだいぶ遅い時間だろう。
「探知不可の魔道具を持っているし、魔力を偽装する魔道具なんかもあるわ。まあ、自作したものだからどんな不具合が起きるか分からないけど。でも、何とかなるわ!何とかして見せる」
ガッツポーズを見せた私に、アシェルが何か言いかける。
「……姉さん」
だけどそれを遮るようにミリアがいった。
「王家からなにか連絡が来たらすぐに姉様に報告するわ……!!だから……たまに、姉様のお家に遊びに行ってもいい?」
ミリアの言葉に、私は目を瞬いた。
それからすぐに、笑みを浮かべて答えた。
「当然でしょ?いつでもいらっしゃい。大したおもてなしはできないと思うけど……お茶くらいなら出せると思うから」
料理は練習中なので、美味しいものを出せるか分からない。
黒焦げマフィンなんかを、彼らに食べさせたくはなかった。
私が言うとミリアが嬉しそうに笑い、アシェルも笑みを浮かべて言った。
「遊びに行くよ、姉さん」
☆
そして、新居に移ったその、翌日。
新居に手紙が届いた。
差出人はアシェル。
その手紙には、思いもしないことが書かれていた。




