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公爵令嬢フローラの選択  作者: ごろごろみかん。
2.宣戦布告と受け取ります

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4.本来の人生は、全てを奪われた人生


目指す場所は、王家の庭の先。

山の麓に向かって私達は歩き出した。


目的地は、山の麓にある洞窟だ。

アシェルが携帯して来た魔法灯を起動して、その灯りを頼りに森を歩く。


「うええこわぁい……なんか、今にもなにかが飛び出してきそうじゃない?」


怯えるミリアに、アシェルが尋ねる。


「野生動物とか?」


「野生動物ならまだいいわよ!私が言ってるのは……」


そこまでミリアが言った時、びゅう、と一際強い風が吹いた。


初夏の風は生ぬるい。

そして次の瞬間、ガサガサ!!


と音がした。

私たちのすぐ近くから。


「っ……」


それにびっくりしたのだと思う。

隣のミリアが1センチ浮いた。


「ねねねね姉様今の」


「枝が揺れた音よ、ミリア」


答えると、完全に固まっていたミリアの強ばりが緩やかに解ける。

彼女は大きく息を吐いた。

相当怖かったらしい。


(確かに雰囲気あるものね……この山)


見上げれば、一際闇が深い。

それが、木の形だとなんとなく判別できる程度。


灯りは、アシェルが手に持つ魔力灯くらいしかない。

魔力灯というのは、光る魔石をランタンに入れたものである。


ミリアがぶるぶる震えなが言った。

その声は若干上ずっている。


「そっ……そそそ、そうよねぇ!?幽霊なんかいるわけない……わよね!」


「……ミリアがそういうの苦手とは意外だな」


アシェルがポツリと冷静にコメントする。

それに、ミリアがガバッ!!と勢いよく振り返った。


「誰だって幽霊は怖いでしょ!?だってあいつらは、ぶ、物理攻撃が効かないのよ……!?」


…………。


「んん?」


「どうやって倒せって言うのよ!」


「怖いって、攻撃が通用しないのが?」


どうやら私の考えていた恐怖ポイントとは異なるようである。

私が尋ねると、ミリアはガクガクと何度も頷いた。


「そそそ、そうよ!それにネロワローにはこんな怪談があるじゃない……!!


『ある夜、娘は美しい男性と会いました。娘はたちまち、その男性の虜になりました──だけどその男性は、魂を食らう化け物だったのです。男性は、魂だけの存在で、入れ物となる器を求めていました』


……化け物って、何!?

魂だけの存在って、どうやったら勝てるの!?殴って勝てるの!?そいつには!?」


どうやら、ミリアの恐怖ポイントはそこのようだった。


ミリアはおっとりして、虫も殺せないような淑やかな令嬢に見えるが実際はGを素手で掴める娘である。


蛇も蛙も何でも触れるし、何なら、獣も捌ける。


『サバイバルなら私に任せてね、姉様!』と可愛らしい笑顔を向けられたのは、つい最近の話だ。


……ということはひとまず置いておいて。

ミリアの言う怪談は有名だ。


ネロワローに住まうものなら、誰もが知っている噂話。


よく、子供の寝かしつけにも用いられる話だ。子を育てる親は、寝かしつけの時によく言う、らしい。


『早く眠らないと、化け物がやってきて魂を取られちゃうわよ』


……と。


「…………」


そこで、私は引っかかりを覚えた。


(……魂?)


思わず、足を止める。


ランタンの光が揺れる。アシェルは私が足を止めたことに気がついて私を呼んだ。


「姉さん?」


「……もしかして、あれは、ただの怪談ではないんじゃないかしら」


「え?」


「事実、なのかも」


私の言葉に、ふたりが戸惑った顔を見せる。


(魂。入れ物。生贄。人形。……儀式)


入れ物を器とし、人間の体を指すなら。


「……王家が執り行う儀式、そのものだわ」


私の声は、静かに夜の森の中、吸い込まれていった。

私はゆっくりと、儀式の説明をした。

既に双子にした説明を、ふたたび。


「王家は、代々の花嫁を儀式で剥製にしているわ」


花嫁を、人形にするのだ。


「魂を奪われる、というのは確かにその通りなのかもしれない……」


なぜ剥製にしているかは、分からない。

だけど、小説では、そう書かれていた。


私の行く末も、そうだったはずなのだろう。


双子には既に、儀式の話をしていた。


──あの日。

アシェルに逃げよう、と言われた日。


私は彼らに、自らの計画を打ち明けた。


双子は、最大の秘密を私に明かしたから。

その信頼に応えたいと思ったし、ふたりを安心させたかった。





ミリアは、私の言葉を聞いて腑に落ちたような顔になった。

ため息交じりに、彼女が言う。


「本当、ろくなことをしない王家ね。滅んでしまえばいいのに」


「……まあ、否定はできないわね」


本当に。

犠牲になった花嫁たちのことを思うと、その血は絶えた方がいいと私も思う。


だけど私がしたいのは私怨を晴らすことじゃない。


あくまで穏便に生贄役を下りて、この儀式を終わらせること。


(王家は、伝承にある娘と同じオッドアイだから私を生贄に選んだ)


その私を生贄にできないなら、儀式自体取りやめるかもしれない。


だけどもし、やめないのなら。

その時は──。


(……そもそも!あんな伝承を千年も続けている事の方が異常なのよ……!!)


価値観が古いというか、倫理観がアップデートされないまま来てしまったのだろう。

ただ、他者にバレたらまずいという頭はあるから、秘匿してきた。


倫理的にまずいことを行っている自覚はあるのでしょうね。


それが善か悪かの判断はついていないのでしょうけど。


「…………」


ネイサンもメルンシアも大嫌いだわ。

そしてもちろん、お父様も。


みんながみんな、私に要望だけを押し付けてくる。


『ただ黙っていればいい』

──自我のない人形になれと言われ。


『メルンシアのことも考えてあげてくれないかな』

──理不尽に責められ。


『もっと、私の気持ちを理解してくれてもいいじゃない……!!』

──気遣いがないと責められてきた。


この十年、ずっとよ?

おかしくならないはずがない。


アシェルとミリアは私の味方をしてくれたけど、ふたりを巻き込むわけにはいかないと思っていた。

お父様との板挟みに悩ませたくなかった。


だけど、もし。


(前世読んだ小説……あの知識がなかったら。

私の行く末を知らなかったら)


……前世の記憶を取り戻さなかったら。


私は本当に、小説のフローラのような、無気力な人生を送っていたのかもしれない。


全てを奪われ、諦め、絶望し……希望を抱くことも出来なくなっていたのかもしれない。


「──」


その可能性に、心底ゾッとした。


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