1.最初の一歩はふたりと共に
その時、遠くの方からひとの話し声が聞こえてきた。
「ほんと~~~~にアシェルはなんっにも分かってないわ!もう!姉様と私の時間を邪魔しないで!」
「夜のひとり歩きは危険だろ。こんな山の中なんだから」
「あなたは姉様と一緒にいたいだけでしょ!」
「お前は本当に姉さんが好きだよな。姉さんが結婚したらどうすんだよ?」
「ふん。そうなったら私も姉様についていくまでよ!」
「はぁ!?…………え、本気で言ってんのか?」
戸惑うアシェルの声が聞こえてくる。
狼狽える彼に、ミリアは胸を張ったように答えた。
「フフ、当たり前でしょ。もし姉様が結婚するなら、姉様の旦那様のご兄弟か、その親族に嫁ぐに決まってるじゃない!私にかかれば落とせない紳士はいなくてよ!」
「すげー自信。そういうところは本当、尊敬するよ」
「むっ……尊敬してるって顔じゃない!いいからもう、ついてこないでちょうだい!」
「ついてくるなって言っても同じ方向なんだから仕方ないだろ」
ふたりの会話はどんどん近付いてくる。
双子の和やかな(?)会話を聞いていると、先程の空気が霧散していくようで、思わず笑みがこぼれてしまった。
「ふふ、ふふ」
あの子たちったら。
ふたりの会話はテンポが良く、小気味いい。
双子ってみんなこんな感じなのかしら。
私は、声のする方向に視線を向けた。
「魔石採取をしてる時の姉様は本当に綺麗なのよ。神秘的って言うか。だから私だけで十分なの!」
「あーはいはい。足元見て歩けよ、暗いから」
「分かって──きゃあ!?」
「ほら、よく見て歩かないから。こんなとこで転んだら泥だらけになるぞ」
「うう~~~~……あっ!姉様!!」
唸るような声が聞こえてきたと思った同時、木々の合間からふたりが姿を見せる。
ミリアの腕をアシェルが掴んでおり、間一髪、間に合ったようだ。
私はふたりを見て、笑いかけた。
「ごめんなさい、探させてしまった」
飛び出してくるのは、ミリアだ。
素早い動きで私の前までかけてきた。
また転びそうで、見ている私はハラハラした。
「姉様!ねえ、大丈夫だった?何もされてない?言われてない?あのふたりはどこに行ったの?」
ミリアに立て板に水のごとく尋ねられて私は苦笑した。
どうどう、と彼女の肩に触れて宥める。
「ネイサンなら、メルンシアを追っていったわ。彼女、気が動転したみたいで走り去ってしまったの」
「ああ、やっぱりさっきのあれは──」
アシェルが何か言いかけたのを、ミリアが遮って声を出した。
「やっぱりアレ、王太子殿下と女狐だったのね!?どうかしらと思ったのだけど、確信が持てなくて割り込めなかったのよ!!」
「もういいのよ、話は済んだし」
「私は納得いかないわ!この十年、姉様はずっと、ずぅぅぅぅっと、ふたりに振り回されてきたじゃない!王太子殿下もあの女も揃ってクズだわ!!私ああいう女本当嫌い!!
【私不幸なんですー】
【私可哀想なんですー】って顔して、図太さだけは人一倍なんだから!王太子殿下は論外よ!」
「こらこらこら」
私はそっとミリアの口に手をかぶせた。
森の奥深くとはいえ、誰が聞いているのか分からないのである。
「待たせてしまってごめんなさい。ほら、お詫びに、いいところに連れて行ってあげるから」
そう言うと、アシェルが柔らかな笑みを浮かべる。
「姉さんもお疲れ。疲れたんじゃない?」
「それがね、あんまり疲れてないの」
それどころか、達成感のようなものでいっぱいだ。
ようやく、私は一歩を踏み出せたのだから。
「じゃあ、行きましょうか!目的地はこの先よ」
ふたりを促すと、アシェルが私に手を差し出す。
「さ、姉さん。足元に気をつけて。暗いから」
「もう、そんなに気を使わなくても大丈夫よ?」
「さっき、ミリアが転んだばっかだよ。姉さん」
そういえばそうだった。
アシェルに助けられて間一髪間に合ったようだけど。
それなら、ミリアをエスコートしてあげた方がいいんじゃないかしら?
私の疑問に、アシェルは首を横に振って答える。
「ミリアには断られたんだ。ひとりで歩けるって、ズンズン歩いていくんだぜ?だから転ぶんだ」
アシェルの言葉に、ミリアがふんと得意げに胸を張る。
「私はいいわ。姉様と手を繋ぐもの」
「おい、それじゃ姉さんの両手が塞がるだろ」
「姉様、良いでしょ?」
アシェルに構わず、ミリアが甘えるように私の腕に抱きついてきた。
甘えてくる妹の頭を撫でて、私はアシェルに提案する。
「そうね。三人で手を繋ぐなんて、何年ぶりかしら。アシェル、どう?」
「はあ……姉さんがいいならいいけど」
「やった!」
提案するとアシェルはため息を吐き、ミリアが飛び跳ねて喜んだ。
そして、私はミリアとアシェルを手を繋ぎ、一歩を踏み出したのだった。




