表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢フローラの選択  作者: ごろごろみかん。
1.取引いたしましょう?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/24

10.転生特典は知識です

私は、私を転生させたとかいう神様に会うことはなかったわ。

気がついたら、今の生を生きていた。

転生特典とかいうものもなかった。


だけど、前世の記憶はある。

私は、本来の私には知り得なかった事実を知っている。それは大きなアドバンテージだ。


明らかに動揺した様子で、ネイサンが口を開く。


「脅す気か?自分が何をやってるかわかってるのか」


その声は震えていた。

揺さぶりには弱いみたい。


「発言を撤回しろ。きみは自分が今、何を言ったか分かってるのか?それが何を意味するのか、ということを」


彼の声は、怖いくらい感情が乗っていない。

ネイサンも必死なのだろう。


もし私が儀式のことを知っていたら。

それをリークする準備を整えていたら──彼は、自分の地位を追われるかもしれないのだから。


そして、その恐れは正解だった。


私は既に準備を終えている(・・・・・・・・)


それはつまり、今私が死ねば、儀式の秘密は世間に明らかにされるということ。


私は、にっこりと笑って彼らを見た。


メルンシアは様子のおかしいネイサンに戸惑っているようだ。


何せ、彼女は知らないものね。

私が半年後、儀式に使われることを。


「ご安心なさって?私は死なないわ。あなたたちが配慮してくださるもの、ね?」


「っ……!!」


配慮、という言葉に心当たりがあったのか。

メルンシアの顔色が悪くなる。


「…………」


半年後に控えている儀式を知るネイサンは黙り込んでしまった。


ふたりともそれぞれ、思うところがありそうだ。


私は、この時のために丁寧に手がけた準備を、その軌跡を説明することにした。ただのはったりだと思われたら困るもの。

私は時間をかけて丁寧に、抜かりなく、全ての準備を終わらせた。


それを……知ってもらわなくてはね?


「新聞社にコネのある人物と連絡を取れたの。そのひとは、私の境遇に酷く同情してくれたわ。そして、義憤にも駆られている。……真面目な方なのよ。私が死んだら、彼が対応してくれるわ」


「真面目……?彼?」


ネイサンが眉を寄せる。


だけどどんなに調べさせても、ネイサンには分からないはず。痕跡は残さなかったし、元よりそのひととは今まで交流がなかった。


私には、今までの私が知らなかった、本来は知り得なかった知識がある。


(そうね。もし転生特典なんてものが存在するなら)


それはまさに、前世で知り得たこの小説の内容だ。


小説に、出てくるのだ。

その【彼】は。

隣国の王太子の側近として。


王太子の無茶ぶりに付き合わされながらも、それらを全てこなす有能であり、人徳者だった。

度々、心のない命をくだす王太子を諌めるのも彼の仕事だった。


(……読んでた時はね!正直!!王太子より絶対側近の方がいいわよ!って思ったものだわ……!)


それくらい良い人である。

だけど、部下が主のものに手を出すはずがないし、小説の中の私も、彼を眼中に入れてないようだった。

まあそれもそうよね。

小説の正ヒーローは隣国の王太子だったのだから。


(だけど彼──ミハイルなら)


彼なら、ネロワロー王家の内情を知れば必ず動くだろうと踏んだのだ。


だけど今、あの隣国の王太子が出てくるのは困る。


そういうわけで、私は匿名で、王家の儀式の内容はまだ伏せたままで、ミハイルに取引を持ちかけた。


【ネロワロー王家には秘密がある。

あなたにはその真実を暴く光となってほしい】


という手紙を送り、彼とコンタクトを取った。


私の素性を探る手紙には答えず、儀式の内容は伏せたまま、彼に依頼した。


【時が来たら真実を明かす。

これは、あなたにとっても最良のカードとなるだろう】


……と。


もちろん、時が来たら、というのは私が死んだ時を指す。

私が死ななかったとしても、儀式に捧げられたら、その手紙が送られるような手筈になっている。


ミハイルなら、動く。

なんと言っても、ネロワロー王家の醜聞だもの。


これは隣国にとっても大きなカードになる。


売国奴と言われても構わないわ。


私は、どうしてもこの邪悪な儀式を終わらせられたい。

そのためなら、使えるものはなんでも使う。


(さて、と。じゃあ後は書簡を待つとして)


踵を返そうとすると、ネイサンが震えた声で切り出した。


「……復讐、か?蔑ろにされてきたから、だから恨んでるのか」


その言葉に、私は足を止めた。


「…………あなたは私を蔑ろにしていたの?」


その自覚があったのか。

私の質問に、ネイサンは言葉を詰まらせた。


「それは」


「私は何度も言ったわ。せめて公的行事は私と参加して、と。だけどあなたはその最低限のマナーすら守らなかった。……そうね。確かに、私、蔑ろにされていたのね」


思い出すようにしながら私は過去に思いを馳せる。

ネイサンの顔色はもはや青を通り越して白い。

メルンシアではないけれど、体調が悪そうである。

そのメルンシアは、ネイサンの様子がおかしいことに困惑しているようだった。


「……あなたは平民の婚約とは訳が違うと言ったけど。少なくとも、あなたの感覚はそちら寄り、ね?」


「──」


流石に平民と同じと言われては看過できなかったのだろう。

ネイサンが鋭い視線を私に向ける。

まるで切り殺されそうだと思うほど、殺意のこもった瞳だった。

視線でひとを殺せるのなら私はもう死んでいるでしょうね。


だけど、いえ、だからこそ。

私はふわりと笑みを浮かべた。


「あなたが感情を優先するのなら、私も感情に従って動く。それが公平というものでしょう?」


あなたは感情(メルンシア)を優先した。

それなら私も、生きたいという感情を優先する。


「メレンシア。あなたにとっても悪い話ではないはずよ?」


水を向けると、メルンシアはパッと顔を上げた。それから、困惑したようにネイサンを見る。


「ネイサン……いいじゃない。婚約解消してあげたら?」


鈴が鳴るような細い声でメルンシアが言った。

予想外の流れだったのだろう。

ネイサンが息を呑む。


「っ……!?」


「そうすれば……あなたと私は、結ばれるわ。私と、結婚して……?」


(あら)


そして、大胆にもメルンシアの方からプロポーズをした。


だけど、その返答は──


「……できない」


苦渋の滲む声で、ネイサンは答えた。


(それはそうよね)


なぜなら、ネイサンの花嫁になることは、儀式に捧げられる生贄になることを意味するのだから。


メルンシアを愛するネイサンとしては、受け入れられないだろう。


だけどそれを知らないメルンシアは裏切られたと思ったようだ。

彼女は悲鳴のような声を上げた。


「……っどうして!?」


「それは……!!……言えないんだ。だけど僕は、きみが一番大事だから」


「そんなの嘘よ!!結局、あなたはフローラが大切なんだわっ……うそつき……!」


「メルンシア!!」


メルンシアは取り乱してその場を駆け出してしまった。


(あらあら……)


私は口元に手を当てると、ネイサンを呼びかける。


「この森は深いですわ。早く追いかけてあげた方がよろしいのでは?」


「っ言われなくても!」


「ああ、そうだわ。ネイサン」


今にもその場を駆け出しそうだった彼をふたたび呼び止める。

ネイサンは苛立たしげに私を振り返った。

大きく、そのまま青のマントが翻る。


儀式を伝えていいのは、花嫁と、花嫁の生家だけ。


だから、ネイサンはメルンシアに真実を伝えることは出来ない。


部外者に儀式を教えることは、許されない。

罰は一律で処刑と決まっている。


私は微笑みを浮かべて婚約者を見た。


(大事なことを伝えるのを忘れていたわ)


忘れられては困るもの。

念を押すように、私は言う。


「さようなら、ネイサン。次会うときは、両家が揃った場所で。婚約解消の申し出を楽しみに待っているわ」


「っクソ……!!」


短く舌打ちをして、ネイサンはそのまま走り出していった。


全ては上手くいった。メルンシアが駆け出していってしまったことだけは予想外だったけど。


結果的にいい方向に動きそうだわ。


空を仰げば、煌々とした星と──眩いほどの月が。

私は目を細めて天体観測と洒落込むことにした。


「ふふ、いい夜ね。……本当に」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ