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レポート004 無限収納 ― 事実上死亡

 亜空間にアイテムを保存できる「収納魔法」。


 転移者のタケルが手に入れたユニークスキル『無限収納アイテムボックス』はその最上級の能力を持っていた。


 収納容量は実質無限、生物の出し入れも可能、中に入れたものも時間が停止し劣化しない。

 誰もが羨む万能チート能力だ。


 「いやあ、本当に便利っすよ。これさえあれば、どれだけ重い荷物も、討伐した魔物の巨体も、全部放り込んでおけますからね」

 

 タケルはそういって、目の前の空間に現れたボックスの「口」に、自分の腕を肩まで突っ込み、

 中からキンキンに冷えた酒を取り出すパフォーマンスで人気を集めていた。


「……タケル君、あんまり自分の体を入れるようなことはしない方がいいと思うな」

 ギルドのカウンター付近を通りがかったホリィが忠告した。


「ハハ、ホリィさんは心配性だなあ。……あれ?もしかして、同郷のやっかみです?」

 タケルは笑い飛ばし、その日も転移者同士のパーティで、ダンジョンへと向かっていった。



 次の日の午後。


 ダンジョンの深層で、突如沸き起こったスタンピード。タケルのパーティーを含め、

 多くの者は逃げ場を失い、押し寄せるモンスターの前に、全滅の危機に瀕した。


 「お前ら、アイテムボックスに入れ! 中なら時間が止まる! スタンピードが収まったら

  俺が全員を外に出す!」


 極限の恐怖のなか、タケルは叫ぶ。

 緊急回避。それ以外に生き残る道はなかった。


 「タケル!俺らも入れてくれ!!」

 近くのパーティからも声が掛かる。


 「お前らを中に入れてる暇はねぇ。勝手に野垂れ死んでろ。じゃあな」


 仲間たちはタケルが開いた空間の裂け目に次々と飛び込み、最後にタケル自身も、自らのボックスの中へと身を投じた。


 主を完全に呑み込んだアイテムボックスの「口」は、パチンと音を立てて空間から消失した。




* * * * *




「……タケルのパーティーが、アイテムボックスの中に入ったきり、戻ってきていない?」


 ギルドのカウンター。

 タケルが周囲のパーティをサポートしなかった苦情と、行方不明の報告を受けたギルド職員たちは困惑していた。


 スタンピードは、高ランクパーティを中心に、少なくない犠牲者を出しながらも

 収束させることができた。

 しかし、タケルのパーティだけ戻ってきていないのだという。


「高位の空間魔導師を呼んで、中に伝えられないのか?こじ開けることは?

 ホリィさん、何か良いアイデアはない?」

「無理ね。あのボックスは彼の固有能力で作り出された空間。入れた本人しか出せないわ」


 ギルド職員エドの質問を、ホリィは冷淡に切り捨てた。


「じゃあ、タケルが、外の様子を伺うために出てくるのを待つしかないのか」

「……手遅れよ」



 時間停止、などという都合の良い奇跡は存在しない。

 正体は、内部の時間の流れを極限まで引き延ばしているだけ。



 彼らは今、ボックスの中で、傷ついた身体を手当てしているかもしれない。

 あるいは「そろそろ出ようか」と、相談をしている最中かもしれない。


 彼らにとっては「数分」かもしれないが、

 外の現実世界では、途方もない、天文学的な単位の時間が流れることになる。

 

 彼らが再び姿を現す頃、この地上には、人類という種族すら残っているかどうか。

 もはや宇宙そのものが崩壊を始めているのではないか。


 「ほんのしばらく」の緊急避難のつもりで、

 遙か未来の誰もいない世界の終わりへと、片道切符の列車に飛び乗ってしまったのだ。



「……タケル、およびパーティーメンバー計4名。……永久未帰還。事実上の死亡扱いね。」

 ホリィは淡々と告げると、彼らの死亡報告書に、署名を入れた。


「そんな。彼らはまだ生きているのに……!」

 エドが、割り切れない表情で食い下がる。


「……見えている時間軸が違うのよ。彼らの『明日』は、この世界には永遠に訪れないから」

 ホリィは感情の消えた瞳で静かに言った。


 自分たちの存在そのものが、まるで一瞬の儚い幻灯機のように思えた。


「……仕事に戻るわ」

 ホリィは足早に資料編纂室に向かう。


 世界は今日も、いつか訪れる「彼らの明日」に向けて、何事もなかったかのように回っている。





『タケル、そろそろ良いんじゃねーか?』

『ああ、一度様子を見てみるか』

『それにしても、ここに入れないって聞いた時のあいつらの顔、傑作だったよな!』

『対処できるように戦闘準備をしておけ……よし、じゃあ出るぞ。せーの!』


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