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レポート003 鑑定 ― 心臓発作

 ――――――――――――

 スキル:剣豪   LV.3

     肉体強化 Lv.4

     隕九◆縺ェ

 ――――――――――――


 この世界に生きる者にとって、スキルレベルの向上は人生そのものの価値に直結する。


 魔導師ゲルトにとって、今日という日はまさに人生の絶頂だ。


「……ようやく上がった。ついに、レベル5だ」


 宿屋の薄暗い灯りの下、自分のステータス画面を見つめて、震える声で呟いた。


 鑑定スキル、レベル5。


 レベル4までは名称しか読み取れなかったが、これからはその詳細な効果、

 果ては秘匿された情報すらも暴き出すことができる。


「おっ、ゲルト。なんだ、鑑定のレベル上がったのか? お祝いだな!」

 相棒の戦士ガイルが、大ジョッキをテーブルに叩きつけて快活に笑った。


 ガイルは気のいい男だ。ただ、ゲルトには以前から一つだけ気になっていることがあった。


 『なぁ、ガイル。その3つ目のスキル、読み取れないんだけど、何なんだ?』

 『3つ目?俺にはそんなのねぇよ。』


 以前、鑑定を彼に使った際、三つ目のスキル欄だけが、

 どうしても文字化けして読み取れなかったのである。



「……ガイル、ちょっといいかな。改めて、レベル5の力を試させてくれ」

「おう、いくらでも見てくれよ!」

 ゲルトは集中し、鑑定スキルを発動した。


 視界に浮かび上がる、ガイルのステータスウィンドウ。


 三段目の項目に視線を固定する。

 ノイズが走り、歪んでいた文字が、レベル5の権能によって滑らかに「意味」へと変換されていく。

 



  見 た な




「……え?」

 ゲルトの思考が凍りついた。


 目の前のガイルの雰囲気が、ほんの少しだけ変質した。


「どうした、ゲルト。一体……何が見えたんだ?」

 ガイルは先ほどと同じ、穏やかで親しげな声で言った。


 けれど、彼の目の焦点が、ずれていた。


 ゲルトの顔ではなく、本来見えないはずの「ウィンドウ」をじっと、

 不自然なほど執拗に凝視している。


 ステータス画面が震え、スキルが書き換わった。




  見 る な




「ひっ……!」

 ゲルトは椅子ごと後ろにひっくり返った。


「おいおい、大丈夫かよ。椅子が壊れちまうぞ」

 ガイルはそう言って笑いながら、倒れたゲルトに手を差し伸べた。

 親切な、いつもの仲間の気遣い。


 だが、その据わった瞳だけは、依然として「宙に浮いた鑑定画面」を射抜いたまま離さない。

 画面の文字が、また、変わった。





  お わ り





「で、何が見えたんだ?」

 声音は変わらない。けれど、焦点が合っていない。


 ゲルトは鑑定を切ろうとした。

 けれど、うまくいかなかった。

 

「大丈夫か?ほら、立てよ」

 ガイルの差し出した手が、ゲルトの腕を掴む。


 心臓を、冷たい針で撫でられたような痛みが走った。


 ゲルトは、そのまま動かなくなった。

 ただ、その目だけが、最後まで「ウィンドウ」を見つめ続けていた。


* * * * *



 ギルドの資料編纂室。ホリィは、提出された遺体検分記録に目を落とした。


 ゲルト。Bランクの有望な魔導師。祝宴の最中、突然死。

 心臓発作と思われる。

 


 ホリィは、現場となった宿屋の食堂を訪れた。

 そこには、相棒を失って憔悴した様子のガイルがいた。


「少し話を伺っても?」

「ああ……」



「……あいつ、急に倒れて。俺が手を貸そうとした時にはもう、息がなかったんだ。

 せっかくのめでたい日に……不運だよな」

 ガイルは寂しげに笑って、ホリィにエールを一杯奢ってくれた。


 態度は極めて常識的で、悲しみに暮れる冒険者そのものだ。

 ただ、その目はやはり、据わっていた。


 エールを運ぶ時も、ホリィと話す時も、彼の瞳はわずかに焦点がずれたまま、

 ホリィの周囲にある空間を、探るように動いている。



 彼女は静かに眼鏡を外した。

 世界の輪郭が、わずかに揺れた。



 ……そして、すぐにそれをかけ直した。



「どうかしたか、ホリィさん。何かあったか?」

 ガイルはいつもの、気の良い笑顔を向けた。

 据わった目だけが、ホリィが見た「空間」を、真っ直ぐに、正確に捕らえていた。



 ホリィは立ち上がる。

 

「……いいえ。何も。

 エール、ごちそうさまでした。」


 それだけ伝えて、食堂を後にした。

 ガイルの視線は、その時もやはり、わずかにずれていた。



 歩きながら、報告書の備考欄を埋める。


 ――本件、深入り厳禁。

 ――当該対象との接触は、非鑑定状態においても最小限に留めること。



 広場では今日も、冒険者たちがそれぞれのステータスを確認している。

 そして誰もが、それを「安全なもの」だと信じて疑わないのだ。

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