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レポート002 ログインボーナス ― 死刑

 毎朝、お金やアイテム等、ささやかなモノが手に入るおかげで生活が楽になるユニークスキル「ログインボーナス」。

 最初はただの幸運だった。


 異世界に転移し、冒険者になりたての青年、ヨースケの歯車が狂い始めたのは、スキルの恩恵を

 受けはじめてから一ヶ月後のことだった。


 

 その日、いつものように目を醒ますと、枕元に、これまで見たこともない大量の金貨が入った袋が置かれていた。


「え……? 本物……!?ログボでこんなにもらえるなんて! 一生遊んで暮らせるじゃないか。いやぁ、スキル様々だわ」


 笑いが止まらない。


 翌朝には宝飾が鮮やかな短剣。

 次の日には、近所の空き家の権利書が。



 日を置かず、それらの盗難届がギルドの掲示板に貼り出された。


 

 次の日も、その次の日も、宝石や見たこともない程の豪華なアイテムが次々と手に入り、定宿のヨースケの部屋は、足の踏み場も無い状態になった。


 初日の歓喜が瞬く間に恐怖に変わるものの、それらを売り飛ばすことも、隠すこともできず、持て余すようになった。


 それでも「幸運」は止まらない。

 運命の三十日目。


 ヨースケが目覚めると、部屋の真ん中に、見慣れぬ大きな「麻袋」が置かれていた。



「勘弁してくれっ……今度は、何なんだよ……」

 震える手で袋を開けたヨースケは、そのまま腰を抜かした。


 中に入っていたのは、昨日から国を挙げて捜索されていた、行方不明の第二王子だった。


 王子は、まるで熟睡しているかのように静かに、袋の中で、丸まっていた。

「な……なんで、王子が、ここに……!?」



 その直後、宿屋の扉が爆砕された。

 王家の魔道士による探知魔法が、この部屋を特定したのだ。

 

「……いたぞ! 誘拐犯!……それに、なんだこの量の財宝は」


 踏み込んできた騎士団の目に映ったのは、王子の腕を掴み、呆然と立ち尽くすヨースケの姿。


 国家反逆罪――現行犯での逮捕だった。



* * * * *



 ギルドの資料編纂室。ホリィは、翌朝に執行予定の「大犯罪者ヨースケ」の最終報告書を整理していた。


「……本人は、最後まで『ログボでもらっただけだ』と泣き叫んでいたそうです。厳重な警護を潜り抜け、王子を誘拐するなんて……即刻、絞首刑が決まりました。ほんと、異世界人は油断ならな……失礼しました」


 勢いで失言をしたことに気づいたギルド職員、エドの言葉が詰まる。


「気遣いは結構よ。皆が皆、同じではないからね」

 ホリィは淡々と返し、押収された私物リストに目を落とした。金貨、短剣、空き家の権利書。すべて持ち主の違う、国中の「盗難品」だ。



「最期の様子を見てくるわ」

 ホリィは処刑を翌日に控えた地下牢を訪れた。


 鉄格子の奥で、かつて同郷だったはずの青年ヨースケは、虚ろな目で壁を見つめていた。

 ホリィは、静かに眼鏡を外した。

 世界の輪郭が、わずかに揺れる。


「あの、ホリィさん……俺、本当に何もしてないんだ。信じてくれよ……なぁ、わかるだろ?上に掛け合って助けてくれよ!」

 「ええ、よくわかったわ。……でも、残念だけど、私にはどうすることもできないの。、一度与えられた『神の恩恵』は、誰にも止められないから。明日も、きっと良いものがもらえるわ。じゃあね」


すがるようなヨースケの声を背に、ホリィは眼鏡を掛け直し、振り返ることもなく立ち去った。




* * * * *



 刑場。

 ヨースケは、首に縄をかけられてもなお、天を仰いで嗚咽を漏らしていた。


「……もう、何もいらない……。何も、いらないんだ……。日本に戻らせてくれ!!なぁ、止めてくれよ、神様……!」


 朝日が昇る。

 その瞬間、アナウンスが、ヨースケの脳内にだけ非情に響き渡った。


『おめでとうございます!本日の 連続ログインボーナスです!』


 カチャリ、と音がした。

 ヨースケの首にかけられた粗末な麻縄が、光と共に、宝石を散りばめた「黄金の鎖」へと変化した。王家に伝わる、決して切れることのない儀礼用の鎖。


 その豪華で、強固な鎖が、自重でヨースケの首をゆっくりと、確実に締め上げる。


「う……ぐ……ッ」

 死ぬ間際、彼の首元に届いた、最高級の実用的なボーナス。


 ヨースケの亡骸は、史上最も豪華な「縄」に吊るされ、皮肉なほど美しく朝日を浴びて揺れていた。



* * * * *



「……調査、終了」

 資料編纂室に戻ったホリィは、死亡届に事務的に判を突いた。


「ホリィさん、結局、彼の手口は分からずじまいでしたね。あんな大量の宝をどこから……」

 エドが悔しそうに書類をまとめる。


「さあね。でも、毎日何かがもらえるなんて、そんな虫のいい話、あるわけがないのよ」


 ホリィは冷えた珈琲を啜りながら、窓の外を見た。

 広場では、今日も若い冒険者たちが楽しそうに笑っている。

 その「ボーナス」が、誰の懐から盗まれたものかも、知らないまま。

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