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魔王生まれ変わる 3

基礎教育を執事長につけてもらっていたザイン。


並行して独学で魔法の研究を家族に内緒で行っていたのだが・・・

 日が暮れようやくその日の授業がすべて終わると、家族全員が食卓を囲む時間になった。


 ただ、貴族家特有の大きすぎるテーブルは、家族団らんというには互いの距離があまりにも遠く、自然な会話が生まれにくい。ましてや、堅実を旨とする父は、必要以上の言葉を交わすことは決してない。そして、父の姿を見て育ち、それを無言のうちに範とする兄たちもまた、多くを語らず淡々と食事を進めていくのだった。


家族の間にようやく会話が生まれるのは、食事が終わり、しばらく時が過ぎたアフタヌーンティーの時間になってからだ。


「アシュル、バイル。明日から、ザインにも家庭教師をつけることにした。我が家には伝統があるが、私は実力主義を重んじる。セバスの報告では、ザインは非常に優秀であると聞いている。慢心することなく、一層励むように。」

「かしこまりました。父上。弟に負けぬよう、私どもも努めて参ります。」


そう返事をしたのは、ザインより七歳年上の長男、メフェリム・L・アシュルだった。父と母の面影を残すブロンドの髪は短く整えられ、その身なりは常に完璧に保たれている。少しだけ目が悪いらしく、銀縁の眼鏡の奥には、母譲りの深い藍色の瞳が、父の吊り目の中に静かに宿っていた。

 父と母の形質とは異なるザインとは異なり、彼を誰が両親かは一目瞭然であった。

 そして、十歳とは思えないほどしっかりとした、尊敬に値する兄である。


「しかし、父上。ザインはまだ五歳です。基礎教育で十分ではないでしょうか?」

「ああ。先ほど言ったように、ザインは非常に勤勉で優秀だ。礼儀作法や基礎学問の理解は、我々が想定していたペースを遥かに上回っている。それに加え、ザインは我々にはない、非常に稀有な才能を持っている。これを捨て置くには、あまりにも惜しい才能だと判断した。」


その言葉に、ザインは息を詰めた。


「(まずい、何を知られた?)父上。果たして、何のことでしょうか?」


平静を装う三男の様子を見て、オルトリアは執事長と視線を交わし、何かを秘めたかのように微笑んだ。


「私の領地だぞ。ここで起きている出来事はすべて把握している。お前の早朝の行動もな。」

「(ああ、なるほど。魔法の才能の話か。この世界ではダンジョンの付近でしか確認できないからこそ、この辺りでは非常に稀有な才能と表現したのか)……はい。父上が把握されている通り、私には魔法の才があります。」


ザインは、自分が隠していた行動すべてが知られていたわけではないことに内心安堵しつつ、魔法の才能があることを父に告白する。とはいえ、この情報については、いずれ両親には打ち明けるつもりでいた。彼自身この家にある魔法に関する知識では、限界を感じ初めていたからである。


 魔法の研究は、この辺りではそれに関する研究や知見が一切得られないのが実情だ。

 それゆえ、ザインは五歳という若さで、手元にあった魔法の文献すべてをまとめ上げ、さらにその内容を実証するまでに至っていた。


 一方で、ダンジョンの周辺では魔法に関する研究は非常に盛んに行われている。外界では未だ確認されていない現象であり、人智を超えた事象を引き起こすことができる魔法に対して、多くの人々が深い興味を抱き、研究を進めているのだ。数多くの研究者や学者、あるいはダンジョン攻略から引退した経験豊かな人物たちに教えを乞う者も少なくない。


「その上で、家庭教師の件ですが、ぜひ魔法指導に携わる方も追加していただけると幸いです。」

「ああ、そうさせてもらおう。」


それから間もなくして、ザインには正式な家庭教師がつくことになった。これまでの基礎学習や礼儀作法を教えていた二名の教師に加え、さらに二名の人員が補充される形での採用である。今回新たに雇用されたのは、剣術と魔術に関する家庭教師だった。ちなみに、長男には帝王学や領地運営の方向の家庭教師が、次男には軍隊の運営などを教える家庭教師がつけられていた。これが、メフェリム家の長きにわたる伝統なのだ。


 この人員は、領主であるオルトリアから皇帝への直々の陳情が伝えられ、皇帝自身が人員を選定し、この地に派遣したとのことであった。


 皇帝陛下が直々に人員を選定した理由は単純で、メフェリム家が直接人員を集めることが憚られるからだ。現皇帝に次ぐ発言力を持ち、自治の独立と国家に帰属しない軍隊を擁するメフェリム家が、皇帝を介さずに人材を募集することは、本人たちの意図とは関係なく、様々な邪推を生む結果になりかねない。


「本日より、よろしくお願いいたします。」

「うむ。よろしく頼むのう。」


 初めての授業は、これまでザインが自己学習で進めてきた魔法の学習から始まった。家庭教師として選ばれたのは、かつてダンジョン攻略を生業としていた元探窟者の老年の男性だった。その名はアルベル・オウルスト。一般的に想像される魔法使いの装いそのままに、長く白い髭を蓄え、全身を覆い隠すほど大きなローブを纏った、身長160センチほどの男性だ。年齢は、精神的な要因による加齢を考慮に入れなければ、おそらく60代後半といったところだろう。


彼曰く、年を重ねた魔法使いが髭を蓄えるようになるのは、儀式的な解釈に基づき、魔力増強効果を狙ってのことだという。


「まぁ、眉唾じゃがの。じゃが、威厳は生まれるであろう?」


と、老師は語る。


「さて、今日から魔法の授業を始めていこうと思うのじゃが、お主は基礎はすでにできているようじゃな?独学かの?」

「はい。家にありました数点の書物をもとに、独学で体系化いたしました。」

「ほう。すごいのぅ。わしもそれなりかと思っておったが、上には上がおるものじゃ。」

「……わかるのですか?」


ザインが不安に思ったのは、自身の不自然なまでに膨大な魔力が、彼自身では観測できないだけで、ある程度の修練を積んだ魔法使いであれば確認できる可能性があったからだ。万が一にも九桁に及ぶ魔力を看破されれば、世界の均衡を逸脱する存在として、再び上位の存在に目をつけられる可能性が出てくる。そうなってしまえば、今世を謳歌することが叶わなくなってしまうだろう。


しかし、ザインが危惧していたような回答は、その後に続くアルベルの言葉には含まれていなかった。


「うむ。わかるぞ。お主の中に巡っている魔力、その流れがのう。そこまで円滑に巡らせるようになるには、わしでも十年はかかったかのう。」

「……(あぁ。)そういうことですか。」


アルベルが観測していたのは、ザインがいつでも魔法を使えるように身体中を巡らせている魔力そのものの流れだった。もちろん、そんな芸当は現在のザインにはできない技術であるため、それだけでも非常に恐ろしいことなのだが、体内を循環している魔力を観測することは想定内の範囲であるため、ザインは小さく安堵の息を漏らした。


「であれば、何をするかのう。ここから二年ぐらいの内容はすでに出来上がっているとなると、わしの目測がかなり外れるわい。」


魔術教本にも載っている内容で、魔法を扱う上で一貫して重要なことは、どれだけ瞬間的かつ円滑に魔力を放出できるかにかかっている。その際に、身体中に魔力を循環させることで、魔法発動の一つの頂点に手をかけることができるとされている。前世の経験から、ザインは非常に簡単に魔力を身体中を回すことができたが、その内容を二年で教えることができると考えていたアルベルの実力は相当なものであるとザインは目算を立てた。


「であれば、先生。魔力向上の基礎学習と並行して、その探知術を学べないでしょうか?」

「?。魔力感知のことかのぅ?そうじゃの、独学じゃとそのあたりはおろそかかもしれん。時間のかかる魔力循環が可能なのであれば、その分、他の基礎をテンポよくこなしていくとしようかの。」

「はい。よろしくお願いします、先生。」


 非常に教育欲に溢れたアルベルに対し、午後から行われる剣術指南の教師である女性騎士は、真面目ではあるものの、教育に対する強い意欲はあまり感じられなかった。

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