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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第二章 第二部

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少し本気と行こうか

 合図はない。

 実際の戦場やダンジョン内での戦闘でも同様だ。ここ数百年国家間の戦争が起こっていない。しかし、このような私闘に合図が入る方が稀だろう。

 むしろ、最初の一撃こそが最も互いの実力が如実に現れると言ってもいい。


 だからこそ、バルドルの攻撃は毎回右手での大振りの一撃になる。


 身体能力にものを言わせ、一気に距離を詰め、反応出来ないほどの速度で打ち込む。この一撃を何度も繰り返し修練してきた。

 そして、使われることは稀だがその後の動きも何通りにも渡って、準備している。

 右手での大振りの一撃と同じように後方に下がることで回避されたバルドルは、遠心力で外へ向かっている矛先を己の腕力のみで静止させ、先ほどよりも早いタイミングで左右の手で掴み直す。彼の頭上で一時停止し、ザインの正中線めがけ縦断する。


 ギィィィィ。


 と甲高い金属同士の擦れ合う音が静寂した夜の路地に響く。


 ザインの左手に持たれた剣がバルドルの矛先の重心を捉え、腕力に関係無くその軌道を変える際の擦れる音。

 刹那、方天画戟が石畳に衝突する轟音が響く。


 自慢の一連の攻撃が通じない。その事に苛立ち以上の高揚感がバルドルを包む。

 ここ数年は、肌をひりつかせる戦闘は行えてこなかった。バルドル以上の実力者は皆、穴に潜って帰ってこない。

 だからこそ、一撃で終わらない戦闘は彼が最も望んでいるものである。


 灰色の瞳がバルドルを捉える。すぐそばを自分を絶命させる一撃が通ったにも関わらず、その瞳に一切の恐怖はない。それだけ、自身の実力に自信があるのだろう。

 右手に持った杖が魔力を帯びると同時。火球が形成される。


「爆ぜろ」


 ザインの言葉とともに形成させた火球がバルドルに向け放たれる。

 しかし、


 「弱ぇな。」


 通常の人間以上の頑強さを持つバルドルは吹き飛ばされる事なく、その場に留まる。


 「チッ……。」


 舌打ちとともにザインは距離を取ろうと後方に下がる。が、魔力で強化したザインの身体能力でもバルドルのそれに及ばない。即座にバルドルも追走する。


 「反応はいいが、火力不足だな。」


 並走しながらも、バルドルは方天画戟を短く構え、ザインに対して攻撃を加える。

 戦闘とは無縁の人物であれば反応出来ない速度の連撃。しかし、回避や相手の攻撃を自身に当たらないよう誘導することを得意としているザインには当たらない。


 「いなす躱すじゃ、オレより強いとは言えねぇなぁ!」

 「だろうな。だが、一撃も与えられないのなら、強さの証明もできていないぞ。」

 「話す余裕があるなら、どんどん行くぞ!」


 と、大きく振る方天画戟の勢いを利用し、ザインも大きく距離をとることに成功する。

 ザインの攻撃の基本は魔法だ。あれだけの至近距離で、自身には影響のないように魔法を行使する技術は素晴らしい。しかし、無詠唱の威力の安定しない魔法では、バルドルの耐久力を上回るのは、容易ではない。それ相応の集中力を必要とする。


 「違げぇな。オレが感じた強さはそれじゃねぇ。」

 「すまないな。君の感覚は俺にも理解できない。だが、これでは決定力が欠けることは認めよう。」


 そう告げると、ザインは左手に持った剣をしまい、空いた左手に杖を持ち替える。


 「ベタだが、少し本気と行こう。」


 空気が少し変わったのを感じる。

 それはほんの僅かな変化。いや、厳密には何も変わっていないのだろう。だからこそ、その僅かな空気の変化に気づけるのは、いま対峙していること二人だけである。

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