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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第二章 第二部

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表向きの交渉

 当初の予定から遅れること一刻。

 その割を食ったのはメフェリム家の面々のみであったことは不幸中の幸いだった。


「では、オーエン。魔族領の方々をお通ししてくれ。」


 本来であれば、皇帝の使用人を用意されるはずの場所で、メフェリム家の使用人長である、セバス・T・オーエンがいるのは今回の魔族領との対談の機密性を重んじてのことだ。

 

 部屋にはメフェリム家の人間と皇帝しかおらず、席に腰掛けているのはカサンドラ、オルトリア、アシュルの3名だけで、対面は空席となっている。


「……お前は座らなくてよかったのか?」

「何言っているんだ、バイル兄さん。あくまで、僕らは護衛。よしんば座るなら軍務を預かってる兄さんの方だ。」


 からかったつもりのバイルに対し、ザインから正論が返ってきたことで彼は肩をすくめて口を閉ざす。

 今回、皇帝の護衛はメフェリム家の人間しかいない。

 万が一、魔族領の特使がこの場で暴れることがあれば帝国は大混乱に陥る。


「(最悪の場合、これまでの算段が無に帰す。それは避けたい。)」


 最悪の場合、これまでザインが生まれてから一度も使う機会のなかった、『スキル』と呼ばれる前世の技能を活用する可能性を頭のかたすに置きつつ、体に巡る魔力の質をあげる。

 

 コンコンコン。


 入室の許可を求めるように、オーエンの言葉が続く。

 反応するのは当然、この場で最も身分の高いカサンドラ。


 ザインは注意深く、しかし、警戒されないように入り口に全神経を集中させる。


 数は5。

 こちらに人数は揃えるよう、オーエンが調整を行ったのだろう。


 初めに入ってくるのは、羊の角を持つ最もきらびやかな女性の魔族。次いで、屈強な男。そして、この場に似つかわしくない使用人の服を着た少女。そして、再び屈強そうな男性と、司祭のような装いの男性。


「(交渉役に護衛。司祭までは理解できるが、使用人? 帝国の給仕は受けない意思表示か?)」


 自然と視線はこの場にふさわしくない口布をした少女に集まる。

 顔は伏せており、口布も相まってほとんど顔立ちを確認することはできない。グレーの髪の毛は光の当たり方によっては白髪にも黒にも見え、黄金の二本角が捩じれながらも上に伸びている。

 ザインの収集した情報の中には、魔族は角は隠すことができ、人間種と全く同様の見た目を造ることができるらしいが、今回はその必要性がないが故にそのままの姿を取っている。


 ふと、少女が顔を上げ、ザインと視線がぶつかる。


 黄金と真紅の瞳のオッドアイ。特徴的な虹彩がザインを捉えた瞬間。


「あ、あが……。」


 使用人の少女が頭を押さえ、その場に崩れる。

 一瞬、突然倒れたその少女に全員の視線が集まるが、カサンドラ、オルトリア、ザインはすぐに魔族領の使者の方に向き直り、身構える。

 それは階級社会で生きるものとして当然の反応で、目の前の使者の反応次第では、今後の関係に左右する問題だ。


 帝国の有する情報では、魔族領もしっかりとした貴族制度をとっていることを踏まえると、同行者の使用人のひとりが体調不良になったくらいでは、問題にならない。寧ろ、襲撃を疑う素振り見せるなら弁明を行う必要性すら出てくる。


 しかし、使者の反応はザイン達が予想していたものと大きく異なっていた。


 目を見開き、大きく口を開いて何かを叫びそうになるが、寸前で口から音は漏れない。


 原因のわからない体調不良。最悪の場合襲撃すら警戒しなくてはならない状況。この場にはそれを行う価値のある人物が多くいる中で相応しくない激しい動きで使者が立ち上がる。

 その行動に、ザインはさらに魔力を研ぎ澄まし、全身に巡らす。


 使者の女性は一介の使用人には相応しくないほど丁寧に抱き抱える。そんな様子に、困惑しながらもカサンドラが口を開く。


「……どうかなさいましたかな? そちらの少女は?」

「……い、いえ。少し体調が良く無い、みたいでして。ご迷惑をおかけしますが、少々時間をいただきたく……」


 明らかに戸惑い困惑しているのは、自分の行動に対する自責の念なのかは不明だが、使者の女性は目線を少女から離さない。


「ええ。問題ございません。オルトリア。部屋をもう一室借りるぞ。」

「問題ございません陛下。オーエンに案内させましょう。」


 カサンドラの願いを聞き入れ、オルトリアは懐から金属製の笛を取り出し口にする。


 音はなかった。


 まるで犬笛のようなその笛の音が聞こえたようで、数秒も待たず部屋の戸が叩かれる。

 主人の許可を得たオーエンが、中の様子に表情一つ変えることなく、一歩身を引き案内をする姿勢を作る。


「客人の体調不良だ。一室用意してくれ。」

「かしこまりました。」


 使者に丁寧に抱き抱えられた使用人の少女を受け取るように、オーエンが近づくと、突如、使者の女性は豹変する。


「触らないでいただきたい!」


 誰もがその変化に驚く。


「あ……いえ失礼。こちらの不手際の問題です。帝国の方には部屋をお借りするだけ、我らで運びます。」


 何かを察したオーエンは、一歩身を引き誘導するように道を開ける。


「では、案内いたします。こちらです。」

 

 魔族領を代表する使者自ら、使用人の介抱を行なっていることに疑問を抱いているのは、ザインだけではなかったはずだが、誰一人としてその疑問を口にすることはなかった。



戻ってきた使者の女性は、部屋に入るや否や、頭を下げる。


「こちらの連れのものが大変失礼いたしました。」

「いえ。しかし、大丈夫なのか? もしかしたら……」


 襲撃なのでは? という疑問をカサンドラが持つのは当然の思考の流れで、この密談の内容なその想像を容易に行うことのできるものだ。

 それは、帝国国内でも、国外でも、それこそ魔族領内も一枚岩ではないはずである。


「その可能性はないかと。あれは、彼女の特性と申しますか……」


 言葉は濁しているものの、今回の状態に陥った原因ははっきりしているようで、こちらからの言及を断るようなそぶりを見せる。その意図を察し、カサンドラもオルトリアもその後の言及を避ける。


「では、時間もないので早速本題と参りましょう。今回、そちらからのコンタクトは、今後我が帝国との関係構築を望んでいる。と、理解してよろしいのですか?」

「単刀直入ですね。」

「ええ。この対談自体非公式ですので、以後の関係には含まずにお話いただきたい。こちらとしても国境侵犯に関しても問わない。」


 このような話を行うのは、若いカサンドラよりオルトリアの方が威圧感が出る。堂々としたその風貌もその威圧に拍車をかける。


「……そうですね。では、こちらも無礼を承知で伺う。……ご想像の通り、今後魔族領として帝国の方々との交流を望んでおります。ただし、これは、魔族領全体の総意ではないことだけは先にお伝えしておきます。」

「総意ではない。とは?」

「貴方方もそうであるように、我ら魔族領も一枚岩ではないという話です。」


 その使者の言葉は、まるで帝国の内情を知っているかのような、冷たいプレッシャーを感じた。


「なるほど。では、今回訪問したあなた方の後ろ盾になることを希望されているので?」

「いえ、そこまでのことは望みません。ですが、今後のことも含め、我らが帝国内に滞在することを許可していただきたい。」


 使者のその言葉に、カサンドラとオルトリアは顔を見合わせ、そして、二人の視線は使者の角へと向かう。


「失礼かもしれないが、それは難しい。魔族領の者であると、一目でわかる。正式な国交が開く前に不要なトラブルは避けたい。」

「……あぁ、この角のことですか。問題ありません。」


 使者はそういうと、瞳をとじ何かを小さく呟く。その言葉は魔法を使用する際の言葉とも異なり、帝国側の人間は誰一人として理解できない。

 すると、淡い光が角を包むと、羊のように曲がった大きな角はその姿を隠す。


「これは、我らの技術として誰でも扱うことができます。隠せない者は今回は同行しておりません。身分は……異邦の商人と言うことで、ここの一室を貸していただければ問題はございません。」


 それが問題になるかどうかは、この別邸を所有しているメフェリム家の問題だろ。と思うザインの気など知る由もなく、オルトリアが反応する。

 彼も魔族のこの特徴を見るのは初めてのはずだが、落ち着いた姿勢は崩さない。


「いいだろう。なら、この館を使いたまえ。あなた方がいる間は、私もここに残ろう。それなら、陛下の業務にも支障はないはずだ。ただ、交渉を一任してもらうことになる。」

「君ならいい。だがいいのか? 領地のこと……」

「アシュルには全て引き継いだ。バイルもいれば領地は回る。」


 それよりもこちらの問題の方が大切であるというオルトリアの心情はザインにも理解できた。

 魔族領の使者がどれだけの期間、帝国に滞在するかは不明だ。しかし、彼らも長期間帝国に居続けることは不可能だ。その短い期間にメフェリム家の領内の問題はすでに解決するだけの引き継ぎは行なっていた。


「ご配慮痛み入ります。我らとしましても、長居するつもりはございません。今後の両国にとって『あってよかった』と思えるような、期間にできればと思っております。」


 頭を下げる使者の目線が、ほんの一瞬。ザインと交わったと思ったのは、おそらく彼の気のせいだろう。

 

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