非公式な訪問者
皇帝がメフェリム家の別邸に到着したことにより、今後の話の向性をまとめている頃。
魔族領から来た特使のいる部屋は騒然としていた。
「バルドル。貴様の行いは目に余る。この対談中は、皇帝への謁見は許さん。」
羊の角を持つ女性が、赤髪の大男に対し冷たい視線で叱責を行う。
それに対し、バルドルは飄々とした態度で、手を振る。
「へいへい。わかってるよ。ここで大人しくしてりゃいいんだろ。」
彼から全く反省の色は見えてこないが、この部屋で待機することには納得したようで、部屋の隅に用意させたソファーにだらけて腰をかける。
その様子に一団の誰もが、怪訝な表情を浮かべるが、一人だけ平然とした表情をする少女。
その少女が身に纏っているのは女性の給仕係が身にまとうそれであった。黒を基調としたロングスカートの裾をもちクルクルと回っている。無表情に近い彼女だが、彼女なりに楽しんでいるのだろう。
「神子様。はしゃぐのはわかりますが、落ち着いていてください。今回は非公式なのですから……。」
「わかっているの。そのくらい。」
バルドルを叱責した時とは打って変わって丁寧な口調で少女に声をかける。
羊の角を持つ女性の服装からみるにこの一段における責任者であるのだが、少女に対しては礼を崩さない。
「今回は、給仕係ということで同席していただきます。見えなくなってしまった原因を探索するのは、本日以降。正式な国交を結んだのちになります。」
「そうね。早く解決しないと居場所もないものね。」
そう寂しそうに語る少女に対し、なんと声をかければいいのかわからず、全員が戸惑う中ソファーに寝そべっていたバルドルが高らかに笑う。
「はっは! そりゃ、未来の見えない奴が『神託の神子』を名乗ってりゃ、世話ねぇもんんなぁ。」
「そうね。こんな問題児まで押し付けられているものね。」
「ああ゙ぁ?」
「あら、気に障ったの? それは失礼したわね。」
二人の会話に誰も口を出さないが、バルドルの発言に対しては一様に怪訝な表情を浮かべる。
「其方の言う通りなの。此方についてくるようなのはモノ好きだけなの。」
黒い口布に覆われた顔は半分以上見ることはできない。しかし、その表情はどこか儚げで、何かを諦めさせていることを連想させる。
「……神子様。この帝国への訪問が状況を打開させる一助にいたしましょう。」
羊の角を持つ女性が、『神子』と呼ばれる少女元気付けようと言葉を口にすると、一団の皆(バルドル以外)が少女の元に駆け寄り、口々に言葉を口にする。
そんな様子をソファーの上から横目にバルドルは吐き捨てるように毒を吐く。
「…ッケ。くだらねぇ。」
バルドルと数人の見張りを残し、使者を含めた数人は帝国の重鎮の待つ部屋へと向かう。




