遅れた理由
メフェリム家の帝都別邸を後にし、皇帝の居城に着く頃には、すでに日が傾き始めていた。
しかし、ザインたちが予定の応接室に到着して早一刻の時間が過ぎてようやく、皇帝が応接間に姿を表した。
「いやすまない。少々立て込んでな。」
「……構わないが、その言葉遣いはなんとかしたほうがいいな。ここからは外交の場だ。」
「お前達と私だけじゃないか。」
厳格なオルトリアに対し親しく接する皇帝――ヴァンドリヒ・カサンドラ。女帝にして、元ダンジョン攻略を積極的におこなっていた経歴を有する。
オルトリアとは一回り近く離れているはずだが、かつて同じ師のもと切磋琢磨していた時期もある。と、いうのが、ザインの調べた情報である。
「それで、あれらが、お前自慢の子供達か?」
「そうだが、他人の子をあれら呼びはやめろ。」
「いや。すまない。――やあ、直接言葉を交わすのは初めてだな。カサンドラだ。遠縁だが親族だからね。今後もよろしく頼むよ。」
そのよろしく頼むの言葉の中には、帝国のバランスを保つための表向きの犬猿関係のふりも含まれていることに、ザインは小さなため息をつく。
「無駄話はこれくらいにして、先方は、もう控えているのだろ?」
「そうだな。ああ、あちらもあちらでトラブルがあってな。時間は少しだけある。と言っても、政はお前に任せたい。特に今回のようなイレギュラーはな。」
「……魔族領か。なぜこのタイミングで……。」
皇帝は元々武人気質なところがあり、こう言った政は忌避していた。幸いにも国内国外問わず、100年近く安定してきたからこそ、皇帝を含め、帝国の方針をダンジョン攻略に進める事が出ていた。
しかし、ここにきて建国より1000年。こらからのアプローチを黙殺していた魔族領が、接近してきた意味を考えるのは当然の思考だ。
眉間にしわを寄せ思考を進める、父と長兄。その二人を眺めつつ、なぜか笑みを浮かべている皇帝と目が会う。
「まぁ、理由は話し合いの中で探るとして、こちらの要望としては聖王国のみが独占している、魔族領の持つ遺物の販路獲得だ。」
「しかし、問題なのはその輸送手段だ。現状、今回の使者のルートすら判定できていない。聖王国を経由するルートは、あまり望ましくない。」
それが、今ままでその販路を独占していた国となればそことの外交上の亀裂は生まれる。
「……出たとこ勝負。になりそうだな。」
「ああ、あまり望まない状況だがな。」
現時点は、帝国と魔族領の関係性は無関係。
その状況で国交を結ぶことに対して前向きになってくれた魔族領の大使に不快感なく帰り、再訪を約束できれば最も良い着地になるだろうと、ザインは心の中で対談の方向性を整理する。
「(その上で、彼女の目的の一助でも得られれば最良という感じだな。)」
思惑は胸に秘め、魔族領との対談へと歩みを進める。




