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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第二章 第二部

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魔法職入試試験

学園 入学試験2

 帝立魔法学院を14歳の若さで卒業課程まで行ったテレシアにとって、探堀者育成機関(アカデメイア)の入学試験は非常に退屈なものであった。

 一次試験の筆記の問題の内容も学院での授業以上のものは出てこないし、今行われている魔法の演舞もため息が思わず出てしまうほどのものしかない。


 ダンジョンの中にはいまだに帝国では発見されたことのない魔法技術が多く眠っている。その魔法を解析し、再現した探堀者の魔法の中にはテレシアでも目をみはる技術はあるのだが、それを受験生に求めるのは酷な話だ。


「――事実、わたしも再現し切れていないのよね――」


 三つ編みにした深い緑色の髪の毛先をいじりながら自身の番を待つ。

 テレシアが学院で研究していた魔法もダンジョン固有の魔法だ。その適性があるとわかってから、寝食を忘れて研究に打ち込んだ時には、師匠に怒られもした。

 その研究を次の段階にあげるため、実際のダンジョンに入る必要がある。そう感じて、この学園の門をたたいたのだが。


「案外期待はずれかもしれないわね。」


 しかし、まだ期待はある。あの夜。あの路地裏で見た魔法。その彼が受験会場にいる事はすでに見ている。


「――また彼の魔法を一度見る。それがあれば、まだきた価値はあるかもしれないわね。」


 あの時は遠目で、暗かった。理解するまでの時間がなく、暴漢もいた。そんな緊張状態は日常になかったのだと、テレシア自身はイイワケを並べる。


「45番! テレシア・リーン。演舞を開始してください。」

「え。あっ、はい。」


 それ故、試験官の女性が声を荒げるまで聞こえなかった。

 名前を呼ばれたテレシアは、群衆の中から一歩。歩みを進めていく。


「……テレシアってあの?」

「学院最年少卒業って……。」


 テレシアはこの帝都では有名人だ。最年少の学院卒業生としても、100年に一度の魔法の天才としても。そんな学問の徒が、血生臭い探堀者の巣窟に何しにきたのだという非難の目はテレシアにもわかる。


「(――好きにいってなさい。)演舞。まいります。」


 右手にもた杖を構え魔力を込める。


 ダンジョンを攻略する探堀者の魔法に求められる要素は単純だ。

 速度、威力、範囲。そこに魔力効率が完璧であればより良い。

 それは、学院での終盤の研究の全てをダンジョンの魔法に費やしたテレシアには釈迦に説法と思えるものだ。


 仄かに発光したテレシアの杖は、流し込まれたテレシアの魔力を魔法に変換する。その速度は、コンマ0秒の世界でこの日のために必死に修行してきたであろう他の受験生には再現不可能な領域にあった。

 刹那、周囲に光の柱が発生し、的となる木製のカカシに収束する。目をつむりたくなるほどの発光が収まると、目の前にあったはずのカカシは完全に姿を消し、周囲に焼け焦げたような臭いが充満する。


「こ、これは。」


 試験官の女性が驚愕の表情を隠す事なく口を半開きの状態で言葉を漏らす。

 理解できるはずがない。

 この魔法は、テレシアがつい先日まで研究していたダンジョン固有の魔法だ。現時点の魔法体系には組み込まれていない魔法の中で、テレシアが最も早く展開可能で、殺傷能力に秀でた魔法。


「(魔力の収束は改良の余地があるわね……)。以上です。」


 自身の演舞が終わり、一礼を行うと再び群衆の中にテレシアは歩みを進める。

 先ほどまであった周囲のざわめきは一切止む。そればかりか、受験生の群衆に歩みを進めたにも関わらず、テレシアの周りから人がはけていく。

 魔法の採点をするべき試験官では理解できない魔法をすべきではなかったと多少の反省を行うも、試験官の中には学院の教員も混ざっている。彼らがいれば、彼女の魔法に対し適切な評価は得られるだろう。

 できることも終わり、テレシアが次に集中すべきは、彼の魔法の演舞だ。あの時の魔法と全く同じものを見れてもいい。それ以外の可能性を見れればよりいいだろう。そう行った意味では、周囲から人がいないのは、観察するにはうってつけであったと言える。


「次50番。メフェリム・ザイン……。」


 数人の演舞ののち、目的の人物の名が呼ばれる。この国のNo.2の貴族の子息を呼び捨てにすることに対する抵抗が語尾に出る。

 

「……メフェリム家って」

「アレが、ザイン様……」


 周囲からはテレシアの時と同様にざわめきが広がる。

 無理もない。騎士として無類の強さを誇ってきたメフェリム家。歴代当主は帝国の中。以上な強さを誇る探堀者を含めても上位の実力を持つ騎士の家から産まれた、魔法使い。

 その見た目から一部の者から根拠のない噂も広がったこともある。しかし、帝国の情勢に興味のないテレシアの耳にまで彼の噂は入ってくることがあった。

 曰く、たった三人で盗賊団を壊滅させた。とか。

 曰く、齢8歳で魔獣化した獣を跡形もなく消滅させた。とか。

 曰く、その魔法の一撃は空を飛ぶ魔獣すら落とす。とか。

 多岐にわたる。

 実際に目にしたというものは少なく、彼の家の領内の行商人が運んでくる噂話程度の話だ。


「はい。」


 静かで重い。しかし、聴き心地イイ声が会場に通る。テレシアの時とは別の理由で彼の前の道があく。姿勢の一切崩れないその歩みは、貴族の教育の質の高さを物語っている。


「魔法に規定はないということで良いですか?」

「え、ええ。得意な魔法でもよろしいですよ。」


 明らかに今までの受験生の時と声色が異なる試験官の女性。

 といってもそれはザインに対して、失礼を働かないようにする緊張の色が一目瞭然だった。


 「では。」


 と、彼が虚空に右手を伸ばすと何もなかったはずのその手の中に木製の杖が出現する。


「(転移魔法? いや、今ここで作った。)」


 念のため、テレシアは彼の行動の全てに神経を集中させる。

 既知の魔法であっても彼の洗練された魔法は、他の受験生と比べるのが失礼なほどだ。

 ザインは右手の杖を新たに設置された木製のカカシに向ける。その杖にこもる魔力は非常に微細で、大きな威力は期待できないだろうと、テレシアは推測する。

 刹那、木製のカカシが爆ぜるように炎に包まれる。


 見た目は何の変哲も無い中級クラスの炎の魔法。


 一切の詠唱をせず発揮される魔法からは想像できないほど正確かつ素晴らしい威力を持つ炎。

 テレシアの演舞の後でなければ、間違いなく称賛されるレベルの魔法だ。しかし。


「……さっきの方がすごくなかったか?」

「ザイン様でもテレシアには及ばないってことか。」


 他受験生の心無い発言が小さく広がっていく。

 比較対象が100年に一度の魔法の天才と比べられることに対して彼らの中に同情の気持が広がってゆく。それは、魔法に触れてまだ十数年程度の若い試験官も同様の意見を持ったことだろう。

 噂に見合わない、一般的な天才の枠を出ない魔法。それがここで大体多数が出した結論だ。

 しかし、その評価をしないものは、この会場に数人存在していた。


「何、今の魔法……。」


 その一人にテレシアは含まれていた。

 魔法の威力、規模どれを見ても中位クラスの炎系の魔法であることは確実だ。テレシアもあらゆる魔法を知り尽くしているわけでは無い。しかし、今回はテレシアもよく知る魔法が、未知の技術で放たれた。

 未知の技術に直面した知識人のとる行動は単純で、自身以上の知識の有するものに助けを求めることだ。ただし、そこにプライド以上の探究心が合わさった場合に限られる。


 テレシアと試験官を務めていた魔法学院の教師の目線が交錯する。

 互いが互いの知識を補完できる可能性を見出して送った助け船は互いの知識がすれ違う結果となった。

 教師陣でも理解できない現象。それがわかるだけでテレシアの心音が一音上がるのがわかる。


 知りたい。聴きたい。理解したい。


 今にも走り出して聴きたい欲求を抑えるのに必死で、いつものつまらなそうな無表情な顔が崩れていることにテレシア自身も気がつかない。

 

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