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プロローグ4

もし、あなたが永遠の命を持つとしたら。

 あらゆる敵を倒し、あらゆる頂点を極めた先に、何が残るでしょうか。

 魔王は、その答えをずっと探していました。まさか神様が持ってくるとは、思っていなかったでしょうけれど。


 

プロローグ4

 この瞬間を——まさか、これほど長い時を経て迎えることになるとは。

 玉座の間に静かに座す魔王の双眸が、ゆっくりと見開かれた。幾千、幾万の季節を重ねてもなお、この心を満たすことのできなかった退屈と疲弊が、今この瞬間、根こそぎ吹き飛んでいく気がした。

 何もないはずの虚空が、裂けた。

 光の渦が生まれ、やがて完璧な円環を成す輝きが顕現する。その向こう側から押し寄せてくる力の波動は、魔王が生涯で一度たりとも経験したことのないものだった。圧迫ではない。もっと深いところ——存在そのものを直接揺さぶるような感覚。


「これが、まさしく本物の神というものか。」

 自称『神』との対峙など、何度あったことか。永遠を謳歌する不老の種族、嵐と大地を意のままにする龍の一族、そして己の矮小さを棚に上げて神を騙った人間種——しかしそのいずれとも、今感じているこれは、根本的に次元が違う。

 恐れではない。もっと根源的な何かだ。

 光は眩い。目が焼けるほど眩いのに、なぜか痛くない。それどころか、その輝きは意識から他のあらゆるものを切り離し、ただその一点だけに縫い付けるかのようだった。体が動かない。指一本すら。歴代最強を謳われ、あらゆる耐性と防御能力を積み重ねてきたこの魔王が——赤子のように。

 幼少期以来、感じたことのなかった無力感が全身を包む。

 それでも、目だけは離さなかった。

 光輪が広がり、その内側にシルエットが浮かびあがる。四肢と頭部を持つ、人のような形。しかし性別も容貌も、光が眩しすぎてまったく判別できない。そして、それが音を発した。耳ではなく——魂に直接刻まれるような声で。

「世界の理に触れしものよ。そして、それを越えようと目論む者よ。今、汝に、至高の裁きの審判が下された。」

「ほう。裁きの審判とは、ずいぶんと大きく出たものだな。」

 心臓が、信じられないほどの速さで打ち鳴らされている。この高揚感が表情に滲まないよう、魔王は必死に冷静を装いながら、続けた。

「して。その裁きとは、具体的にいかなるものなのかな。」

「……この世界からの消滅を、汝に。」

 重い沈黙の後、光の中の存在が、杖のような細長いものをゆったりと前へ突き出す。

 (だが——思考はできる。)

 肉体は完全に縛られている。しかし精神は自由だ。ならば突破口はある。魔王は、拘束された体の奥深くで、静かに魔力の生成を開始した。魔法とはこの世界において儀式だ。思考さえできれば、魔法陣であれ詠唱であれ——鍵を使う手段は残されている。

「(この存在は、生命の概念、我々が『HP』と呼ぶようなものすら持たない可能性が高い。通常のアプローチは無意味。ならばっ——)」

 取り得る手段が極限まで絞られていく。そして魔王の思考は、ただ一つの答えへと辿り着いた。


 一方、光の中に立つシアは——盛大に焦っていた。

 理由はシンプルだ。この圧倒的な神の力を、具体的にどう使えばいいのか、まったくわかっていなかった。

 少し時間を遡ろう。シアが杖を前に突き出す、その直前のことだ。

 どうやって使うの、これ。

 混乱しながら必死に考えていたそのとき、自分の手が——勝手に動いた。

 意志とは無関係に、杖がゆっくりと前へ突き出されていく。

「そっか、力そのものが使い方を知ってるのね。なるほど——」

 安堵したのも束の間。自分の意志で止められない、という事実に気づいたときには、もう手遅れだった。

「ちょっと!?これ、一体何しようとしてるの!?」

 全身の神器が淡く輝いている。何かとてつもない力が行使されようとしているのはわかる。でも何をしようとしているのか、まったくわからない。

 そして目の前の魔王が、拘束されているはずなのに、体の奥で何かとんでもないものを練り上げているのが、はっきりと見えた。シアの目には、当然ながら拘束など見えていない。つまりシアからすれば——

「私、完全に無防備な的じゃない……。」


「いいぞ!!神よ!これだ。これが私が永劫の時をかけて切望していたものだ!」

 死にたくない——その一心で、気の遠くなるような時間をかけて力を磨いてきた。しかし終わりのない永遠と、果てしない退屈が、いつしかその渇望を変質させていた。生への執着ではなく、己の存在を根底から揺さぶる圧倒的な理不尽との対峙へと。それに気づいたのは、まさにこの極限の瞬間だった。

「理不尽であるが故に、貴様にも理不尽を与えよう!おのがチカラが自身に牙を剥く、その恐怖を味わうがいい!」

 魔王は、極限まで練り上げた魔力のすべてを、ある禁忌の魔法へと注ぎ込んだ。まだ名前のない魔法だ。あまりに新しく、あまりに個人的で——この絶望的な状況でしか発動できない、究極の一手。

 発動条件は、己の死。

「我が魂のすべてを!貴様もろとも、この世界から永久に消え去るがいい!」

 光の存在は何も答えなかった。余裕なのか、別次元で何かしているのか——判断できない。しかし時間はない。

 魔王の体から溢れ出た魔力が、無数の半透明の腕へと変わっていく。それに呼応するように、杖から禍々しい光が放たれ——腕はさらに数を増し、光の中の人型へと絡みついていった。

「ちょっと待って!何これ!?気持ち悪いんですけど!!」

 シアの絶叫は、玉座の間に虚しく吸い込まれた。腕は直接肌には触れない。しかし視覚に映る無数の腕が全身を覆い尽くしていく感覚は——理性では処理しきれない嫌悪感をシアに叩きつけた。

「気持ち悪い、気持ち悪い、気持ちワルイ!」

 逃げられない。振り払えない。叫ぶことしかできない。

 そして杖から放たれた光が魔王を完全に包んだ瞬間、シアの姿もまた無数の腕に覆われ——玉座の間から、完全に見えなくなった。


今回は週初めに投稿することができました。

次がプロローグ最後になる予定なのですが、概ね8,000字あるので分割するか悩んでおります。


途中、修正を入れつつ物語における矛盾点はないように作っていますが、何かあればご指摘いただけると幸いです、

またみてみんにて、こちら以上の頻度でのイラスト投稿も行なっていくので、こちらの時間軸より先の見た目になりますが、楽しんでいただけると幸いです。


では、また次の機会に

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