ユリアの覚悟
想像もしていない事が目の前で起きた。
先ほどまで共に戦い、超えなくてはならない次の壁だと思っていた二人。
しかし、その壁の正体は、ユリアが想像をはるかに超えるものであった。
全力だと思っていた。
いや、彼女の性格を考えるに、先ほどの帽子を被った男性と戦闘を行っている時も『全力』で戦闘を行っていたはずだ。しかし、心の何処かでは、試験であるという安心感があったのだろう。
だからこそ、今の二人から出てくるような『必死さ』は、先ほどまで存在していなかった
ユリアの両手に自然と力がこもる。
裏切られた。と、いう気持ちはない。
全力戦闘を抑えるのは、必要な事だと理解している。共に、戦っていてもリリシアとユリアは、同じ試験を受けるライバルだ。
この団体戦の後に、個人戦が待っているかもしれない。入学後も互いに高めあっていくにしても、実力の全てを見せる必要はない。
そんな事は理解できる。
しかし、先ほど乗り越えたと思っていた感情が再び渦を巻く。
目標のために必死で努力をこなし、それを発揮する日に再び出会った高い壁。
最終の目標自体が遠のいたのであれば、まだ気持ちに変化はなかっただろう。目指す先に見える景色を求め、より研鑽を積む事はできる。
――嫌だ。そんな事考えたくない——
ユリアは自身の中に渦巻く、負の感情を必死で否定する。
疲労によりどんどん悪い方向に進んでいく思考を、両手で頬を叩くことで強制的に中断させる
地面に突き刺した斧を再び両手で握る。
――できることは少ないけど、ここで止まってたら、先に進めなくなる――
思考もまとまっていなければ、数秒の戦線離脱では疲労も回復していない。
しかし、嫌な方向であっても思考が回ったことで、引きちぎれそうであった思考の糸は、良い方向で余裕が生まれる。
片膝をつき、斧の柄も使って支えていたところから再び立ち上がる。
先ほどまで、軽々振るっていた斧の重みが両肩にのしかかる。
だが、
まだ持ち上げる事はできる。
まだ武器を振る事もできる。
「まだ、一緒に戦える。」
ユリアは走り出す。その瞳の中の光が揺らぐ。
それは、先ほどまでの光と同質でありながらも、わずかに輝きを増す。
刹那、ユリアはバルドルと、リリシアの戦闘の最中に割って入る。
極限の緊張状態で引き攣り始めていた、リリシアの表情がわずかに朗らかになる。
「ユリア。よかった、大丈夫そう。」
リリシアは安堵の表情を浮かべながらも戦線に復帰したユリアに負担をかけないためにも、バルドルに向け走り出す。
バルドルとの戦闘は、リリシアがメインで戦闘を行いユリアがバックアップを行う。その予定で動いていたが、リリシアの想像以上にユリアに負担をかけていたことを反省し、単独戦闘を行う方向に切り替えた。
しかし、それは杞憂だった。
斧を握る手は力強く、地面を蹴る足は明確な意思を感じ、瞳には敵を見据えていた。
「ユリア?」
一瞬しかユリアの表情を見る事ができなかったが、先ほどまでは感じなかった違和感を覚えるも、すぐにリリシアは思考から追い出す。
接敵は数秒。
ユリアが最も早くバルドルと接触する。
「ほう。まだここまで行けるか。」
先程とは異なるユリアの雰囲気を感じ取ったのか、バルドルも薙刀を構え直す。
接敵したユリアは、斧を大きく振り上げる。
回転の力も加わった一撃をいとも簡単にバルドルは弾く。
右手を離す事で、無理な力を加える事なく斧の矛先を変え、反対側からバルドルを狙う。しかし、
「その一撃は、もう見たぞ。」
バルドルほどの実力でなければ、ユリアの一撃は不可避とも言える練度を誇っていた。しかし、先ほどの攻防でもユリアの攻撃は通用しなかった。当然今回も難なくバルドルに防がれる。
だから、今回はここでは止まらない。
先ほど腕力のみでユリアの体を吹き飛ばしたことを逆手に取り、体の重心をバルドルに預け渾身の回し蹴りをバルドルの頭部に叩き込む。二発目の蹴りは、腕を上げたバルドルに防がれ、そのまま振り払う腕に乗って大きく飛びのく。
その間を縫うようにリリシアの突きがバルドルに迫る。
右手一本で身の丈ほどの大剣を振るうことにいまさらバルドルは驚かない。剣の柄頭にあたる部分を左手で押し込む事でさらに速度がます。
身を翻すだけでは避けることのできないことを悟ったバルドルは、大剣の身の部分を左手で強く衝く。
「くッ……!」
抵抗を試みるも、リリシアの腕力を持ってしても逸れてしまうことを止められない。
「なら!」
ユリアのように無理に抵抗するのではなく、バルドルの力も利用して剣を大きく回し、バルドルが武器を持つ方とは反対側の側面に叩き込むがこれも薙刀に止められる。
「ウゼェ!」
その言葉とは裏腹に、彼の言葉は喜びの感情が抑えられていなかった。
逆さに持った薙刀を両手で掴み直し横薙ぎに振るう。依然として接近してくるリリシアを振り払うことを試みるも、剣の背を滑らせ彼女の頭部を抜け、空を切る。
バルドルの薙刀を避けきるも、視界の端に力がこもっていく左手が入ってくる。なんとか、大剣の身を使ってバルドルの拳を受け止めるが、彼女の華奢な身体が宙に浮く。
この僅かな時間に空中を一回転したユリアが地面に着地し、再び走り出す。
バルドルの一撃を真っ正面から受けた、リリシアは痺れる両手を必死に力を入れ武器を離さないようにする。その視界の端でユリアを捉える。
「ユリア、凄い……」
1秒に満たない時間にユリアの攻撃が、二度、三度行われる。
リリシアの持つ大剣とほぼ同等の重量を持つ両手斧の重量を感じないほど自由自在に振り回す。
一撃の重さこそ、リリシアに及ばないものの、その手数、攻撃角度の多彩さで、バルドルを追い詰める。
リリシアの覚悟に感化されたのかは不明だが、誰の目から見てもユリアの動きが格段に向上した事は明らかだ。そして、それは対峙するバルドルが最も理解している。
「お前ぇ! お前もいいじゃねぇか!」
先ほどリリシアと対峙していた時と同じ、喜びに満ちた声でバルドルは咆哮する。
大きく薙刀を振り下ろすころには、リリシアの体の硬直も解け、二人の元へと走り出す。
武器の生成は上手くいかなかったのですが、表情は完璧!
両手斧の見た目は、皆さんの思い描く姿で(^-^;




