第二戦闘開始!
ユリアの声が聞こえると同時。
脊髄反射ほどの速度でリリシアが茂みから飛び出す。
場所は、赤髪の大男の左側面の死角。
「うん! 任せて!」
ユリアの言葉に反応して声を張る。
リリシアのよく知る、誰かに言わせれば、『奇襲を行うのであれば、その一撃が届くまで気付かれるべきではない』と言うだろう。
しかし、今回は実力を測るための試験だ。この一撃が生死を分ける訳では無い。
その特殊な状況が今回のリリシアの行動へと運ばせる。
茂みから飛び出したリリシアは、一気にバルドルとの距離を詰め、上段から大剣を叩き込む。
瞬時にバルドルもリリシアの方向を振り向くと、初めて足を踏み替え渾身の一撃を真っ正面から受け止める。バルドルにとっても想像以上に重い一撃により、わずかに武器が押し込まれる。
リリシアは続けざまに、バルドルの武器を利用して彼の頭の上を飛び越えると、一文字に胴体へ大剣を振るう。
「やるな!」
先ほどのユリアとの戦闘時に見せていた余裕のある笑みではなく、恍惚とした笑みを浮かべつつ、半身を弾きながらリリシアの一撃を受け切る。
腕力には自信のあるリリシアだが、先ほどと違い油断のないバルドルに対し力くらべでは叶わない。
リリシアの武器ごと無理やり腕力で押し返し、構え直したバルドルに対しユリアが肉薄する。だが、視界のすみではしっかりと捉えていたようで、斧を構え接近するユリアに対し、薙刀を振るう。
初めて見せるバルドルからの明確な攻撃に、ユリアも驚きつつも反応する。武器同士が衝突し、甲高い音が響く。腕力で大きく遅れをとるユリアが身体ごと動かされる。先ほどまでとは異なり、ユリアもそれに強く抵抗することなく、その力を利用しリリシアのすぐそばに着地する。
「ごめんね。一撃で決めきれなかった。」
「大丈夫。アタシも頼っちゃったから。」
「全然だよ! また、一緒にやろ。」
戦闘中にも関わらず、少し緊張感の緩む会話をする間も、バルドルからは決して意識は離さない。
最悪、攻撃が来れば問題なく反応できる、意識を向けた状態でユリアとリリシアは会話を続ける。
「今回は、シアにメインを任せたいんだ。アタシだとちょっと役不足みたい。」
「……そっか。うん、任せて。でも、サポートよろしくね。」
「もちろん。」
「もういいか? ようやく少し楽しめそうなんだ。そろそろ、再開しねぇか。」
二人の会話にしびれを切らし始めたバルドルが、薙刀を回しながら話しかけてくる。
「最近は退屈な奴等ばかりだったが、お前ら二人なら少々楽しめそうだ。」
大きく振るう薙刀は周囲の砂を吹き飛ばす。
そこでようやく、周囲の受験生に目線を送るが、誰一人として加勢する様子はない。
それ以上にマルコスすらその場で立ち尽くしこちらの戦況の様子を伺っている。
この戦闘に介入を行えば、バルドルが黙っていないと言う理由でリリシアとユリアを取り囲まないのは理解出来る。しかし、この戦闘に関係のないマルコスにすら手を出さないのは、今回の戦闘が命の危険のない試験だからだろう。
彼らも武人であり、今回の最大のカードの戦闘から目が離せないでいる。
「楽しませるつもりは無いけど、簡単にやられる気もないから。」
やはり最初に動くのはリリシアだ。
大剣を構え、走る。しかし、不意打ちでも通用しなかった相手に対し同様の一撃では同じ結果を生むにすぎない。そんなことはリリシアも承知の事実。そのため今回は、剣先が地面スレスレを通るように振り上げる。
先ほどと明確に異なる点がいくつか存在する。それは、決定的な一撃までリリシアが行わなくていい点だ。横にはユリアがいる。リリシアが見せてしまう隙も、バルドルが見せる隙も彼女ならついてくれるという確信がある。
だからこそ、リリシアは一切の躊躇なく武器を振るう。
当然、バルドルには難なく防がれるが構わず振り切る。甲高い摩擦音が響く。リリシアの動きが止まると踏んで次手を作っていたバルドルは、困惑をしつつもリリシアの予想外の行動に嬉しさを覚える。
続いて、腕力だけなら人間離れをしているリリシア。衝突により完全に初速を失った武器であれば、力任せに反対方向に持って行くなど造作のないこと。
右へ左へ。
リリシアの体重の半分近い重量の大剣を軽々と左右に振り抜き、バルドルの防御の突破を試みる。
「ふふはっ! いいぞ。そういうのも悪くない!」
「あっそ! こっちは良くないよ!」
バルドルもリリシアの攻撃を捌きながら僅かに後退する。最初の一撃以外は真っ正面から受けるのではなく、重心をズラす事で綺麗に受け流し始める。
この攻撃では決定的な崩しにならないと判断したリリシアは、大きく右に振り抜く。上半身を捻りながら剣の軌道を変え、バルドルの頭上に向け一気に振り下ろす。左右に振っていた時と変わらない速度、タイミング。
綺麗に受け流していたからこそ、難しくなるはずの一撃にもバルドルは反応し、リリシアの体側に半身をずらして回避をすると、初めて明確な攻撃姿勢に入る。
薙刀を振り上げ、リリシアの首元に照準を合わせる。
「やらせないよ!」
しかし、もう一人。リリシアの攻撃の変化を読み取った人物が入り込む。
ユリアだ。
バルドル同様、リリシアが攻撃の種類を変える瞬間を読み取り。バルドルが回避、反撃に転じた瞬間を予感したようなタイミングで跳躍し、斧を振るう。
完全な想定外。しかし、バルドルの表情は今までにない高揚感を示していた。
薙刀が弾かれ、体が大きく仰け反る。
その瞬間を逃さないよう、武器を地面から持ち上げたリリシアが追撃を行う。
少し食い込んだままの地面ごと刳りバルドルの腹部へ向け大剣を振り上げる。その一撃を避けるためにバルドルが初めて地面を強く蹴り大きく後退する。
着地し、前を向く。その表情は依然として笑みを浮かべていたが、そこに先ほどまでの弱者を見下す感情を見出すことはできない。
余裕から生まれる隙はもうない。
ユリアの直観がそう告げる。
ここまでに仕留め切ることのできなかった反省以上に、実力者が本領を出すに足りる存在であることに対する高揚感が優ってしまうのは、ユリアがまだ闘う者だからだろう。




