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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第二章

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入学試験 その手に

 敵陣の状況が慌ただしい。

 リリシアの耳には会話の内容が断片的に届いていたのだが、近くにいるゼイラの方を見ると全ての内容が聞き取れたようで、相手の受験生が一人走り去っていくのを見届けるとゼイラが口を開く。


「相手は仲間を集めるみたい。早々にケリつけないとマズイけど、作戦に変更はない?」

「うん。ユリアの提案通りにやってみよ。」


 ユリア自身作戦を立案し、行動する事を得意としているわけではない。しかし、信頼を言葉にされると表情が緩む。


「ありがと、シア。じゃあ、マルコス君。まずは任せたよ。」

「委細承知。役割は果たそう。」


 そう告げると、身体を隠した状態で移動する。

 そして、3人から十分離れた場所でその姿を見せる。

 一番最初にマルコスの姿に気がついたのはバルドル。しかし、彼の実力から脅威になると判断しなかったようで、彼の持つ得物を構えることはない。

 

「我が名はマルコス・ファウント。いざ尋常に一騎討ちを所望する。」


 今回の試験のような戦場で有れば一騎討ちの戦闘方式にこだわる人物は少ない。敵陣営の掃討もしくは、敵陣地のフラッグの回収を行うことが勝利条件である以上。一対一の戦闘で戦果を得ることは一切意味を持たない。

 しかし、逆に今回は試験である。その為、自陣営の勝利が試験の合否に関係ない以上、一対一の直接戦闘で自身の戦闘能力を試験官に見せる好機である。


 この状況で一番の実力者であろう赤髪の大男(バルドル)が誘いに乗ってくれば、リリシアたちがフラッグの奪取に動く。他の人物で有れば、その武器をリリシア達が潜伏している場所へと弾き飛ばす。それが、槍を持つポニーテールの女性で有ればマルコスが最も望む結果を得られる。


「(それを達成させるには、相手よりも私が圧倒的に強いことが大前提。いやはや、なんとも)」


 目の前の5人の情報は一切ない。

 この三次試験になるまでは、同世代の中でも上位の実力を有していると自負していた。しかし、目の前の赤髪の大男(バルドル)を含め、知らなかった実力者が次から次へと出てくる。世の中は広い事を思い知らされると同時に、目の前の受験生の実力を甘く見積もることもできない。

 

 大見得をきったマルコスに対し、間を置かず、返答がある。

 それは、マルコス達の望む結果ではあるものの最良の状況ではない。


「その一騎打ち、受けて立とう。」


 それは、大きな両手斧を持った大柄の男性。顔をおおう甲冑を着ている為、声以外に性別を判断することは出来ないが、マルコスの推測に間違いはない。

 マルコス同様、全身鎧を着込んだ彼は、両手斧の柄を地面に突き立て、周囲の仲間に宣言する。


「この敵はオレが打ち取る。誰にも手出しはさせん。」


 その男性の発言と行動にたいし、理解できないという反応は示すものの明確に止めないところを見る限り、彼の実力はある程度陣営内で証明されている事をマルコスは推測する。

 その実力の指標が、目の前にいる赤髪の大男(バルドル)を基準としてのものであれば、マルコスに勝ち目はない。


「(しかし、そこまでの覇気は感じない。あそこまでの強者と思うほうが不自然だ。)」


 であれば、まだ勝機はある。

 マルコスが誰もいない空間に歩く。それに合わせて両手斧を持った男性もひらけた空間に移動する。

 相手の後方にリリシア達の潜む茂みがある。ユリアが両手斧を扱うことが出来るか確認を取らなかったことは悔やまれる。もし扱えないのであれば、片手斧以上に取り回しの効かない武器になる。


「(その場合は、槍持ちまで戦えばいい)。では、参る。」

「あれこれ考えているようだが、そう上手くは行かんぞ!」

 

 叫ぶと、大きく斧を振り払い、戦闘が開始される。

 両手の斧とマルコスの持つランスでは、武器の相性としては決していいとは言えない。互いに小回りの聞かない武器だが、馬上に乗っている時本領を発揮するランスでは、両手斧にも劣る。

 しかし今回のマルコスが目指すのは勝利ではなく、武器の奪取。それだけに専念するのであれば、より良いやり方はいくつか存在する。


「(まずは、間合いを詰めさせない。)」


 全速力で距離を詰めてくる男性に対し、マルコスは渾身の突きを放つ。しかし、相手の中心を捉えるのではなく足を止めるために、眼前にランスを突き立てる。

 反射的に身を捻ることでマルコスのランスを回避する。が、わずかに接近する速度は落ちる。そこを逃すことなくマルコスは振り払うように大きく得物を振り下ろす。最小限の動きて回避をこなったが、流石に頭上からの一撃は身を翻し、接近を諦め回避する。


 回避した低姿勢がで斧を構える。


 柄を握る拳が地面と接するほど低い位置から、まるでゴムが千切れるような速度で再び接近する。

 重装備のマルコスでは避けることのできない速度の一線が迫る。


 ガギィン!


 乾いた金属の衝突音が森に響く。

 それは、斧の一撃をランスの身の部分でかろうじてふせいた時に生じた衝突音。

 

 明らかに体格のいいマルコス。加えて、重装備による重量を加算してもマルコスが押されるほどの威力。

 わずかに感じる浮遊感の後に、両の手のしびれを感じ始める。しかし、柄を握る右手に鞭を打ち握りしめる。

 狙うのは、両手斧の長い柄。両腕とともに構成した穴の中に入れ、武器を弾き飛ばすためにランスを突き刺す。が、幸か不幸か。両手斧の男性の左手は、マルコスとの衝突で斧から離れてしまったため武器をわずかに弾くだけにとどまる。


「クソがッ!」


 武器をわずかに弾かれることで大きく体制が崩されることに苛立ちと汚い言葉を吐く。

 

 二、三歩後ずさるように斧を器用に使ってバランスをとる。追撃を行う絶好のタイミングではあるが、マルコス自身も先ほどの衝撃が体を回り始める。振り上げたランスを力強く振り下ろし体制を立て直すことで、マルコス自身の隙を感じさせないようにすることで精一杯だ。

 

 再び間合いができた両者。しかし、この静寂は続かず、二人は再び動き出す。

 互いの実力に気づき始めたからこそ、戦闘の長期化は互いにとって不利と判断した。

 ここまで拮抗した実力だと、体力を疲弊し始めれば、武器の奪取は叶わない。重装備とは思えないほどの速度で接近するマルコスに対し、男は迎え撃つように斧を構え直す。

 来るなら迎え撃つ。そんな意思を隠そうともしない目線がマルコスに刺さる。


 その挑発に乗らないといけないのがいまのマルコスの難しいところだ。本来、重装備のマルコスのほうがどっしり構えて敵の攻撃を対応する側のはずなのに、今回は早急に敵の武器を奪取する必要がある。

 その条件を達成できなければ、こうして一騎討ちに持ち込んだ意味がなくなる。


 だからこそ、マルコスは走り出す。


 敵の挑発であことは明白だが、ここで止まる訳にはいかない。走り出したマルコスは、ランスの先端を相手にむけ、一心に走る。

 互いの距離は5メートルほどしか離れていないため、最高速度に達する前に肉薄する。


 待っていましたと言わんばかりに、両手斧を大きく振りかぶり、彼に向け振り下ろす。

 その一撃をもろともせず、マルコスは進む。最悪の場合、致命的な一撃と判定され、アミュレットが発動してもおかしくない状況。しかし、重装備のマルコスに、走る速度を落とすち推測して振り下ろされた一撃はわずかに遅い。身の部分を避けた一撃が、バルドルの肩に接触する。小さくない痛みが走るが、それではマルコスは止まらず、僅かに武器をひき、力を込める。


 しかし、胴体への直撃は習わない。すでに右方向に回避を行っているのであれば、マルコスもわずかに左方向に矛先を向ける。

 それは、斧と腕が作る輪の中をすっぽりと入っていく。


 狙いどうり。


 その結果にわずかに緩みそうになる頬に力を込める。これは第一段階であって求める結果ではない。

 続けざまに、ランスを大きくふり払う。このまま、小手への直撃を避けて手を話しても予定どうりの行動であったが、斧の柄に激しく衝突し、左手を引き剥がすことに成功する。


 何が起きたという表情を浮かべる、相手に対し、マルコスは続けて振り払ったランスに渾身の力を込めて振り上げる。


 切断能力のないランスであっても、ある程度の重量がある得物の一撃だ。敵の得物の形状のわからないアミュレットは発動する可能性は高い。そう判断した、敵は右手一本で急いで上半身の防御を試みる。

 ただ、上半身を狙っていないマルコスの一撃は、敵の右手のすぐ側。本来なら狙うはずもない場所に吸い込まれるように接近する。


「お前、まさか!」


 この数回の打ち合いで、マルコスの狙いに気がついた彼もまた、ここで一騎討ちを任せられるくらいには実力者だったのだろう。しかし、近い実力であるがゆえに防げない。

 鋭い痛みと衝撃が右手を襲い、話してはならない武器が宙に浮く。


 その瞬間、周囲の受験生が武器を構える空気が伝わってくる。しかし、目的は完遂した。

 渾身の一撃を受けた両手斧は宙を舞い当初予定してた地点へと放物線を描く。


 理想であれば、この両手斧を使えなかった場合の次の者との戦闘も視野に入れていたのだが、それは叶わなそうである。

 

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