いざ、次の戦場へ
戦闘が終結する。
蓋をあけてみればリリシアとユリアにはかすり傷一つとしてなかった。ただ、肉体的な疲労以上に張り詰めた戦闘により、精神的な疲労が大きく、リリシアとユリアはその場に座り込んでしまう。
「きっつぅ。……やっと勝てたよ。」
「ふぅ……。やっぱり世界は広いね。」
大きく息を整えながら話すリリシアに、ユリアは先ほど折れた剣を見つ目めながら呟く。
今回の試験の短い時間であるが、ともに過ごしてきた相棒。最後まで戦えなかったことに心の中に小さく謝罪をしながら、地面に突き立てる。
周囲を見渡せば、他の受験生が数人倒れている。
致命的なケガは負っていないものの、それに匹敵する一撃を受けたことによる痛み。それは、数分間意識を奪うには十分なものだった。
ユリアがそんな彼らから利用できる武器がないか探していると、木の上から人影が降りて来る。
「いやー、驚いたよ。めっちゃ強いじゃん、君ら。」
口元を覆う布と、目元を隠すような栗色の髪で、顔の大半を覆ったレンジャー職の仲間。線の細い体とその身軽さを最大限活かし索敵をこなってくれていたゼイラが姿を表す。
「ゼイラ。どう? 追えた?」
「バッチリ。案外ここからも近いよ。」
ユリアとの間であらかじめ何かを示し合わせていたわけではない。しかし、戦闘中の大きな声での指示。そして、その意図を的確に読むことができたゼイラだからこそ、彼女の質問に的確な回答を示す。
「ボクこのままマルコスを回収して来るから、みんなで向かおうか。」
「ごめんね。あっちこっち走らせちゃって。」
「いいよ。ボクここまで戦えないしね。」
周囲に転がっている敵陣営の受験生を流し見る。
その一人一人の直接戦闘能力はゼイラ以上なのは一目でわかる。
その中でも群を抜いて強かった帽子の男性。
二対一という構図であったにしても、無傷で勝利した。そんな芸当は逆立ちしてもゼイラには不可能だ。
その上、彼女たちにはこれ以上の戦果を期待するのだから本当にふたりが味方でよかったと思う。
「それじゃ、あいつが単騎で突っ込まないよう、早めに回収して来るわ。」
そう告げると、音のない走法でゼイラは森の中に消えてゆく。
ゼイラには走らせてばかりだと、心からの謝罪の表情でユリアは見送る。
「ねぇ。ユリア。どうするの武器。」
ゼイラとの会話を待っていたようなタイミングでリリシアが話しかけて来る。
先ほど音を上げていたにもかかわらず、彼女の様子は戦闘前のそれに戻っている。
体力には自信のあるユリアでも、先ほどと同等の戦闘はごめんだと思っているのだが、再び世界の広さを痛感させられる。
「うーん。手頃な武器はないしなぁ。どうしよう。」
周辺に堕ちているのは、両手剣に大楯。
片手を盾で埋まっている事を考えると、いまユリアが使えそうな武装は、最後まで戦っていた彼のもっていた片手斧くらいだ。
リリシアの攻撃を受け続けていたことにより、耐久性には期待できないが、手ぶらで戦場へ向かうこともできない。
「両手剣もいいんだけど、シアと被るからなぁ……。どうしよう。」
「ユリア、両手剣も使えるの?」
「うん。あと、槍と大斧のかも得意だよ。」
「すっごっ。ワタシはこれ一本だからなぁ。」
と、背中の大剣を親指で叩くリリシアに、ユリアは笑みで返す。
「その一芸で、そこまで扱えるなら十分だよ。アタシのは器用貧乏に近いからね。」
「そんな事ないよ。だって、今だって武器が壊れても戦えるのはユリアだからだよ。」
「ありがと。じゃあ、もう少し期待に答えるように頑張ろうかな。」
「うん。頼りにしてるからね。」
同じ受験生。同じ年齢の少女。
数時間前に出会ったばかりの狭き門を奪い合うライバルに向ける笑顔ではない。しかし、リリシアの笑顔に他意を見いだすことができない。
それほどに透き通るような、太陽のような笑顔を向けられては自然と答えたくなってしまう。
「待たせたな。では行こうか。」
すでに姿が見えないうちから、鎧同士の当たる音が聞こえていたため接近は気づいていたふたりは、声の主の方に顔を向ける。
先遣隊に選ばれたメンバーが再び揃い、ゼイラが発見した敵陣の方向へと歩みを進める。
先程の戦闘の最中往復する事ができた事を考えると、そこまでの距離がない。
最小限に音を止めるためにもそこまでの速度を出さず、会話も最小限に留める。
「数は5。飛び抜けてるのが、1。」
ダンジョン内での経験か、数の助数詞を省き最小限の情報で伝達を行う。そんなゼイラの行動に、声に出さないがユリアは関心を示す。
「どんな感じ? ワタシとユリアならいける?」
「どうだろう。直接の戦闘は見てないけど、正直厳しいってのが、ボクの印象かな。後、リーチのある武器は欲しいかな。」
片手斧と大剣の組み合わせに対して、長物の武器を相手にするには相当の実力差が必要になる。そう言った意味でもゼイラの厳しいという判断。
戦闘の様子を一切みていなかった、マルコスが口を開く。
「ところで、ユリア。先ほどと武器が違うが、それも同等に扱えるのか?」
「え? あ、うん。リーチが必要なら槍でもあればよかったけど、そう都合良くいかないね。」
「槍も扱えるのか……。であれば、先陣は私が努めよう。敵に長物があれば待機地点へ弾く。」
「えっ? 単独で戦うの? 無謀だよ。」
敵の数は5人。
そのうちの一人は比べ物にならないほどの実力者なのだとしたら、せめて数的有利はとっておきたい。
戦略を組み立てることを苦手としているリリシアであってもそれは理解できる。
「勝利を目指すわけではない。雑兵の撃破と武器の獲得。それを行うのに単騎である事が利点の場合もある。」
数的有利による油断。それを誘う目的なのはわかるが、単騎であるがゆえに実力者との一騎打ちに発展させる可能性も捨てきれない。
「万が一、一騎打ちになった場合は、敵の動きを1つでも継承しよう。」
「いや、その場合は、アタシ達も参戦しよう。槍使いがいない場合も同様だよ。乱戦になったら少しの間、シアにその強い人任せるかもしれない。」
『それでも大丈夫?』 と言いたげなユリアの言葉を遮ってリリシアが続ける。
「大丈夫! 任せて!」
根拠のない自信であることはわかっている。しかし、彼女の言葉には信頼したいと思える。
先ほどの戦闘をまじかで見たユリアはもちろん。その場にいなかったマルコス等ですら。
「ごめん。ボクも同じくらい闘えればいいんだけど。」
「何言ってるの。さっきの戦闘も、こうして全員で敵陣に向かえるのも全部ゼイラの功績なんだから。」
「そう言ってもらえると、楽になるよ。じゃあ。今回はこの後の役割も薄いし、できる限りの手は貸すね。あぁ、カバーも守りもいらないから。」
通常の戦闘であれば、役割の薄くなった索敵役戦闘参観することはない。
それが戦力として期待できないのであればなおのこと。しかし、今回は致命傷を受けた際に発動するアミュレットが存在する。
人質や死亡するリスクがないのであれば、ゼイラにも取ることができる手段はある。
「じゃあ、行こう。」
リリシアの言葉とともに一行は再び会話をやめ歩みを進める。




