集団戦闘試験 開始!
リリシアの見える範囲全てに森が人がっていた。
地理が苦手なリリシアでも、帝都の周辺に広大な森は広がっていないことは理解している。
これもダンジョンの遺物によるものなのかは定かではなかったが、つくられた森であることは、長年本物の森で過ごしていたリリシアには一瞬で理解できた。
「凄いね。これも、ダンジョンが関係してるのかなぁ。」
「え? この森がってこと?」
純粋な好奇心を伝えたつもりが、ユリアから返って来た反応は思ったものと違うことに多少の戸惑いを覚える。
「どうだろうね。でも、帝都の周りにはこんな森なかったから、そうだろうね。」
「はぁ……やっぱり、ダンジョンって凄いね。」
ユリアとそんな会話を交わしながら、案内を務める試験官の後ろをついていく。
「旗をさす場所に指定は有りません。相談し、一時間後の合図に合わせ開始をしてください。」
全体を通してあまりにも説明が簡素であることに不安を漏らす声が聞こえてくる。しかし、試験官は振り返ることなく会場を後にしてしまう。
「じゃあ、どうしようっか? 連携もないし、一緒に攻めに行く?」
「うーん。勝手に行動していいのかなぁ……。」
全員が初対面の試験会場。横にいいる受験生は、同じ門を叩くライバルでもあった現状。相談もしずらい上に、勝手な行動すら憚られる。連携などもってのほかだろう。
そんな状況で、自身の考える策を披露できるものもそう多くない。
「ねえ! ワタシとユリアで先陣を切り開くから、みんなは旗を防衛してもらいたいんだけどいいかな?」
こんな状況で臆することなく、自身の考えを発言できるリリシアを素直に凄いと思ってしまう。
「それは、どういう作戦なんだ?」
「え? だって、みんな初対面で実力も分からないんじゃ、連携もないでしょ? あっちも同じなら連携される前の速攻が一番良いじゃん。」
その上で、一緒に行動するのであれば、波長の近い人物のほうが良いと言う判断。
しかし、この提案には明確な反論ができる。
「自分たちだけ目立とうとしてないか? 合否に勝敗が関係ないなら、戦闘における貢献度は重要だろ。」
試験官の発言が互いの足を強く止めるものになる。
「うん。だから、難しい防衛は任せたいなって思ったんだけど。防衛線ならこっちのほうが重要じゃないの?」
三度、ユリアはリリシアに感心する。
「今回は、全員やられちゃうか、旗の奪取が目的の防衛戦ならここで旗を守る方が頭使うし、ワタシ向きじゃないかなって。」
背中に下げていた大剣をおもむろに持ち上げリリシアは続ける。
「それなら、思いっきり動けるし、前線で人数減らしておくからさ。あっ。ユリアはごめんね。活躍できないかも。」
最後に謝罪の言葉を向けられたユリアは思わず笑みをこぼしてしまう。
「ううん。大丈夫。一緒に頑張ろ。」
二人の発言と、リリシアの素直さに、反論していた少年が黙ってしまう。
彼女の意見に合理性は少ない。また、試験の評価基準が不明な状態なら、やはり明確な戦闘を行う前線の方が評価を下しやすいのは事実だろう。
しかし、リリシアの声や言葉は、不思議と彼女に対する猜疑心を和らげた。それは男女問わず。心理的な友好関係を問わず。
「……なら、その方向で作戦を練ろう。二人いや、あとサポートで二人ぐらいの四人で先行。あとは防衛に回す。」
「うん。出来れば、索敵できる人がいると助かるな。ワタシそう言うの苦手だから。」
「なら、レンジャーかシーフ職だな。誰か得意な奴はいるか?」
いつの間にか、ライバル同士であったはずの受験生が、円を組み互いの長所を話しだしている。
集団が同じ目的に向け動き出すのに必要なカリスマ性。
その素質が彼女にはあるのだろうとユリアも納得してしまうほどの求心力があった。
おおまかな配置と人員が決まる。
時計のないこの試験会場で残りの時間がどのくらい残っているのか正確なものは不明だ。しかし、リリシアたちの感覚ではかなりの時間を残して準備は完了したと言えるだろう。
「よし。じゃあ、そっちは任せたからね。」
リリシアが大きく手を振って旗を防衛する人員に激励を送る。それに各々声をあげたり手を振ったりと答えている。
「じゃあ、シア。こっちも確認しておこっか。」
「うん。あらためてだけど、ワタシは大剣を使うよ。索敵とかは苦手だけど、大物からすばしっこい小物接近戦全般得意だよ。」
と、得意げに胸を叩く。
太陽のような笑顔は、もう直ぐ試験が開始されるに緊張感を良い具合に和らげてくれる。
「えっと。ユリアっていいます。片手剣と盾を使っての戦闘がメインで、森林での戦闘も村の防衛で経験しました。」
「あっ! ワタシも! 両親の手伝いで森で戦ってたから、そこも慣れてるよ。あとリリシア・アーデ。気にせずシアってよんでね。」
ユリアの自己紹介につられて思い出したかのようにリリシアも補足の説明と自己紹介を行うと。
「じゃあ、次はボクね。ゼイラ。両親は探窟者で今はレンジャー見習いってところ。一応、ダンジョンにも潜ってたから、そこそこ信頼してくれていいよ。あと、接近されたら本当に役立たないから。」
顔の半分以上を布で覆った一人の受験生が手をあげて自己紹介をする。栗色の毛を目の高さまで伸ばしており、襟足は肩に届かない程度。中性的な顔立ちに、その声からどちらか判別できない。
「わかった。近ずけないようフォローするね。」
「よろしく。じゃあ最後だね。」
ゼイラが顎で最後の一人をさす。
「マルコス・ファウント。騎士の家系だ。見ての通り重装備でもあの試験を踏破した。入り組んだ地形での戦闘は不向きである。」
「マルコス、くん。だよね。よろしくね。開けた場所があったら任せるね!」
「う、うむ。任せたまえ。」
帝国では家名が前後する。基本は固有名詞の後ろに家名が来る。しかし、ザインのように家名が固有名詞の前に来る場合は、帝国建国前からの貴族であり、間違えることはご法度である。
例外として、騎士の家系でも目覚しい功績を残した場合には、貴族位を与えれられる場合があり、彼はその家系の人間なのだろう。
しかし、そのような細かい部分まで知る由のないリリシアは、一切動じることなく満面の笑みを浮かべる。
その一切の悪意のない笑顔にマルコスの方が返答に困ってしまう。
「じゃあ、作戦としては、ゼイラが索敵。ワタシとユリアが接近戦等で、マルコスくんはゼイラを守ってあげて。」
「委細承知した。」
「ユリアは? 何かある?」
「うーん。相手はどんな作戦でくるかなぁ。考えてもしょうがないことかもだけど。」
「普通は、一番強い人を中心にして、半分以上の人員での攻撃部隊なんじゃない? 捜索して、フラッグを取るより確実に各個撃破がセオリーでしょ。」
「それなら、こっちも見つけ次第各個撃破したほうがいいね。フラグ探している間に挟撃されたら終わりだし。」
ゼイラの発言にユリアが補足することで、この遊撃部隊の方針が決まる頃、全員に届くよに先ほど試験官の声が響く。
「『では、これより集団戦闘試験を開始しします。先ほども述べたよう。しにつながる、ならびに再起不能になるような損傷を負わせうことのないよう。十分留意して戦闘を行ってください。では、開始!』」
その合図とともに全員の顔が引き締まる。




