力あるものの葛藤
控室からの移動中。一人の男性が口を開く。
隣には、屈強な赤髪の大男が歩いており、大きな薙刀を肩にかけあくびをしている。
前をあるく受験生たちとは一線を画すような体躯と余裕そうな態度。周囲から頭ひとつ抜けた実力者であることは間違い無いだろう。
だからこそ、彼は率先して自軍の最強の手札に話しかけたのだ。
「この試験。なにが最も重要か理解できましたかな?」
「あん? あぁ、……興味ねぇ。」
「それでは困りますな。なにせ、自陣の最大戦力はあなたなのですから。」
それでも、赤髪の大男は退屈そうな姿勢を崩さない。
「まぁ、合否に関係ぇねぇなら、楽しめりゃそれでいい。」
「粗暴ですね。ですがそれも大切かも知れません。今回は即席パーティーにおける自身の立ち位置。それを正確に捉える事が出来るかにかかっています。その点において、最大戦力の貴方をどう生かすか、それが重要な要素でもあります。」
そう得意げに話す男性を赤髪の大男は一度も見ない。
興味がない。
ある程度の実力を身につけると、目の前の人間がどの程度の実力を有して居るのか何と無くわかるものだ。
その感覚から伝わってくる要素は『雑魚』そのものだった。
「今回の作戦は私が主軸で考えていい事になりました。貴方が、きいていないうちにね。」
話に一切参加しなかったことを指摘され、矛先のない怒りが舌打ちとして大男の口から漏れる。
「ですが、満場一致で貴方の好きにさせる。そのサポートに徹することには同意を頂けました。そこには異論はないでしょう?」
「あぁ。指図されないならかまわねぇ。」
「ええ。その為の策もいくつか用意しております。どうぞ思いの向くままに戦場を駆けてください。」
「……ああ。話のわかる奴は嫌いじゃねぇな。」
ここで初めて赤髪の大男は隣を歩く男性に目を向ける。
この国のどこにでもいるような、肌の色にわずかに茶色の混ざったブロンズの髪。帝国の一般的な男性を模したような男性だ。
体格に恵まれているとは言いにくいその体。しかし、いまこの場にいる事が、一般的な14歳の男性以上の身体能力を持ち合わせていることを証明している。その上、あの試験内容の説明から図りたい意図を推測する知能も有している。大男が知っている周囲では見ない人物だ。
「(いや、見ようとしていないだけか。)」
武力以外の評価基準のなかった彼にとって、こういった強さを持つ人物とここまでまともに会話することを避けていた。それゆえ、見逃してきた強者多くいたのだろうと思考に登ってくる。が、
「……くだらねぇ……」
「? 何かおっしゃいました?」
「いや。なんでもねぇ。」
くだらない。その一言で、思考に登り掛けた『後悔』の二文字を吐き捨てる。
今までもこれからも追い求める強さの基準は揺るがない。それだけが彼の魂を震わせるものなのだから。
「そうですか。では、戦闘開始を行きましょう。勝ちますよ。」
視界が開ける。学園の周辺の地形はある程度頭に入っていたつもりだ。しかし、そのどこにもなかった森が視界に飛び込んでくる。
「ああ。当たり前だ。」
退屈そうに肩に担いていた薙刀を大きく振り下ろす。
異邦人の彼にとって何か変わるかもしれないと、思い独断で参加した学園の入学試験。
しかし、目に入る人物達はどれも彼のお眼鏡に叶うものはいなかった。
——一時間程時間は戻る。身体能力試験直後。
身体能力を測るための障害物踏破試験を早々に終了した彼は、長い廊下を歩く。
周囲には様々な表情の受験生が歩いていく中、頭一つ分背の高い彼は堂々とした表情で歩みを進める。
背中には、大きな薙刀に似た形状の武器が背負われており、2メートルはある彼の身長よりも僅かに大きかった。
ふと、視線の端に彼のことを呼ぶように肩だけ見せる影を見つける。
ふん。とはなでため息をつくと、赤髪の大男はその人物に歩みを進める。
全身を黒い装束で身を包んだその人物が先に口を開く。
「……身体能力試験第2位か。少しはしゃぎ過ぎじゃないか?」
「そうでも無ぇ。実際、一位は逃している。」
「そういう問題では無い。元々、参加の許可すら――。」
「分ぁってるよ。過ぎた事を言うな。」
目の前にいる羽虫をおいはるように顔の前で大きく腕を振るう。
呼ばれたからこちらに来たが、元より目の前の人物の言うことを聞く気のない彼は、面倒そうにその人物を言葉を遮る。
「武勇と家柄だけで今回の同行と自由があることを忘れるなよバルドル。」
「どっちも叶わねぇヤツに言われたくねぇなぁ。」
おそらく、年下であろう赤髪の大男ーバルドルと呼ばれた男性はあからさまな挑発を受けているにもかかわず、反撃も反論もしない。
それは、彼の言葉が正論であることと、もう一人が常識を持ち合わせているからだ。
その心遣いを無下にするよにバルドルは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そんなことより、姫さまの護衛はいいのか? あぁ、弱過ぎて傍付きにもならんか。」
依然として挑発を行うバルドルに対し、怒りと同じくらいの呆れが入ったため息を漏らす。
「口外すべきことは認識しておけ、俺は国内の情報収拾だ。いいか、忠告はしたぞ。」
「はい、はい。お目付役ご苦労なこって。」
傍若無人。
その言葉がよく似合う武人。バルドル・ヴァルグラス。この帝国にいる筈のない魔族領の重鎮の一人である。
魔族領を長く支配している10の名家。その一つの出身の彼。同世代において彼以上の戦闘能力を持つものはいない。その事実もまた、からの素行の悪さに拍車をかける要因になっている。
「まぁ。殺さねぇ程度には、遊んでくるわ。」
そう言い残し、バルドルは次の集合場所に指定されている広場へと向かう。
そこにいた人物達は、先ほど述べたように彼の退屈を加速させる結果になってしまった事は語るまでもなかった。
設定を本文に書くのも変だと思ったので、後書きを使わせていただきます。もし、マナー違反でしたらすみません。
魔族領という名称が初めて出てくるのですが、これは、ザインの前世の話とは一切関係ないです。
国家の名前みたいなものと思っていただけると嬉しいです。
また、この魔族領に住む人物達の見た目は、帝国の一般的な人間と変わらないもの、俗にいう悪魔的なツノや肌の色が違うものが出てきます。
今は出ているバルドルは、悪魔ぽくなく想像してくれるとありがたいです。
彼らの話は多分このペースでいくと、8月くらいに出るかも・・・楽しみにしていただけると嬉しいです




