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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第二章 外伝

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22/24

外伝 再開、そして

 ◆秘密の場所


 魔物との遭遇から数ヶ月が経った頃、二人は森の奥に小さな泉を見つけた。

 木々に囲まれた静かな場所で、水面には空がそのまま映り込んでいた。誰も知らない、二人だけの場所。


 「ここ、綺麗……」


  リゼリアが息を呑む。ユリアは得意げに胸を張る。


 「でしょ? リゼのために探したんだ! リゼは静かな場所が好きだから、きっと気に入ってくれると思って」

 「私のために……?」

 「うん。リゼはいつも私を助けてくれるから……お礼」


 リゼリアの頬がほんのり赤くなる。

 ユリアはそんなリゼリアの反応が嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。

 それから二人は、何か特別なことがあるたびに、この泉を訪れるようになった。


 九歳の春、ユリアが初めて剣術の型を覚えた日。


 「リゼ、見て見て!」


 ユリアは剣を模した木の枝を振りながら、ぎこちなさの残る演武を披露した。

 それでも以前よりずっと洗練され、毎日練習しているのが分かる。

 リゼリアは優しく微笑む。


 「すごいね、ユリア。もう勇者みたい」

 「まだまだだよ……でも、いつか本当に強くなる。あの人、みたいに。……本当にすごいんよ! 魔物を一瞬で倒して、それでいて優しくて……いつかまた会えたら、強くなった私を見てもらいたいな」


 ザイン。

 あれから何度も、ユリアはその名前を口にした。会ったのは一度きりなのに。

 リゼリアの胸に、あの時と同じ痛みが走る。その正体から目をそらすように、リゼリアは笑顔を作った。


 「そうだね。きっとユリアなら、すぐに強くなれるよ。」

 「ありがとう、リゼ。リゼは私の1番の味方だね。」


 無邪気な笑顔でそう告げるユリアに、他意はないことはわかっている。

 でも、少し寂しくもあった。

 

 味方。


 リゼリアはユリアの味方だ。でも、ユリアの心の中で一番大切な存在になれているだろうか。その不安を、リゼリアは心の奥に押し込めた。


 

 十歳の夏、リゼリアの治癒魔法が村の中で評判になり始めた頃。

 

 周辺の村人たちも小さな怪我や不調でもリゼリアを頼るようになり、彼女は休む暇もなくなっていた。ある日、疲れ切った様子のリゼリアを見かねて、ユリアは彼女の手を引いて泉へ連れ出した。


 「ユリア……でも、村の人が……」

 「たまには休まなきゃダメだよ。リゼだって疲れるでしょ? リゼは親友なんだから、無理しないで」


 親友。その言葉をユリアから聞くだけ、胸の中心が暖かくなる。


 隣で座るユリアが突然、リゼリアの頭に手を回し、自身の膝の上に頭を置く。


 「え……ユリア?」

 「いいから。今日はゆっくりして。」

 「ねえ、リゼ」

 「なに?」

 「ずっと一緒だよね。私たち」


 リゼリアは目を閉じたまま、小さく答えた。


 「うん……ずっと一緒」


 その約束は、二人の心に深く刻まれた。

 でも、リゼリアの心の中には、言えない想いも一緒に刻まれていた。


◆ 力の意味


 その年の秋。

 帝都から神官の一団が村に来訪した。

 聖王国を中心とする正教会の一団であり、村にいる『女神の器』の噂を聞きつけたとのことだった。

 

 神官はユリアの聖紋とリゼリアの瞳を見て、深く頷いた。


 「勇者の証と女神の器……この小さな村に、二つの奇跡が同時に存在するとは。これは運命というものでしょう」


 神官は二人の力について説明した。


 「君の瞳の聖痕は勇者の証だ。世界を脅かす災厄に立ち向かう力を宿している。歴史上、聖紋を持つ者の事例は少なく、その全ても勇者になれたわけではない。力だけでは不十分なのです。必要なのは、強い意志と揺るぎない心。そして、何よりも守りたいものがあること。しかし、その力は諸刃の剣でもある。使い方を誤れば、君自身を傷つけることになる。」


 ユリアは一言も漏らさないよう真剣な表情で頷いた。

 守りたいもの。それは村であり、そしてリゼリアだ。


 次に神官はリゼリアに向き直る。


 「リゼリア。君は器として覚醒し始めている。女神の意思を宿し、世界に奇跡をもたらす存在。君の治癒の力は、女神の慈悲の現れです。しかし、その力は君の命と直結している。使いすぎれば君の生命力が削られ、最終的には……」


 神官は言葉を濁した。しかし、その意味は二人にも理解できた。

 リゼリアが力を使いすぎれば、死ぬということだ。ユリアの顔が蒼白になる。


 「そんな……じゃあ、リゼは……」

 「だからこそ、自分を大切にしなければならない。器であることは祝福であると同時に、重い責任でもあるのです」


 彼らの野営地を出た後、二人は黙って歩いた。重い空気が流れる。

 夕日が村を赤く染めていた。


 「……ねえ、ユリア」


 リゼリアが口を開いた。


 「怖くなった?私のこと」

 「え?」

 「女神の器って……普通じゃないから。もしかしたら、私、いつか消えちゃうかもしれない。そうしたら……」


 ユリアはリゼリアの言葉を遮るように、その手を強く握った。


 「何言ってるの。リゼはリゼだよ。器とか関係ない。私が守るから。絶対に、リゼを失ったりしない」

 「でも……」

 「アタシだって勇者の証があるけど、まだ何もできない。聖紋があっても、アタシだよ。私たちは、私たち。それでいいんだよ」


 リゼリアの目に涙が浮かぶ。


「良い友情です。貴方方であれば、より良い結果を得られるでしょう。女神の器は、勇者と異なり文献は多いです。ここの領主様には我々から陳情をあげて起きましょう。」

「ありがとうございます。」


 神官の言葉にユリアが元気よく返事を行う。

 その神官たちが村を出て、村長のところにメフェリム家の使者がくるのに五日もかからず行われた。



 ◆再会。そして……


 村長を含む村の大人達の予想に反して、メフェリム家の現当主であるメフェリム・オルトリア直々にユリアの住む村に来訪していた。

 領内の状態を把握するために訪問自体は珍しい事ではないのだが、今回の訪問の理由が先日の神官からの陳情が原因というのだから驚きである。


「魔獣騒動の時もそうだが、領主様は我らを大切に思ってくださっているなぁ。」


 そんな大人達の会話を聞きながら、ユリアとの待ち合わせ場所に向かうリゼリアの目に一つの影が映る


 領主やこのあたりの人と異なる褐色の肌に白銀の髪。深い知性とそこ知れぬ何かを彷彿とさせるグレーの瞳。


 彼だ。


 実際にリゼリアが、彼――メフェリム・ザインに出会うのは初めてである。

 2年前の魔獣騒動の際。今回どうに訪問した話は聞いてるが、重症のユリアにかかりきりで、それどころではなかった。

 しかし、一目でその同い年ほどの背格好の少年が、彼であることがわかったのはユリアから何度も聞いていたおかげである。


 何かに弾かれるようにリゼリアは走り出す。その行先は当然ユリアとの待ち合わせ場所。

 毎日のように朝早くから稽古を行い、リゼリアと合流するその場所へ。


「ユリア! いま、いま。」

「どうしたの、リゼ。落ち着いて。」


 全力で走って来たリゼリアは息があがり、直ぐには言葉を構築できない。

 そんな彼女にユリアが駆け寄り、背中に手をおく。


「いま、村に、領主様が来てて、それで彼も――。」


 その言葉を言い切る前にユリアは走り出す。


 リゼリアが必死に何を伝えいに来たかはみなまで言わずとも伝わったのだろう。

 脱兎の如く走り抜けるユリアの姿は瞬く間に小さく視界から消えいて行く。あの速度について行く脚力も体力も持ち合わせていないリゼリアは、『約束の場所』で一人、膝から力が抜け、ぺたりとその場に座る。


「頑張れ、ユリア……。」


 その言葉に嘘偽りはない。ユリアの望むことを叶えたいからここまで一息もつけず走って来た。しかし、リゼリアの胸にはハリが刺さるような痛みを覚えた。


 ◆再会。それは……


「あ、あの!」


 はやる気持ちを抑えきれずに走り出し。

 合うことだけを考えここまで全力で走り続けた。


 結果として、ユリアは憧れの彼に再会することができた。

 しかし、問題はいまこうして声をかけてユリアの中に浮上してくる。


 何を話せばいいのだろう。


「(先ずはお礼かな。あ、でも、お礼は母さんや父さんが言ったって。ああ、でも、)」


 思考が始まる前に放たれた言葉に反応して、憧れの彼が振り向いてしまう。


「やあ。僕に何か?」

「あ、えっと、その……。」


 思考がまとまらない。発した言葉で、彼とのつながりを失う恐怖心で足がすくむ。自分がこんなにも臆病なのだと思い知らされる。

 話しかけて来たのにも関わらず、次の言葉が出てこないことに彼の表情は曇り始める。


「……ああ、君は。大事なくて何よりだ。」

「え? 覚えてて、くれたのですか?」

「ああ。僕にとっても初討伐だからね。あの時は間に合ってよかった。」


 覚えてくれていた。

 その事実だけで、ユリアの思考は完全に停止する。

 それは歓喜であり、最良の現状であることを意味しているからである。


 遅れて、村の大人達がユリアのことを抱きかかえるように間に入り、彼に対し何かを話している。

 それは、謝罪の言葉だった事は、領主様達がいなくなった後のお説教で知ることになる。


「あ、あの。アタシ大きくなったら、領主様の下でお役にたちたいです。」


 あなたの役に立ちたい。と言う言葉がとっさに出てこなかったの幼いユリアなりの照れ隠しだ。無意識的に叫んだユリアの言葉は、父の元に歩みを進めようとしていた彼の足を止め再び目線がこちらに向く。


「そうか。では、兄達をよろしく頼む。僕はもうじき家を出るからね。」


 それだけ、言い残し彼は歩み去って行く。


「えっ。」


 三度の衝撃で、その日の記憶はユリアにはなかった。

 領主様の三男。メフェリム・ザイン様がダンジョン攻略により帝国貢献を行う噂を聴いたのは数年後の話であった。

 


 ◆泉にて


 二人はいつものように夕食のち、二人だけの秘密の泉に足を運んだ。

 水面近くで膝を抱えてうずくまるユリアは、押し黙っている。ここ数日。この調子だ。あの日。領主様と彼がここに来た日以来。彼女表情は浮かない。


「……アタシ何やってるんだろう。」

「本当だよ。それじゃ、いつまでたっても身にならないでしょ。」

「うぅ、リゼェ。優しくしてよー。」


 半べそをかいて顔をこちらに向けて来るが、ここはリゼリアも心を鬼にする。


「もう十分したでしょ。もう三日目だよ。ユリアらしくないよ。」


 まぁ、何も考えずに走り出し、覚えてもらえていた事で嬉しさで、叫んだ言葉が逆効果になったことは実に彼女らしい行動とも思えてリゼリアは苦笑する。


「だってぇ。」

「それに、闇雲に仕えなくて正解だったって思おうよ。一回入って、居ませんでしたってなるよりずっとマシでしょ?」

「うぅ、確かに。」


 ここ数日でリゼリアが考えたら最大限の言い訳が、効果覿面だったようでユリアの表情から影が減って行く。しかし。


 「でも、そうしたら、どこに行けば良いのかなぁ。国外って可能性も、もしかして、結婚とか!?」

 「落ち着いてって。国外の線はわからないけど、結婚はないんじゃない? あの家だし。」

 「わからないじゃん! 大人には()()()()()()()()()があるんでしょ!」

 「また変な言葉覚えて。なら、ユリアも有名になるしかないんじゃない。」


 ユリアの事は友人として非常に大切に想っているが、三日間ずっとこの調子だと、リゼリアも流石に少しの疲れが出て来る。

 しかし、それがいけなかった。いや、不用意であったと言っても過言ではない。幼い彼女に『有名になる』の抽象的な目的を与えてしまったからこそ、次のような結論が出るに至る。


「そうか! アタシも有名になれば良いんだ! ダンジョンで!」

「え? ユリア?」

「ダンジョンだよ。ダンジョン。帝国もずっと進んでない、()()()()()をすれば、きっとまた会えるよ。」


 それは彼女にとって当然の思考の行き着く先。

 他の子らよりも戦闘能力に優れ、再び相対人物はすでに遥か先。その上、どこに行くのかもわからないのであれば、帝国全土に知られるほど有名になれば良いと言う、簡単で投げやりで、彼女にとっては唯一の突破口になってしまった。


「こうしちゃいられない。ダンジョン攻略ならすぐに帝都に行かないと。」

「ちょ、ちょっと。ユリア! 待って。」


 急に晴れ晴れとした表情になるユリアをリゼリアは全力で止める。


 「(まずいまずいまずい。早く、早くどうにかしないと、ユリアがまた暴走する。)」


 自身の不用意な発言で、動き出そうとするユリアに早く別の指針を見せなければ、明日にでもユリアは村を飛び出しかねない。


「(それなら、今から家に使えて一緒に出る? いや、もうすぐの時期がわからない以上、入れ違いもある。ないより、ユリアが納得しない。でも、すぐは無謀すぎる。せめて、準備する時間を稼がないと)」


 その思考の時間は0.5秒にも満たなかっただろう。しかし、無駄に焦っているユリアには長く感じたリゼリアの沈黙に痺れを切らす。


「リゼ。何? 早くリゼもご両親に話してきてよ。無理なら、別の方法も考えなきゃなんだし。」

「え? 私も?」

「当たり前でしょ。一緒じゃなきゃ。」


 ニカッと笑う彼女の純粋な笑顔に一瞬思考が飛ぶ。

 しかし、すぐに我に帰る。


 二人で行く事をはじめから考えていてくれたことに喜びはあるが、以前として、すぐに動き出そうとしている彼女の方針は変わらない。


「ね、ねぇ。……学園って知ってる?」

「学園? それって貴族とかが行く?』

「じゃなくて、探窟者を育成する、帝都のやつ。」


 探窟育成機関(アカデメイヤ)通称――学園。村に訪れる元探窟者の人達が、口にしていた言葉が脳裏に過ぎる、


「なんでも、ダンジョン攻略を行う上での必要知識を得られるんだって。それがあれば、もっと上に行けたのにーって言ってる、人を見たから、きっと普通に行くより良いんじゃないかなって。」


 正直この案は博打だ。

 三日三晩考えた先ほどの言い訳とは違い、一切の下調べを行なっていない。本当にそんなものがあるかも、果たしてどれだけの準備金が必要なのかも不明な状態だが、10歳のリゼリアにはこれくらいしかもう出てこない。


「……リゼ。」


 俯いたまま視線を上げないユリア。


 失敗した? 流石に、適当すぎた?


 そんなリゼリアの心配をよそに満面の笑みのユリアが顔をあげる。


「天才!! やっぱり、リゼは天才だよ! それなら、みんなに調べてもらお! それならみんなも納得してくれるよ!」


 ひとまずのユリアの暴走を止めることができたことにリゼリアは胸を撫で下ろしつつ、二人は、村の帰路へと着く。

 その3年後。メフェリム家の三男が、『メフェリム家にて初のダンジョン攻略を志し、学園へ向かう』という噂を聞き、歓喜にわく一人の少女がいた事は言うまでもないだろう。

今回で外伝は終わりになります。


土日の間に、挿絵の挿入は進めておきますので、皆様のイメージ補完の一助になれば嬉しいです。


来週からはリリシアたちのお話に戻り、彼女たちとの交差が再び起きますのでお楽しみにしていただけると嬉しいです。

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