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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第一章 外の世界からの来訪

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そして、歩み出す


  自称女神。

 ザインがそう呼ぶのはこの世界にくる元凶となった魂の存在。

 神命を受け、世界の理に迫る強大な力を秘めた魔王を、たった一撃で完全に葬り去るほどの圧倒的な実力を有している。そして、ザインがこの世界へ転生するその折に、互いの目的を共有し、共に歩むことを約束した存在でもあった。


「ちょっと! 自称って何! ワ・タ・シは! れっきとした女神よ!」


 そんな、誰が聞いても眉をひそめるような言葉を、正面から、しかも一切の表情を崩さぬ真顔で言い切れる人物は、この広大な世界を探してもそう多くはいないだろう。

 ましてや、その相手がこの大陸の中でも強大な帝国の、第二位を誇る貴族の嫡男であるザインに対してだというのだから、その大胆さは常軌を逸しているとしか言いようがない。

 

「一体どうやって? そんな素振りは、一度たりとも……」


 ザイン自身が、その過去の痕跡を露呈するような凡ミスを犯したとは、到底考えられい。

 

 メフェリム家の三男として、周囲から見れば並外れた才能を持っていると認識されている。それはあくまでこの世界の規範に則った成長の証であり、彼の前世を匂わせる要素は寸分たりとも存在しなかったはずだ。彼はこの世界の魔法体系、そして力の到達点についても、師匠たちとの修行の日々を通じてある程度の理解を深めてきた。

 それこそ、家族にすらその可能性を疑わせてもいないジフがあった。


「そんなの、魂の形を見れば一発で分かることよ。あんたの魂、歪んでるもん。」

「魂の形、だと……?」


 魂の形状を視覚的に捉える、などという概念は、ザインがこれまで読み漁ってきた膨大な資料のどこにも記載されていなかった。

 つまり、この世界の一般的な技術や知識体系とはかけ離れた、彼女自身の、あるいは彼女が本来持つ神性ゆえの特異な能力によって為された技なのだろうと、ザインは即座に理解した。


「そんなことより、ようやく会えたわね。しっかり私を探してた?」

「そんなこと、とは言うが……。ああ、情報網は、持ちうる限りの全てを駆使してな。」


 ザインにとっても、リリシア側からの発見が可能だったというのは、まさに不幸中の幸と呼ぶべき出来事であった。


 転生するまでの限られた時間の中で、二人の再会を確実にするための合言葉のようなものは何も決めていなかったのだ。唯一の手がかりは、「自称女神を名乗る女性」という曖昧な情報のみ。

 その不確かな情報を頼りに、ザインは同世代の女性を中心に、周囲から逸脱した特異な素性や奇妙な素行を持つあらゆる女性たちの情報を徹底的に調べさせてきた。彼自身で築き上げてきた情報網もくしし、広範囲にわたる調査を進めてきたのだ。


「それでも、正直なところ、手詰まり感は拭えなかった。感謝する。」

「そうね。感謝しなさい。で、それ以外は?」

「……神器の情報に関しても、着実に収拾を進めている。歴史的背景や伝承を鑑みるに、最も可能性が高いのは七大ダンジョンにあると見てまちがいないな。」

「なるほどね。それで?」

「14歳の成人の年を持って、ダンジョン攻略者の育成機関への入学を予定だ。」


 学園を経由せずとも、探窟者として名を上げ、十分な実力を示すことは可能だ。

 ザインはたたき上げとしても通用するほどの確かな力量を既に備えている。

 そしてそれは、リリシアの様子を見ても、彼女もまた、その域に達していると言えるだろう。

 だが、学園に入学することは、単に実力を磨くだけでなく、情報、人脈、そしてこの世界の仕組みをより深く理解するための、最も効率的な道筋だと確信していたのだ。


「なるほどね。で、ワタシは何をすればいいの?」

「……お前は、自分で考えようとはしないのか?」

「うーん。だって、あなたは計画の全てを緻密に考えていたんでしょ? それなら、ワタシが余計なことをして崩さない方が、結果的に楽じゃない?」


 確かに、リリシアの言葉は、ある意味で非常に合理的な判断だと、ザイン自身も認めざるを得なかった。

 この「自称女神」を名乗る少女――リリシアが、この十二年間、一体何を考え、どのように過ごしてきたのか、ザインには全く把握できていない。しかし、彼女の口ぶりや態度からは、ザイン以上の詳細な計画を持ち合わせている様子は微塵も感じられない。

 それならば、自分の案を基軸とし、必要に応じて修正を加えていく方が、あらゆる面で効率的だろうと、ザインは思考を巡らせた。

 

 思わず感心しかけたザインに、リリシアはさらに言葉を続ける。


「難しいことは全部あなたに任せるから、アタシは目の前の敵と戦うだけでいいわよね?」

「――この駄女神が。」

 

 それは、ザインの中で口に指定ない言葉だった。

 だからこそ、ザインの表情はポーカーフェイスのまま過ごしていたつもりなのだが、リリシアの表情が歪んでいく。


「い、今、言っちゃいけないこと言ったわね!」

「いや、声に出ると思わず……まさか聞こえているとは。」

「じゃあ、ずっとそう思ってたってことじゃない!」


 そういうわけではない、と必死に言い訳を並べ立てたくなる衝動に駆られる。

 これはきっと、魂だけで交わした会話がもたらした影響だろう。リリシアという、まさに女神の魂と直接対話したことで、彼の言葉から嘘や打算が極端に少なくなっていることに、ザイン自身もまだ気がついていない。

 魂の奥底で繋がった二人の間には、言葉の表面だけでなく、心の響きがダイレクトに伝わる独特の関係性が生まれていた。

 

「まぁ、ワタシは寛大だから、今回は許してあげるわ。で、神器の収集についてはそれでいいとして、一番重要な信者集めの方はどうなってるの?」

「それこそ、君と合流し、実際にその存在が公になってからでないと無理だろう。――まだ、君という存在そのものについて、この世界の住民にどう受け入れられるか、その反応を完全に理解しているわけではないし――。」

「うーん。それもそうね。でも、貴族の家柄なんだから、せめて基盤くらいは作れたんじゃないの? 神殿の建設とか、教団の設立とか。」

「宗教の創設は、一国の建国以上に高度で繊細な作業だ。仮に教典を作り上げたとして、もし君自身がその内容に心から納得できなければ、解散だって十分にある。」


 そもそも、一億人という途方もない数の信者を集めるという目標に対して、ザインは内心では全く乗り気ではなかった。

 それは、彼が魔王としての長い年月の中で培ってきた現実主義的な思考と、この世界の宗教観や社会構造に対する深い洞察に基づいていた。

 そのため、彼はリリシアの話を半分だけ聞き流しつつ、巧みに会話の軌道をより現実的な方向へと修正しようと試みた。


「それよりも、君自身はどうするつもりだ? もし学園へ入学する気があるのなら、それなりのまとまった資金が必要になる。仮に、特別な推薦状でもあれば話は変わってくるが、今の状況では難しいだろうな。」

「あなたの家は無理なの? 貴族なんでしょ? メフェリム家ならどうにかしてくれるんじゃないの?」

「そう簡単にはいかない。学園は貴族からの過度な干渉を極端に嫌う。だから、推薦状を出せるのは、基本的には学園のOBか、探窟者協会の役員くらいに限られているのが実情だ。」


 学園に対して直接的に意見を具申できるのは、事実上、この国の皇帝ぐらいなものだ。とはいえ、ザインが属するメフェリム家であれば、その皇帝に対してもある程度の融通を利かせてもらうことは不可能ではない。加えて、先ほどの戦闘で圧倒的な力を見せつけたリリシアであれば、推薦対象として選ばれることは比較的容易だろう、とザインは頭の中で冷静に計算していた。しかし、彼はその手を安易に使うつもりはなかった。


「なら、貯めるしかないわね。入学資金って、一体いくら必要なの?」

「(本当に、彼女には打算とか、そういう世俗的なものが一切ないんだな。いや、ひょっとしたら、最初は少しはあったのだろうか?)……ざっと見積もって、金貨10枚といったところだ。君のここまでの路銀は、俺の方で出すとしよう。」

「ありがと! さっすがザインね!」


 「特別だからな」という、ザインが口にしかけた言葉は、リリシアの突然の抱きつきによって、途中でかき消された。


 太陽のように明るく輝く笑顔で、ザインの胸へと飛び込むリリシアは、一般的な男児であれば、間違いなく理性を完全に失わせるほどの、恐ろしい破壊力を秘めていた。

 数百年に及ぶ魔王としての記憶を有し、恋愛感情という人間的な情動とは一切の関わりを持たずに生きてきたザインでなければ、赤面せずに正気を保つことすら困難だっただろう。


「ザイン! こらっ! オメー!」


 それは、最愛の娘が、見知らぬ(とエルドアにとってはそう見える)男児に無邪気に抱きつく姿を目の当たりにした父親――エルドアの、激情に満ちた反応であった。


 先ほど、釘を刺すように「娘には手を出すな」と忠告したばかりにもかかわらず、抱きついている様子は、誤解させるにはあまりにも十分すぎる状況であったのだ。

 エルドアは鬼のような形相で、怒りに燃える炎を眼に宿し、まっすぐにこちらへと向かって走り寄ってくる。その後ろからは、彼らが呼んできた死体回収用の人員がぞろぞろと連なっており、リリシアの母親である煉瓦色の髪をした女性は、その光景をどこか楽しげに、口元を手で覆いながら眺めていた。


 そんな緊迫した状況をまるで無視するかのように、リリシアはザインの首に両手を回し、無邪気にぴょんぴょんと跳ね続けている。


「はっはは。(差し当たっての、喫緊の課題は、この激情に駆られた父親から、娘を学園に送る許可をもらえるかどうか、だな……)」


 乾いた、諦めにも似た笑いが、ザインの口から静かに漏れた。それは、強大な魔王や神との契約といった、超常的な問題に対処してきた彼が、今、最も人間的で、そして最も予測不可能な壁に直面していることを示す、皮肉な笑いだった。

本日で第一章が終了です。


転生し再会するまでをあげるのに3ヶ月もかかるとは思ってもいなかったので、上げてみてびっくりの分量でした。


来週は外伝を上げて新キャラが出てくる予定です。楽しみにしていただけると嬉しいです。

また、千人近い方にみていただけるとも思っていなかったので、感無量です。

一件でも多く皆さんから、応援や指摘をいただけるようにこれからも面白いと思えるものを作って参ります。

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