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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第二章 外伝

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外伝 この世界のお話

リリシアとザインがこの世界に降り立ち世界は変質する。


しかし、この世界の物語は動き出す。これは、この世界のお話。


◆星が交差する夜


 夜空を瞬く星々はいつもと変わらず静かに瞬き、その光は日常の景色の一部として村を包む。冬の訪れを告げる冷たい風が、凍てつく空気を含んで村の家々の間を吹き抜けていく。

 夕食の支度を終え、暖炉の火が家々の窓からオレンジ色の光を漏らし始める、そんな時間帯だった。人々がそれぞれの家で温かい団欒を分かち合っている頃、ふと外に出て空を見上げた老人は、その異変に気づいた。


 普段と何ら変わりのない夜空に、突然、二つの蒼白い流れ星が同時に現れる。

 それらはまるで、目に見えない細い糸で互いに引き寄せられているかのように、緩やかな弧を描きながら互いの軌道を交差させた。


 刹那、夜の闇は一瞬にして掻き消え、まるで白昼夢のような眩い光が村全体を包み込んだ。空から降り注ぐ光は、村の隅々まで照らし出し、家々の屋根や木々の枝をくっきりと浮かび上がらせた。その光は、これまで誰も見たことのない、神秘的で力強い輝きだった。


 このあまりに劇的な光景を目の当たりにした村の長老は、その場で息を飲んだ。彼の年老いた胸の奥底で、記憶の彼方に深く埋もれていた古の言葉が、まるで呼び覚まされたかのように、自然と彼の口をついて出たのだった。


「星が交わる刻、勇なる魂がその身に宿らん……」


 その言葉は、彼の曽祖父の時代からこの村に語り継がれてきたものだったが、長老自身を含め、これまで誰一人としてその本当の意味を理解した者はいなかった。しかし、彼がその言葉を呟いた、まさにその夜、時を同じくして村の二つの家で、産声が響き渡った。


 一人の母親が、生まれたばかりの我が子を抱き上げる。

 その瞬間、母親は驚きと畏敬の念から、言葉を失った。小さな赤子の右目には、深い夜空のような濃い蒼が宿り、左目には、澄んだ泉のような淡い青が輝いていた。そして、その淡い青の瞳の奥深くには、微かに光を放つ不思議な紋様が、ゆらゆらと浮かび上がっていたのだ。


「これは……聖痕じゃ……」


 赤子の瞳を覗き込んだ村長の、震えるような呟きが、村の静寂を一変させた。

 その声は瞬く間に村中に広がり、ざわめきが波紋のように広がっていった。人々は互いに顔を見合わせ、驚きと興奮が入り混じった表情で語り合った。やがて、そのざわめきは歓喜の叫びとなり、生まれたばかりの赤子を囲むようにして、温かい祝福の輪ができあがっていった。


「勇者の証を持つ子だ!」

「まさか、この村から勇者が生まれるとは!」


 村人たちの熱い視線と、温かい手のひらに優しく包まれたユリアという名のその赤子には、何もわからなかった。ただ、母親の腕の中で感じる温かなぬくもりに安堵し、満足げな表情で静かに眠っていた。その幼い寝顔は、これから始まる壮大な運命をまだ知る由もなかった。

 

 同じ夜、村の斜向かいに位置する別の家でも、もう一人の少女が産声をあげていた。


 彼女の名は、リゼリア。


 後に世界中で数十人しか存在しないと言われる「女神の器」の一人として、この世に降り立った、特別な存在だった。彼女の琥珀色の瞳の奥には、まるで夜に咲く花の花弁のような、生物にはあり得ない形状をした瞳孔が、神秘的な光を宿していた。


 リゼリアが生まれた夜、母親は何度も、部屋の窓の外に、強い光が見えたと話していた。それは、まるで世界の中心そのものが輝きを放ったかのように強く、そして何よりも暖かな光だったという。彼女はその光景を、いつまでも鮮明に覚えていた。


「この子は……きっと特別な子になるだろうね」


 リゼリアを抱き上げた助産師は、その小さな命から淡い金色の光が揺らめき、幼い呼吸に合わせて静かに脈打っているのを感じながら、そう呟いた。

 この世界では、古くから女神の存在が信じられていた。その絶対的な意思を宿し、この世界に顕現させるための魂の「器」は、ごく稀にしか誕生する。彼女もその1人だった。


 まだ赤子だったリゼリアには、その深遠な意味がわかるはずもなかった。ただ、ぼんやりと覚えているのは、隣の家で同じ夜に生まれた少女の声、時には泣き声、時には笑い声が、よく耳に届いてきたことだった。彼女の母親はいつも、優しく語りかけていた。


「リゼリア、あの家の子とあなたはきっと、良い友達になれるよ」


母親のその言葉は、やがて来るべき運命のように、二人の少女を強く繋ぐことになった。


◆森と川の日々


 二人が初めて言葉を交わしたのは、共に三歳の春、村の広がる野原に柔らかな日差しが降り注ぐ、穏やかな日だった。


 ユリアの家の前を通りかかったリゼリアが、小石につまずいて転んでしまい、膝を擦りむいて泣きべそをかいていた時だ。その様子を見たユリアが、まるで風のように駆け寄ってきた。


「大丈夫?痛くない?」


 そう言って、屈託のない笑顔を向けたユリアの表情を、リゼリアは今でも鮮明に、心の奥底に焼き付いた記憶として覚えている。その笑顔は、まるで降り注ぐ太陽の光のように明るく、温かかった。ユリアは、まだ泣いているリゼリアの小さな手をそっと取り、一緒に立ち上がらせてくれた。


「泣かないで。ね、一緒に遊ぼう?」


 それが、二人の友情の始まりだった。


 それ以来、二人はまるで双子のように、毎日のように一緒に過ごすようになった。活発で、何にでも興味を示す好奇心旺盛なユリアと、物静かで、いつも一歩引いて周りを見守る思慮深いリゼリア。

 性格は対照的でありながら、その息の合い方は、まるで生まれる前から互いの存在を知っていたかのように自然で、ぴったりと調和していた。


 四歳を過ぎる頃には、ユリアは村の周りに広がる森で、ほとんどの時間を過ごすようになっていた。父親や村の大人たちは、森の中は危険だと心配し、何度もたしなめたが、ユリアはまるで森に呼ばれているかのように、毎日森へと足を運んだ。

 不思議なことに、森の動物たちはユリアに対して少しも警戒心を見せなかった。幼い子鹿がユリアの差し出す手の甲をそっと舐め、野うさぎは警戒することなく足元までぴょんぴょんと寄ってくる。小鳥たちは、まるで昔からの友人のようにユリアの肩に止まり、小さなリスたちは、楽しそうに彼女の周りを軽快に駆け回った。


「ユリアってさ……動物と仲良くなる魔法が使えるの?」


 そう言って、隣で穏やかに笑っていたのは、いつもリゼリアだった。

 彼女はどんな時も落ち着いていて、ユリアがどれだけ無邪気に、あるいは向こう見ずに振る舞っても決して怒ることはなかった。むしろ、その様子を、優しく微笑みながら、ただ静かに見守っていた。

 リゼリアにとって、ユリアの存在そのものが、輝く希望のようなものだった。


ある日の午後、二人は村の近くを流れる小さな小川のほとりで、色とりどりの野花を摘んでいた。夢中になって花を追いかけていたユリアが、はしゃぎすぎて足元を滑らせ、地面に勢いよく転んでしまった。


「いた……っ!」


ユリアの膝からは、転んだ拍子に擦りむいた傷から、鮮血がじんわりと滲み出ていた。小石で切った傷は、見た目よりも深く、ユリアは普段は滅多に泣かない子だったが、その時ばかりは痛みに顔を歪め、今にも泣き出しそうになっていた。その瞬間、隣にいたリゼリアが、迷うことなくそっとユリアの膝に手をかざした。すると、リゼリアの手のひらから、淡い金色の光がふわりと広がり、ユリアの膝の傷を包み込んだ。痛みがまるで嘘のように消え去り、傷口も見る見るうちにきれいに塞がっていく。まるで何事もなかったかのように。


「……すごい。リゼ、魔法が使えるの?」


ユリアは目を大きく見開いて、信じられないものを見るようにリゼリアを見つめた。リゼリアは自分が一体何をしたのか、まだよくわからず、ただ不思議そうに首を傾げた。


「ううん、なんとなく……これで治りそうだなって、思っただけ。変かな?」


変なんかではなかった。ただ、ユリアの、大切な親友は、ユリア自身よりもずっと、特別な力を持っていたのだ。その事実に、ユリアは改めて驚きと感動を覚えた。


「ありがとう、リゼ!大好き!」


ユリアは満面の笑みでそう叫び、リゼリアに抱きついた。


「もう、ユリアは元気すぎるんだから……!」


そんな二人の、笑い声が絶え間なく交わされる日々は、まるで永遠に続くかのように感じられた。


 五歳の夏、二人は初めて村の近くを流れる大きな川で泳いだ。ユリアはためらいもなく、きらめく水面へと飛び込んでいったが、リゼリアは岸辺で、少しだけためらいと迷いを抱いていた。川の水が冷たいことや、深い場所への漠然とした恐怖が、彼女の足を止めさせていた。


「大丈夫だよ、リゼ!一緒に、入ろう!」


水しぶきを上げながら、水中で楽しそうに微笑むユリアが、岸辺のリゼリアに向かって手を差し出した。リゼリアは、そのユリアの手を、ぎゅっと握りしめた。ユリアの温かい手の感触が、リゼリアの心に勇気をくれた。恐る恐る、一歩、また一歩と川の中へ足を踏み入れる。冷たい水が肌を撫でる感覚に、最初は身をすくめたが、ユリアと一緒ならきっと大丈夫だ、と強く思えた。二人は水しぶきを上げながら、日が西の空に沈み、茜色に染まるまで、時間を忘れて夢中で遊び続けた。


夕暮れ時、濡れた服のままで、笑いながら家路を急ぐ帰り道、リゼリアは心の中でそっと願った。


この、ユリアと過ごす、温かくて楽しい時間が、いつまでも、いつまでも続いてほしいと。


◆幼き勇気


 六歳になったある日のことだった。ユリアはいつものように、村はずれの森で一番高い木に登って遊んでいた。

 まるで木々の精霊にでもなったかのように、枝から枝へと軽やかに飛び移っていたが、ふとした拍子に、足を滑らせてしまった。地面へと落下していくユリアの姿を見たリゼリアは、咄嗟に、体が勝手に動くままに、ユリアの元へと駆け寄った。


 間に合わない、と思ったその瞬間、リゼリアは落下するユリアの腕に、かろうじて触れることができた。

 その時、リゼリアの身体の奥深くから、熱いものがこみ上げてくるのを感じた。それは、手のひらから溢れ出す、まばゆい光となって周囲を照らした。三歳の時に小川のほとりでユリアの傷を癒した時よりも、ずっと強く、そして力強い光だった。その光に包まれたユリアの腕の骨折が、まるで時間を巻き戻すかのように、みるみるうちに治っていく。折れた骨が正しい位置に戻り、皮膚の傷も跡形もなく消え去った。


「……治った?痛くない?」


 ユリアは目を丸くし、自分の腕を何度も触って確かめた。

 そこには、確かに何事もなかったかのように、傷一つない腕があった。リゼリアは、自分が今、何をしたのかも理解できず、ただ不思議そうに首を傾げた。周りの大人たちからは「女神の器だから」と説明されても、自分自身が特別な存在だという実感は、まだ希薄だった。ただ、目の前で、大好きなユリアを助けることができた、その事実が、何よりも嬉しかった。


 リゼリアはこの頃から、自分の未来がユリアと共にあることを、ごく自然なこととして願うようになっていた。漠然とした未来の形はまだ見えていなかったが、どんな困難が待ち受けていようとも、どんな未来が二人を隔てようとも、ただユリアの隣にいたい。


 それだけが、リゼリアの偽りのない、純粋な願いだった。その願いは、彼女の心の奥底で、静かに、しかし確かな光を放ち続けていた。


挿絵(By みてみん)

久々の後書きです。


第一章の間は、あまり後書きを入れずに投稿してきましたが、可能な範囲でこちらでも作中に関係ないことでも皆さんと交流できたら嬉しく思います。

今回は、リリシア達がこの世界に来なかった際に、この世界で語られる設定のお話です。

この中でも、蒼髪の少女は、性格も含め私個人的に好きなキャラなので、皆さんにも好きになって貰えれば嬉しく思います。

彼女達と、リリシアたちの物語がどのように交差していくか楽しみにしていただければ幸いです。

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