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女神様は勇者様 少女と元魔王の転生譚  作者: Yu_Yu
第一章 外の世界からの来訪

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森の深奥

森番として1ヶ月。エルドアに実力を認められたザインは、森の深奥へと迫る。


誰も見たことのないモンスターが、石に刻まれて眠っている。

森の奥には、まだ誰も問いを立てていない歴史があった。


 森番としての日々を送り始めてから、もう1ヶ月が過ぎていた。いつものように早朝の訓練を終え、汗が少し引いた頃、エルドアがひょっこり現れた。


 「おはようございます。今日は巡回の日ですね。」


 まだ、彼に対して朝の挨拶に敬語が混じるのはどうしようもない習慣になっていた。しかし、エルドアもそのことについては、もう諦めたかのように何も言わなくなっていた。


 「おう。今日は少しばかり奥深くへと入っていくぞ。最悪、野営の可能性も視野に入れて、しっかり準備をしておけ。お前の準備はどうなっている?」

 「保存食はあらかじめ準備してありますから、いつも通りで大丈夫でしょう。」


 そう言いながら、ザインは前日のうちに用意しておいた荷物を背中に担いだ。森番の通常の巡回は、その日のうちに帰ってこられる範囲で、森に異常がないかを確認することが主な仕事だ。

 中には、森のさらに奥地で一ヶ月単位で異変を調査する者たちもいるが、さすがにまだ十二歳のザインに、その役割が回ってくることはなかった。


 それでも、万が一の野営に備え、三日分の乾燥食料と魔力回復薬を準備する。その他、着替えや防寒具などを加えると、それなりの量になるため、移動中は基本的に戦闘を避けるのが賢明な判断とされていた。


 「よし。準備は整ったな。お前たちも行くぞ。」


 エルドアがそう告げると、彼に付き従っていた数人の森番たちが、力強く返事をした。


 通常、森の巡回は3、4人で行われることが多い。これは不測の事態に対応したり、視界を確保したりする上で必要最低限の人数とされていた。しかし、今回は泊まり込みの可能性を考慮し、ザインを含めて少し多めの6人が集まっていた。


 彼らの装備を見る限り、接近戦闘を得意とする者が2名、防御を担う壁役が1名、そして遠距離攻撃と索敵を担当する者が2名、それにザインを加えた編成だった。


 まだ経験の浅いザインには、見た目だけで彼らの実力を正確に測ることはできなかったが、客観的に見てエルドアが最も実力のある者だと判断し、万が一の際の優先順位を心の中で整理していった。


 エルドアが「少し奥に行く」と言った通り、彼らはいつもの巡回ルートから大きく逸れて、何度か踏み固められた程度の細い道を進んでいった。

 先頭を歩くエルドアには、目的の場所が既に定まっているようで、何の躊躇いもなく森の奥へと足を踏み入れていく。その次に索敵役の者が続き、その後ろに壁役、ザイン、もう一人の近接戦闘員、そして最後尾にはもう一人の索敵役が配置される、という隊列を組んでいた。


 「で、今回は坊主を連れて、どこまで行くつもりなんだ?」


 エルドアのすぐ後ろにいた索敵役の男性が、彼に話しかけた。

 ミーティングを行って、全員の行動方針が共有されていないのか、とザインは少し疑問に思ったが、おそらくこれは、ザインに情報を共有していないエルドアに対する問いかけだろうと、次に続くエルドアの言葉で察することができた。


 「さっきも言っただろう。巡回中に見つけた、まだ未発見の遺跡の確認だ。……今回は、坊主にも知見を広げさせるため、情報共有しておくことにした。」


 エルドアがそう言って誤魔化すように説明すると、質問した索敵役の男は「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめた。

 エルドアがようやく話した内容によると、森の中で今まで確認されたことのない遺跡の破片が見つかり、その破片の周囲の状況から判断すると、まるで上空から落ちてきたかのように、植物が押し潰された状態になっていたという。

 また、遺物に関する知識に乏しい彼らには、それが一体どの時代のものなのかまで判別できず、貴族としてそのような教養があるだろうと踏んだザインを、今回連れて行くことになったのだとか。


「自分も専門にしていたわけではないので、力になれるかどうかは不安ですが……頑張ってみます。」


 最初に訪れた場所には、いくつかの石柱が点在していた。彼らの見立て通り、なぎ倒された木々は押し潰され、やがては次の木々の養分へと変わっていったのだろう。石柱にまばらに生えた苔を考えると、これがここ一ヶ月の出来事ではないことは、誰の目にも明らかだった。

 

ザインは手で苔を拭いながら、石柱に施された意匠を詳しく見てみたが、これまで彼が目にしてきた帝国式の建築意匠とは明らかに異なっていた。その違いを瞬時に理解できた理由は一つ。そこに描かれていたのが、壁画だったからだ。


 「これは……モンスターですか?」

 「そう見えるだろう? だが、今まで確認されてきたどのモンスターとも違う。図鑑を見たことはないが、おそらく書物にも載っていないだろうな。」


 ダンジョンの中には、この地上には存在しない、およそ想像を絶するようなモンスターが数多く存在する。しかし、そうしたモンスターは、発見と同時に詳細な描写を伴う映し絵が作成され、その生態が綿密に記録されてきた。

 それは、国家間の争いにも影響されることなく、共通の知識として共有されてきた歴史がある。

 しかし、この石柱に描かれたモンスターの特徴は、ひどく形容しがたいものだった。


 触手のような口元に三つの目、どの動物の特徴とも合致しない胴体は四つ足で、その足先も幾重にも分かれている。そんな異形のモンスターがずらりと並んで描かれており、その中に、まるで人間のような二足歩行の小さな動物が、自らの足で歩み寄っていく様子が描かれていた。


 「これは、いつからここにあるのですか?」

 「最低でも数年前、長くても8年ほど前だと踏んでいる。森の全域、全ての区画を隈なく確認するわけではない。モンスターが来る方向から、危険性を判断するのが我々のやり方だからな。」

 「その中でもこの方角は、ここ数年モンスターの発見報告がなかったこともあって、巡回の優先順位が下がっていたんだ。」


 エルドアの発言に、同行者の一人が追加の説明を加えた。

 危険性が下がっているからといって、確認しなくていいわけではないだろう、という皮肉めいた言葉が喉まで出かかったが、ザインはなんとかそれを抑え込んだ。


「この先にも、他にもいくつか点在していてな。もっと厄介なものもあるんだ。」


点在する石片に何が描かれているのか、もっと確認したい様子のザインを引っ張るようにして、一行は先へと進んでいった。問題となっている場所まで、一直線にたどり着く。

そこには、先ほど見た石柱だけでなく、半径10メートルほどの広さの遺跡群が、崩壊しつつも、その場に形を留めて広がっていた。周囲の草木は一度踏み倒されてから育ったことは明白で、森の他の場所に比べて、低木がわずかに生えている程度だった。


「こ、これは……。」

「凄まじいだろう。しかもこれは、俺たちが8年前に調査した時には、影も形もなかった遺跡なんだ。」


ザインは意味もなく上空を見上げた。そこには、ただ青々とした空が広がるだけで、このような遺跡の影も形も見つけることはできない。しかし、この現状を目の当たりにしてしまうと、はるか上空に、まるで不可視の遺跡やダンジョンがあるのではないかと疑ってしまうほどの光景だ。その状況に、普段は感情の動きが希薄なザインでさえ、心が踊るような感覚を覚えた。


「それで?今日は、この遺跡が帝国に属するものかどうかの確認をすればいいのですか?それなら一瞬で結論は出ますよ。」

「やはりそうなるよな。ならば、報告書を作成する。文面を任せてもいいか?」


誰宛ての報告書なのかは聞かずとも察しがついた。ザインの父であり、その上の皇帝陛下にも見せられるような文章を作成しろ、ということだろう。

探窟者としてダンジョンの攻略に当たり、森番として日々、森の安全を管理している彼らには、そういった専門的な文章を作成する技術は持ち合わせていなかった。まさに適材適所。森番となって日の浅いザインは、そういった意味でもうってつけの人材だと言えるだろう。


(いや、最悪、実力が伴わなければ、そういった事務的な要因として使うために、エルドアは俺の派遣を受け入れたのだろう。)


そんな裏の事情を理解することができたが、今となっては、それはどうでもいいことだった。森番としてしっかり実力が認められた上で、こうしてこの遺跡を調査し、報告書を作成するのに必要なサンプルを回収することが、今のザインにとって最も重要な任務だったのだ。

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