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三年D組の勇者パーティの話 ~語り手はモブ村人な僕がお送りします~  作者: 和泉公也
第一章 出会いの章

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9話 勇者たちが現れた

「そこまでだッ!」


 突然、野太い声が僕の耳に届く。

 僕がよく知っている声だ。


「なんだ、てめぇ!?」


「名乗る名前なんざない! ふんッ!」


 僕の上に乗っかっていた男が腕を掴まれて、ぐいっ、と何者かに引き寄せられた。


「このッ! 放しやがれッ!」


「放してやんよっ! ほらッ!」


 男は勢いよく手を放され、そのまま背後に押し出され、尻餅をついてしまう。


「大丈夫ですかぁ?」


 もう一人、今度は女性の声だ。これもよく知っている人だ。


「危機一髪だったようね」


「みんな……助けに来てくれたの?」


 月明かりに照らされて、ようやく三人の姿がくっきりと映し出された。

 前守くん、宗田さん、そして、須磨さん……

+

「そりゃ、あんだけでっかい悲鳴が聞こえたらな」


「助けに行かないわけにはいかないでしょ」


「私たちはぁ、クラスメイトですからぁ」


 ――みんな。


 僕の頬に何か暖かい水滴が流れてくるのが分かった。それを涙だと気がつくまでにそう時間は掛からなかった。


「いいのかなぁ、そんなことしてさ」


 いつの間にかスマホを構えていた玲条が嫌らしい顔つきで笑ってきた。


「脅し? アンタ、馬鹿じゃないの?」


「はっ、バカはアンタたちだっての! 今の動画、しっかり撮らせて貰ったから! どうなるか分かってる?」


「えっと、どうなるんですかぁ?」


 宗田さんの口調は明らかにわざととぼけた様子だった。


「どうなるって、顔なんかすぐにバレて、学校とか特定されて、その……」


「一環の終わりって言いたいんでしょうけど、そこまで甘くないわよ」


「あなたの負け惜しみもしっかりと撮らせてもらいましたからぁ」


 これみよがしに宗田さんの手にはスマホが握られていることにようやく気がついた。


「目には目を、というヤツだな!」


「ぐっ、うぐぐぐぐぐ……」


 狼狽する玲条は静かに後ずさりを始める。


「どうするんだ? 万が一動画を拡散しようものなら、こちらの動画も拡散するぞ」


「あ、私のスマホを取り上げようとしてもムダですぅ。既にバックアップは取ってありますからぁ」

 

「う、うううううう……」玲条は冷や汗混じりに「あぁ、もう! 興醒めっ! もう帰るっ!」


 とうとう逆ギレ気味に玲条が踵を返そうとした。


「その前に動画を消せっ!」


「はいはい、消します!」


 玲条は何度も舌打ちをして、スマホを操作した。画面をしっかりと前守くんに見えるようにしているあたり意外と律儀な性格なのかも知れない。

 なんて考えている間に、スマホの手が止まった。


「ほら、これでいいでしょ!」


「確かに、確認させてもらった」


「ま、あんまり信用しないでおくわ」


「そういうわけなのでぇ、こちらの動画はしばらく消さずに残しておきますぅ」


「はっ!? そんなのアリ!? ふざけんなっての! こっちは下手に出てやったってのに……」


「あの、ですねぇ」宗田さんが静かに玲条に近付いていき、「あなた、ご自身の立場を分かっているんですかぁ? こちらはあなたのちっぽけなプライドなんていくらでもズタズタにできるんですよぉ。ただメリットがないからやらないだけで。温情で許してあげているんだから、反省と今後の身の振り方でも考えておくのが賢明ですよぉ」


 ――なんだ?


 宗田さんから発せられる、このドス黒くて重い気は。

 普段ほんわかしている彼女が、半目で薄笑いを浮かべている様は、全くもって想像だにしなかった。正直、怖い。


「うぅ……はいはい、分かりました!」


「おいおい、素直に話を聞くってのかよ!」


「どーすんだよッ! 脅した金と女を俺らにお裾分けしてくれるって話!」


 どうやら男たちは納得がいっていないようだった。


「はぁ!? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! そんなん知らないから!」


「この……」


 男が拳を振り上げた。その矛先は、


「きゃあああああああああああああああッ!」


 明らかに、玲条だった。

 僕は一瞬目を閉じてしまった。呆気に取られて、何も身動きが取れなかった。

 そしてゆっくりと目を開けると……


「ぐっ……」


 男が誰かに腕を掴まれて、後ろ手に引っ張られていた。

 前守くん、じゃない?

 これは、もしかして……


「遅くなってごめん」


「ったく、おせーっての! バカヤロ!」


 薄暗い路地に現れた、“勇者”が、そこにいた。

 僕の知る限り、こんな恐れ知らずな行為を平然とできるのは一人しか知らない。

 夕島英雄――


 僕たちを、助けに来てくれたんだ。


「今まで何をしていたの?」


「ちょっとね、色々と話をしていたから……」


 そんな軽口を叩きながら、夕島くんの男の腕を掴む手が次第に強くなっていく。


「ぐっ、誰だお前……」


「別に。ただのクラスメイトだよ。そして……」


 夕島くんは男を振り払うかのように押し出し、男を尻餅をつかせて転ばせた。


「俺たちの、仲間だ!」


「なか、ま……」


「そういうことですぅ。ナメないでくださいね、私たちの“絆”」


「伊達に三年間同じクラスやってるわけじゃないの」


 何も分かっていないような顔をする玲条。

 そうか、と僕は確信した。

 彼女には、そういう存在がいないんだ。他人を利用することしか考えていなかったから、本当に必要なときに誰も助けてくれない。

 仲間とか、絆とか、そういうのが全くといって良いほどないんだ。

 字面だけ見ればかわいそうにさえみえるけど、最早同情はすまい。


「そこまでだ、お前たち!」


 路地にまた一人、誰かが現れた。

 

「先生!」


「もう警察は呼んだぞ! 大人しくするんだな!」


 先生はそう言って、玲条たちをしっかりと睨み付けた。


「警察って、話がちが……」


「愚か者! 動画を消せば全てが許されると思っているのか? 何もしなければ見逃してやろうと思っていたが、もう堪忍袋の緒が切れた! 洗いざらい、これまでしたことを全て白状してもらう! 勿論、お前の父親にも、な……」


「ひ、いや、いやあああああああああああああああッ!」


 ――やれやれ。


 温情なんてものが効かないみたいだ。

 けど、いい気味ではある。


「おい、俺らも逃げ……」


 と男たちが去ろうとしたところで、パトカーらしきサイレンがウーウーと聞こえてきた。


「逃げ場があると思っているのか?」


「ま、まさか……俺たちは軽い冗談のつもりで……」


「もう冗談で済まされはしないわよ。観念しなさい」


「あがががが……」


 男たちも言葉に詰まっていた。

 もう脅迫なんてものは通用しないだろう。いや、そんなメンタルもないみたいだ。所詮はそれだけの小物だったみたいだ。

 なんて言ってやりたいけど……


 ――そんな小物にやられてしまった僕って、本当に情けないな。


 しばらくして、警察がやってきた。

 呆気なく、玲条さんと男たちはパトカーに連行されていった。何かブツクサ言ってはいたけど、聞き取れるような音量ではなかった。


「生徒たちの事情聴取はまた後日でお願いします。今日のところは私が責任を持って家まで送り届けますので」


「分かりました。よろしくお願いします」


 先生が警察に便宜を図ってくれたみたいだ。

 僕はそれを見て、ようやく立ち上がろうとした。けど、腰が抜けてそんな気力も湧かない。


「ほらよ」


 前守くんが僕に手を差し伸べてきた。


「あ、ありがと」


「いいってことよ」


 彼に引っ張られてようやく立ち上がれた僕は、尻についた砂を払ってみんなの顔を見た。


 ――凄いな、みんな。


 あんな怖そうな人たちに恐れることもなく、勇敢に立ち向かっていった。

 そして、見事に姫川さんを救い出した。

 間違いなく、彼等は“勇者パーティ”だ。


 それに引き換え――


 僕は――


 次第に僕は泣きそうになっていた。己の情けなさに腹立たしささえ思えた。

 結局、僕は何もできない、無力な村人だった。

 姫川さんを守ることなんて、とてもじゃないけど出来やしない。

 ダメダメすぎる。弱虫。クソ虫。ミジンコ以下――


「やったね、村野くん」


 ――え?


「村野くんのおかげよ」


「おかげって、僕は何も……」


「何言っているんですかぁ。村野くんがいなかったら、姫川さんが今頃どうなっていたか……」


「そうだぞ! もっと自信を持てよ! な、“ヒーロー”」


 ――ひー、ろー?


 僕にはとてもふさわしくはない言葉だ。

 そんな呼び名をされる謂れなんて……


「ありがとうございました。本当に、感謝しかありません」


 ――え、ええええええ?


 突然姫川さんに感謝されて、僕は思いっきり赤面してしまった。


「あ、ど、どういた、いたたまして……」


「照れんなって!」


 前守くんが頭をクシャクシャと撫でてきた。多分、彼なりの労いなのだろう。いじられるのは嫌いな僕でも、なんだか悪い気はしなかった。


「ま、よくやった、と褒めてやりたいところだが……」先生が厳しい目で僕を見据え、「危ない真似をしたことは良くなかったな。誰か早いところ助けを呼ぶべきだった」


「……はい」


「いいじゃんか。今は褒めようぜ、先生!」


「だがなぁ、私は担任として……」


「まぁまぁ、先生。村野くんは本当にカッコ良かったんだから。評価変わったと思うよ。ねぇ、姫川さん」


「あ、はい……」


 夕島くんに言われて、姫川さんの顔がぽっと赤く染まる。


 ――あれ?


 これってもしかして?

 もしかして、彼女。


 やっぱり、夕島くんに――


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