7話 姫が攫われた 勇者たちは助けに向かった
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「あら、ひっさしぶりー」
盛り上がっている勇者パーティのテーブルに、見知らぬ女が話しかけてきた。
「貴方は……」
「この国の姫になったんだってぇ? 女王様の養子になったって聞いたけど。アンタみたいな弱小貴族の小娘が、随分と出世したもんねぇ」
「ひ、人違いです……」
「うっそぉ、貴方、セーラじゃん。あ、ここではセーラ姫って言わなきゃダメだっけ」
嫌みったらしく、そして同席の面々にわざと聞こえるように言ってきた。
「おい、アンタ」ルギーが睨みながら席を立った。「顔見知りか知らんが、そんな悪口を言いに来ただけならとっとと向こうへ行ってくれ。酒がマズくなる」
「あら、ごめんあそばせ。それじゃあ失礼」
手を振りながら、にこやかに彼女は去って行った。
皆が姫の方を見つめる。彼女は唇を噛みしめて俯いたまま、小刻みに震えている。
「腹立つ女だな」
「友達ってわけでは……なさそうね」
「……すみません、わたくしはお先に失礼します」
セーラ姫は顔を隠し、そのまま席を立って酒場から出て行った。
「お、おい……一人で帰って大丈夫か?」
「かまわん。表に城の遣いを待機させてある」
今度は一同が女王へ視線を向けた。
「女王様、姫の様子が可笑しかったようですが……」
「あぁ。それにしても厄介なことになったな……」
女王もまた、怒りに震えているのか顔を強張らせている。
「先ほどの女性は一体?」
「隣国のさる貴族の一人娘、アーヤだ」
「ご令嬢だったのか。いや、だからって先ほどのあの態度はないだろう。女王様も流石に黙っていられなかったんですか?」
「仕方あるまい。彼女の家は、隣国でもとびきりの権力を持ち合わせている。父親の鶴の一声で、この国に戦争を仕掛けにくることも容易だ」
「そうだったのですか……」
「あのう、つかぬことをお尋ねしますが」ロッカが手を挙げて発言した。「先ほどあのご令嬢が『女王の養子になった』とおっしゃっていましたが、もしかして姫様って……」
「あぁ、そうだ。彼女は……私の養子として迎え入れた」
それを聞いた途端、勇者一行は目を丸くして驚いた。
「実の娘さんではなかったのですね」
「そうだ。隣国から養子として迎え入れた。私の遠い親戚の子だ」
「深い事情は聞かない方が良さそうですね」
勇者ディオはほっと胸を撫で下ろした表情を浮かべ、続きを聞くことにした。
「見ての通り、私は独身だ。本来ならば早く婿を取るべきところだが、運悪く恵まれなくてな。そこで私の叔父が残した隠し子の噂を聞き、彼女を探し出して養子に迎え入れたというわけだ」
「そうだったのですね……」
「彼女の母は私の叔父と愛人関係にあったようだ。そのため、隠し子扱いになっていた。八人兄弟の末っ子という名目だったが、ほぼ召使い同然の扱いをされていたよ。酷いものだった」
「女王様に救われたのですね」
「そして、あのアーヤという令嬢だ。彼女の家は、セーラが暮らしていた家と対立……いや、敵対関係にあった。そのせいか、一番立場の弱いセーラに対しても当たりが強い。更にはあの家は裏家業として脅迫まがいのことも行っているという噂だ。参ったな、まさかこの国に来ていたとは……」
「そんな奴、女王様の権限で国外退去にできないんですか!?」
「無理に決まっているだろう。裏家業の話はあくまでも噂だ。それに、この国で何も問題を起こしていなければ退去させる理由はない。寧ろ、下手なことをしたら我が国の悪評を振りまきかねない。彼女ならそれぐらいやりかねない」
「なんてこった……」
その話を聞いて勇者ディオは落胆した。
これ以上、彼女が姫に手出しをしないことを祈るしかない。当分の間、姫は身を隠して当たり障りのないよう過ごしていただくしか……なんとか思案を巡らせる。
だが――
その祈りが通じることはなかったと、この直後に思い知らされることになるのだった。
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僕はパソコンの指を止めて、テキストファイルを保存した。
目映い画面の光が、視界に集中して入ってくる。
「まさか、思わぬところで新キャラを出すハメになったなんてな……」
今日の歓迎会が終わった後、僕はすぐにプロットを纏め直した。どうしてもあの玲条という女を登場させたかったからだ。
まだ、彼女に対しては怒り心頭だ。
だが、これが僕にできる精一杯の制裁。陰湿かも知れないけど、これが一番気持ちがスッキリする。
おそらく、悪役令嬢アーヤという登場人物に対しては、かなりの尾ひれを付けた悪人として描くだろう。それだけ彼女への怒りは凄まじい。
時刻は深夜十時を回っている。意外と今日は眠くない。
目が悪くなるかも、という懸念はあるけど、折角だからもう少しだけ続きを書こう。そう思って、一度閉じたテキストファイルを再び開くことにした。
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「おい、誰か表に来てくれ!」
突如、酒場へ大声が響き渡った。
「何事だ!?」
「あ、じょお……じゃなかった、急いで来てください!」
慌てふためいた様子で、店員勇者たちの席へ助けを求めに来た。
勇者たちは急いで酒場の玄関まで急いで向かっていった。
見知らぬ男が、別の店員に介抱されながら酒場の玄関で項垂れていた。服は泥汚れでボロボロになっているが、茶色い染みに混じって赤い色も付着している。
「この者は……」
「女王様、お知り合いですか?」
「姫の護送を頼んだ遣いの者だ。おい、大丈夫か!?」
「あ、ぐ……なん、とか……」
女王はほっと胸を撫で下ろした。
男はゆっくりと体勢を整え直す。男の横ではロッカが肩の傍で手を翳している。おそらく回復呪文を唱えているのだろう。
「それよりも、一体何があった!? 姫は……」
「も、も、ももももももも……」男は涙目になりながら、「申し訳っ、ございません!」
最早男の様子はしどろもどろだ。冷静になれそうもない。
「おい、姫様がどうした!? まさか……」
「はい! セーラ姫様を送り届けようと馬車まで案内していたら……変な男たちに囲まれてしまいまして! なんとか逃げようと思ったのですが……セーラ姫様が男たちに捕まってしまいまして!」
「なっ……」
一同は絶句した。
姫が捕まった。只事で済まされる話ではない。
「姫様はどこに行った!? 無事なのか!?」
「酒場脇の裏路地に連れ込まれたとしか……それ以降は分かりません。私も抵抗したのですが、いかんせん相手のほうが数が多くて……」
「分かった。こうしている暇はない。急いで助けに行くぞ!」
率先して立ち上がったのは、ルギーだった。
「そうだね、早く助けに行かないと!」
「貴方たち、お酒を飲んだばかり……」
「あん!? 酔いなんざとっくに醒めちまったよ!」
「やれやれ……ま、仕方ないわね」
「私はこの方の回復を……」
「いや、それは私がやる」
「そんな、女王様にそのような真似を……」
「構わぬ。一応、簡単な回復呪文は使えるからな」
「かしこまりましたぁ。すみません、お手数をお掛けしますぅ」
「こちらこそ、だ。姫のことを頼んだぞ!」
ロッカは男の回復を女王に預け、勇者パーティは一斉に立ち上がった。
「よし、急いで姫を助けに行くよ!」
「おうっ!」「ええっ!」「はいぃっ!」
勇者パーティが声を挙げると、姫の身を案じながら裏路地へと向かっていくのだった。
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ここまで書き上げて、僕は再びテキストファイルを閉じた。
激動の展開が続いていたが、ほぼ事実を元に書いている。
あの女と出会った後の出来事で、今日はクタクタだ。
僕はベッドに横たわりながら、あの事件のことをずっと思い出すのであった――




