3話 勇者と姫は見つめ合った
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「あ、貴方は……」
勇者ディオは目の前に現れた女性に思わず見とれてしまった。
髪の色と揃った、淡い桃色のドレス。空いた胸元には銀色のペンダントが光っている。
「紹介しよう。私の娘、そして我が国の姫、セーラだ」
「皆様、お初にお目に掛かります。そして、勇者様。先ほどは助けていただき、ありがとうございます」
「話は姫から聞いているぞ、勇者よ。暴走した馬車を止めてくれたそうだな」
「あ、その……いえ、大したことはしておりません。それに、まさか乗っていたのが姫様だったとは知らず……」
「何をおっしゃるのですか。貴方は私にとって命の恩人です」
しばらくディオは姫様の目を見つめていた。
彼女の美しい瞳に、思わず吸い込まれてしまいそうになる。
「えー、こほん」女王マリアは咳払いを挟み、「そういう話は後ほどするが良い。今はとりあえず、お前たちに褒美をやろう」
「あ、はい。ありがとうございます」
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ようやく話が進んだ。
相変わらず、大した内容ではないけど、新キャラの姫が登場させられたのは大きな収穫だったと思う。
それにしても、姫川さんか……
僕は椅子を揺らしながら、彼女のことをふと思い出してしまう。
「あれ、絶対夕島くんに一目惚れしているんだろうなぁ」
彼女と夕島くんが見つめ合っていた、あの時間――
僕たちはずっと、その空気に呑まれてしまった。完全に二人の目はトロンと甘酸っぱい視線を交わしあっていた。
「あー、えっと」先生は珍しく戸惑った様子で、「こほん。まぁその話の続きは後ほどやってくれ」
「は、はい……すみません」
気恥ずかしそうに再び着席する夕島くん。チラチラと教壇のほうを見ては視線を逸らす仕草を続けている。
「あ、そうだ。一応だが、これだけは断っておく。姫川は私の従姉妹だ」
「あっ、そ、そうなんですか……」
なんていうか絶妙に微妙な関係だな。反応に困る。これが親子や姉妹だったら「全然似てないじゃん!」とか驚愕する場面なんだけど、従姉妹ぐらいにそこそこ離れた血縁関係ならそこまで驚くほどでもない。
一応物語の中では女王の娘ということにしておこう。そっちのほうが自然だし、分かりやすい。別に何から何まで現実を忠実に再現する必要はないし、多少は差別化しておくのが吉だ。ま、先生に知られたら怒られるかも知れないけどね。
あとはそう、今後の展開だ。やはり勇者と姫のラブストーリー要素をここで取り込みたいところだけど、果たして二人は本当に惹かれ合っているのだろうか? 恋愛なんて碌にやってこなかった人生だから、こういうときどうすればいいのか。
こんな難しい展開の先なんて――
――なんてね。
実際問題、あの二人がどう思っているのかなんて、当人同士にしか分からないことだ。
本当に恋愛感情を持っている可能性も否めないが、僕の思い過ごしの可能性だって高い。それを勝手に恋愛だとかで決めつけてしまうのは早計すぎる。
夕島くんと仲が良いならまだしも、そんなに親密なわけではない。僕はあくまでも遠くの席から眺めているだけの傍観者だ。彼の本当の気持ちなんてどうなのか、分かるわけがない。それでもし、万が一、二人の気持ちが間違っていたらどうするんだ、責任取れるのか。僕はしっかりと自分に言い聞かせておいた。
ひとまずは書くのはここまでにしておこう。今後どのような展開にしていくかは、彼らの様子を見ながら考えるか。
明日から本格的に授業が始まる。その様子を眺めながら考えていっても遅くはないだろう。
そう思いながら、僕はノートパソコンを閉じて、寝床についた。
「やっぱあの二人、絶対好き合ってるよな!?」
翌日。学校に着くや否や、前守くんの大声が響き渡った。
教室内には幸い、僕以外には前守くんと須磨さん、そして宗田さん以外は誰もいない。ご都合主義というか何というか、この話を聞いているのが僕らだけという構図だ。
「えぇ? そうですかぁ?」
「まーた、何勝手なこと言ってんの」
若干呆れ気味に反応する須磨さんと宗田さん。
だけどバン! と机を叩いて前守くんは力説を続ける。
「昨日の様子見てただろ!? あれは完全に好き合ってるね。俺の直感に間違いはない!」
「そう言ってアンタはいくつのテストで点を落としてきたのよ」
「うぐっ、それを言うな! 試合ではその直感を外したことはない!」
「全く関係ないと思いますぅ」
――ううん。
同様に見えていたのはどうやら僕だけじゃなかったみたいだ。ただ、前守くんのことだからなぁ、どうも信用ならないんだけどね。
「それにな、英雄の奴、昨日もあの後付きっきりで校内を案内していたらしいぞ」
「そういえばそうだったわね。確か先生に頼まれたからだとか」
「頼まれたからって、フツーそこまでするか!?」
「さぁ? するときはするし、しないときはしないんじゃないんですか?」
「それだけじゃない、今朝も英雄にLINEしたんだが、どうやら先生に頼まれて姫川と一緒に登校することにしたらしい。家が近いからという理由らしいが……」
「うぅん、それは流石に……」
「妃先生が過保護すぎるかと……」
なんだろうか、この会話……
僕に思いっきり内容が筒抜けなんだけど。
しかし聞く限り、やたらと先生の言うことに従いすぎだな、夕島くん。そういえば一年のときも二年のときも、先生に頼まれたら素直に聞いていたっけ。先生の信頼が厚いのと、彼のお人好しな性格的なものだとしか思っていなかったけど。
しかしそこまでいくと、益々怪しくなってきたな……
僕は家から持ってきた適当なラノベを読んでいるふりをしながら、しばらくは話の続きを聞くことにした。
「ま、しばらくは様子見していればいいんじゃない? 付き合うなら付き合うで勝手にすればいいし」
「二人とも美男美女でお似合いですもんねぇ」
「そうしたいのは山々なんだがな……」前守くんは腕を組みながら、「夕島の奴、女に興味なさすぎなのは知っているだろ!?」
「え、それって……」
何故か顔を赤らめる須磨さん。
「ほら、こないだも女子に告白されて断っていたって言っただろ? あれ、A組の桜井さんだぜ。あの新体操部の美少女の! それを断るとかあり得るか!? アイツ、ホントに女に対する興味がなさすぎんだよ! 一年の頃から!」
「そ、そうね……まさかとは思うけど……」
――ん?
さっきから須磨さんの様子がおかしいな?
「まぁ、好きな人とかそういう話にはあまり乗っからない方ですもんねぇ」
「だろ!? もったいねぇよ! しかも姫川さんってあの美貌だぜ!? 絶対、変な男が寄ってくるに決まってんだろ! だったら夕島とくっつけてしまったほうが俺らも安心できるってもんだ!」
「前守君も過保護すぎですよぉ」
「そうそう。大体、話が飛躍しすぎよ。お互いの気持ちをしっかりと……」
「だーかーらああああああああああああッ! それを確かめんだよ! 今日の放課後に!」
――なんだなんだ?
なんだか話がワケの分からない方向に向かってきたぞ。
そこに来て、他のクラスメイトたちが「おはよう」と言いながら続々と教室に入ってくる。タイミングが良いのか悪いのか、なんとも言いがたいところだ。
「おい、みんな! 聞いてくれ!」
「なになに?」
「どうしたんだ、前守?」
そう言ってクラス中の視線を集めた前守くんは、コホンと咳払いを挟んで、
「今日の放課後に、姫川さんの歓迎会を行おうと考えているんだ!」
……
…………………
――なんですと!?
突拍子もないことを言い出した前守くんに、僕も須磨さんも宗田さんも、っていうかクラス中に皆も目を丸くしてポカンと呆れ果てていた。




