26話 村野忠人は書けなくなった
譛霑代�蟄ヲ譬。縺」縺ヲ蜊呈・ュ蠑上↓莉ー縺偵�蟆翫@縺」縺ヲ豁後▲縺溘j縺吶k縺ョ��
「ったく、姫も人騒がせだな」
「も、申し訳ございません。わたくしが勘違いしていたばかりに……」
「はは、まぁいいよ。僕が説明不足だったのが悪いんだし」
「全くよ。本当にアンタたちって……」
酒場では、勇者たちがジョッキを片手に談笑している姿が見られた。
「ですですぅ、結局、誤解が解けて良かったですぅ」
「そんじゃ、そんな誤解が解けたところで……」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
勇者一同が、景気よくグラスを掲げて乾杯し合った。
今日は決してなにか特別なことがあったわけではない。誰かの誕生日でもなければ、依頼を達成したわけでもない。平凡な日常風景を味わった、ただの一日だった。
それでも――
勇者たちは飲みたい気分に駆られた。
「でもまさか、ね……」
「ディオがすぐ親父さんと旅に出るなんて勘違いしていたとはな」
「勇者が、親父さんと旅に出るのは――」
「魔王を倒した後の話、ですぅ」
あはは、と互いに顔を見合って笑う勇者一同。
姫も釣られて笑ってしまった。そして、彼女も珍しくお酒をグビッ、と飲んでいた。
「なーんか変だなって思ったからよ。話がどうも噛み合わねぇし」
「たしかに、いつ出発するなんて話はしていなかったもんね」
「ですよねぇ。そりゃ誤解もしますよぉ」
セーラ姫は段々気恥ずかしそうに俯いている。その気恥ずかしさを無理矢理隠そうとしているのか、もう一杯酒を飲み始めた。
「わ、わたくしだって変だって思ったんですよ! だって、魔王も倒していないんですよ! この国だっていつ平和になるか……なのに、みなさん平然とされていたから」
「だからごめんって。僕だって父に突然言われたからさ、ちょっとどぎまぎしていただけなんだよ」
「でもよぉ、ディオ」ルギーはテーブルの上の肉を頬張り、「もし、だぞ。世界が平和になって、親父さんと旅に出たらさ、どうすんだよ、女王のこと」
「……そうだね」
勇者ディオは静かにグラスに口を付けた。彼は今、冷たいお茶を飲んでいる。
「まさか、置いていく、なんてことはないでしょうね?」
「まさかぁ。勇者が、愛する女性を置いていくなんて……」
「置いていくよ」
グラスをそっと置き、寂しそうに顔を顰めてディオは呟いた。
「えっ……?」
「そんな、本当?」
「あぁ、もちろん」ディオは皆を一瞥して、「世界が平和になったとはいえ、どこに危険が潜んでいるか分からない。それに、女王様だってこの国がある。一緒に旅に出るなんてとんでもないよ」
「でも、それじゃぁ……」
「安心して。必ず僕は迎えに行く。今よりもっと強くなって、世界のことを知って、そして……世界で一番の、王様になる」
それだけ勇者が言い放つと、皆が一斉に沈黙を決めた。
彼の目は綺麗だ。そして、強い。
彼の覚悟が本物だと、皆は確信した。
「貴方ならそう言うと思ったわ」
「ですねぇ! ディオらしいですぅ!」
「オッケー! とりあえずは、魔王をぶっ倒す! それからのことは、その後考えようぜ!」
「アンタって人は……ま、いいか」
勇者パーティのテーブルから、料理が次々と消えていく。神妙な話で腹が減ったのか、思い思いに皆が平らげていく。
だが、それでもセーラ姫は何にも手を付けようとしていなかった。
彼女はまた酒を注文して、そして何杯も飲んでいた。
「うっ、うう……ぷはぁ!」
「ちょ、ちょっと姫様……」
さすがに心配になったのか、リコがセーラ姫の顔を覗き込んだ。
「さっきから飲み過ぎだぞ! そんなに飲む方だったか?」
「い、いいんれすぅ! げぷっ……」
一瞬吐くかと思ったが、ゲップで済んだようだ。
いつもの清楚な雰囲気からは想像もつかないほどの酒乱っぷりに、皆の心配がいよいよ募り始めてきた。
「もうそれぐらいにしたほうが……」
「うるさいれすっ!」
呂律の回らない口調で強く怒鳴られた。
セーラ姫のその様子に、勇者パーティはビクッ、と身体を震わせた。
「……どうしたんだ?」
「誤解は解けたんじゃないのですかぁ?」
そう聞くと、姫はドン、と強くジョッキを置いて、
「それでも! 勇者様はいずれ旅に出るんれすよね!」
「だからそれは、世界が平和になって……」
「世界は平和になってほしいれす! でも、でもぉ! わらくしは、その日が来るのが、寂しくて、ずっと……ずっと、ずっと……この日々が、続いて、欲しい……れす……」
…………………………
…………………………
譛ャ蠖薙�謌ヲ縺��縺薙l縺九i縺檎カ壹¥縺ィ螻暮幕縺瑚錘縺医k繧医�
縺�▽縺セ縺ァ繧ょ酔繝ゥ繧ケ繝懊せ縺ッ蠢�★縺励b謨オ縺ィ縺ッ髯舌i縺ェ縺�
縺俶律縲�′邯壹¥縺ィ諤昴▲縺溘i螟ァ髢馴&縺�□
――ふぅ。
僕はパソコンの画面をじっと見つめて、手を止めた。
ここまで書いたことは、ほとんど本当の話だ。
先に言っておくけど、お酒は飲んでいない。あと、舞台は酒場じゃなくてLINEのグループ内での出来事だ。
『全く、村野も人騒がせだな』
『まぁいいよ。僕が説明不足だったのが悪いんだし』
説明を受けたときは、僕の肩の力がへなへなと抜けていったのを覚えている。
――夕島くんが留学するのは、高校を卒業してから。
そんなベタなオチだとは思っていなかった。というよりも、僕と姫川さんが勝手に勘違いしていただけなんだけどさ。
だけど、それを聞いたときは本当に安心した。
僕たちのクラスの“日常”は、これからもずっと続いていくのだ、と。
――そう思っていた。
姫川さんのLINEが来るまでは。
『でも、卒業、するんだよね……』
その一言に、僕ははっとさせられた。
『ま、そりゃそうだろ。てか、もう三年生なんだし』
『アンタは留年しないことだけ考えなさい』
『うっせー!』
いつものように流れているLINE。
でも、それから姫川さんの言葉は止まってしまった。
――いつか、僕たちは卒業してしまう。
そんな当たり前の現実を突きつけられて、どこか胸の奥にモヤができてしまった僕がいる。
そして、おそらく姫川さんもその現実を直視できないのかもしれない。
僕はずっと、このクラスをただの傍観者として日々をやり過ごしてきた。
けど、三年生になってから、夕島くんたちと一緒に過ごす時間が増えてきた。
姫川さんに至っては、もっと短い。
全く違う学校にいて、このクラスに入って間もない。そして、ほとんど何も知らない。
転入してからまだ一ヶ月も経っていない。それなのに姫川さんにとっても、このクラスの存在がずっと大きくなってきているのだ。
そして、卒業――
つまり、このクラスにも“終わり”というものが存在する。
姫川さんが本当に寂しがっていたのは、そういうことなのだろう。
まだ、やらなきゃいけないことがある――
僕はパソコンとにらめっこして、小説の続きを書こうとした。
けど――
書けない。
どうしても、続きが書けない。
いつもどおり文字を打とうと思っても、手が勝手に震えて止まってしまう。
どうしてだ?
どうしてなんだ?
その答えは僕の中で既に出ていた。
クラスが終わるということは、つまり……
この勇者日常譚にも、“終わり”がある、ということだ。
動け…………………………
動け動け動け動け動け動けうごけえええええええええええええええええええええええ!
心の中で叫びながら、僕は何度もキーボードを押そうと試みる。
でも、どうしても動かない。
「クソッ!」
僕は力任せにパソコンの電源を切り、そのままベッドに横たわってしまった。
せっかく誤解が解けたというのに、このまま続きが書けなくなるのだろうか?
――いや。
まだ、僕にはやらなきゃならないことがある!
この物語を、終わらせたりはしない!
「ラスボスは、姫川さんだ――」
腕で目を塞ぎながら、そのまま深い眠りに落ちていった。




