21話 先代勇者が現れた
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王城の一室。
煌びやかな装飾の下、二人は豪華なソファに座りながらじっと見つめ合った。
「まさか、君が……」
女の子はそわそわと落ち着かない様子で、目の前にいる男の顔を見つめていた。
「スミマセン、ずっと言い出せませんデシタ……」
「信じられない……うちのクラスに、そんな……」
どこか顔が赤い女の子。
だけど、彼はそっと彼女の手を握る。
「トモカさん……ワタシ、実は、あなたのことが……」
「やめて!」
女の子の目に涙が滲んだ。
「ド、どうしてデスカ……」
「あたし、普通の高校生だよ!」
「それはワタシも……」
「あなたは違う!」
一喝され、男ははっと身体を竦ませる。
「……デスヨネ」
「ごめん……でも、知らなかった」女の子は俯きながら、「あなたが、アラブの石油王、アブラーの息子だったなんて」
しばらくの沈黙。
男はずっと彼女の手を握ったまま、申し訳なさそうに彼女から顔を背けていた。
アラブの石油王の息子と、平凡な女子高生――
二人の恋物語は、まだ始まったばかり――
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……
…………………………
――なんだこれ?
「つ、つまんない……」
パソコンの画面に並べられた文字の羅列を見て、思わずため息を漏らしてしまった。
黒歴史にも程がある。
これを書いたのって、中学の頃だったっけ?
一時期少女漫画の王道ラブコメにハマっていて、そのノリで書いてしまった作品なんだけど、それにしたってつまんなさすぎる。
過去に書いた小説を久しぶりに読み直してみたら、これだよ。
我ながらよくもまぁこんな駄作を意気揚々とネットにアップできたもんだ。その勇気だけは昔の自分に対して尊敬してしまう。
あの頃の僕は――
ただ、好きなことをノリと勢いだけで、面白いと思える設定を詰め込めば、それだけで一つの話になると思っていた。
それだけでは、本当に面白い話にはならない。
そんな当たり前のことに気付くのは、もう少し先の話だった。
それにしても――
タイトルが「好きな人が石油王の息子だった件」とか、まんま過ぎるのはいかがなものだろうか……
おかげでポイントはおろかブックマークさえついていない。PVも最初だけまばらに増えているだけで、ほとんどないのと一緒だ。
「……うぅ、見なかったことにしておこう」
駄作とはいえ、折角書いた小説だ。消したりなんかはしない。
もしかしたら、この小説がいつかなにかの手違いでバズってしまうかもしれない。
それ以上に、僕の処女作なのだから、消すに消せない。
なんで僕が過去に書いた小説をずっと読んでいるのかというと……
「なんか筆が進まないなぁ……」
さっきから勇者日常譚を数行書いては、数文字ほど消す、という行動を繰り返している。もはや作業感覚に近くなっている。
多少筆が滞ることはあったけど、ここまで進まないのは初めてだ。
「ま、うん……気を取り直して続きを書こうっと」
今日の出来事が頭から離れない。
掲載サイトから戻るボタンをクリックして、この前アップした続きに一度目を通すことにした。
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「お久しぶりです、女王マリア様……」
「勇者か。う、うむ……久しぶりだな」
城へと会いに来た勇者は、真っ先に女王マリアの元へ向かっていった。
もちろん、城の者に見つからぬように、秘密の抜け穴からこっそり入って、魔法使いのローブを羽織って。
昼間の日が高い時間なら、女王は一人で庭園でお茶をしているだろうと踏んでいたが、その予想はピッタリと当たっていた。彼女は庭園のテーブルに座りながら、湯気立つ紅茶をすぅっと啜っていた。
「……節操がないな、お前は」
「私は女王様のためなら、いつでも会いにいきます」
「用もないのに会いに来るくらいなら、とっとと魔王を倒してこい」
冷たく言い放つ女王。
だが、そんな突き放すような態度にも、勇者ディオは意にも介さず、
「ええ、当然です。魔王を倒した暁には、貴方をお迎えに上がりますから」
「期待しないでおこうか」
「期待していてください」
――まったく、この男は。
跪く勇者に呆れた視線を送りながら、また紅茶を啜る女王。
どことなく顔が火照っているのは、紅茶の熱気のせいだろうか。
「綺麗な庭園ですね、女王様」
「あぁ、我が王城自慢の庭園だからな」
庭園に咲き誇った薔薇のアーチをくぐると、花壇に名も知らぬ花が色とりどりに並んでいる。花の優しい香りがこちらのほうまで漂ってくる。庭園を流れる小川のせせらぎの音も、そこで戯れている小鳥の鳴き声も、何もかもが平和の象徴にさえ感じてしまう。
「ここだけは、本当に平和ですね……」
「ここだけ、か……ふっ……」女王はカップを置いて、庭園を眺めた。「世界中がこんな世界になったら、か……確かに、そういう考え方まではしてこなかったな」
「いずれ、僕たちが目指してみせますよ。いえ……実現してみせます。必ず」
女王と勇者は見つめ合った。そして、二人で笑い合った。
「そういえば、似たようなことを言っていた者がおったな。あれは、たしか……」
女王マリアがふと考え込んでいると、
「じょ、女王様! 大変です!」
庭園に慌てるようにして、従者が入ってきた。
勇者は見つからないように咄嗟にテーブルの下に潜り込んだ。
「どうしたのだ? 何か、マズいことでもあったのか? まさか、魔王が……」
「いえ……そういうことではないのですが……」
「なら早く言え!」
慌てる気持ちを抑えようと、従者はごくり、と唾を飲み込んで、
「じ、じつは、その……」従者は深呼吸をして、「先代の、勇者様が、お城に現れました……」
「なっ!?」
「えっ!?」
二人は同時に、驚いた。
「先代勇者、セト……まさか、生きていたのか?」
「ええ。それで、その……」
――まだ何かあるのか?
勇者と女王は固唾を呑みながら、続きを聞くことにした。
「勇者様と三人で、お話がしたい、とのことで……」
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ここまで書き終えて、僕は小説を保存した。
そして、僕はずっと考えていた。
――もしかしたら、これが“勇者日常譚”の、最終章になってしまうのではないだろうか。
今日の出来事からずっとそんなことを考えていた。
僕たちのクラスは、夕島くんを中心に回っていると言っても過言ではない。
彼がいてくれたからこそ、本当にひとつの“王都”が平和になっている。
だけど……
その平和が、もしかしたら崩れ去ろうとしているのかもしれない。
僕の物語に出てきた先代勇者――
他でもない、夕島英雄くんのお父さんがモデルだ。
突如として現れた、その人物の存在。
それは、僕たちの“日常譚”が終わってしまうことを意味するのではないだろうか。
そんな誰にも言えない不安を、僕はずっと胸の奥にしまっていた。




