19話 勇者たちはサキュバスを見直した
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「なるほど。身寄りのない子どもたちにご飯を食べさせていた、ということだったのか。どうやらサキュバスの店に関しては問題なさそうだな」
「まったく、それならそうときちんと申し立てを……」
勇者たちからの報告を聞いた女王マリアと大臣ターキーは、庭園を眺めながら語り合っていた。
「仕方がないだろう。裏路地の手前とはいえ、あそこは不審な輩が多い。勝手に入って荒らされないように、看板も出していないようだ」
「それでも……我々にはしっかり相談してもらっても……そんなに私たちは頼りないと……」
大臣は少々照れくさそうに、口を尖らせてブツブツと呟いていた。
「仕方あるまい。人間とは比較的良好な関係とはいえ、我々に頼み事をするのにはまだ抵抗がある部分があったのだろう。実際、我々も彼女らに対していくらか不信感を抱いていたからな。お互い様だ」
マリアは庭園の花を眺めていた。広々と咲き誇っている無数の薔薇が、色とりどりに並んでいる。女王は薔薇の傍へしゃがみこみ、その香りを嗅いでみた。
「やはり難しいものですぞ。人間と魔物の共存共栄というのは」
「そう簡単にはいかないかもしれないが」マリアはしゃがんだまま振り向き、「決してできない、ということはない。今回、勇者はその一歩を見事に成し遂げてくれた」
「今回は良かったのでしょうが、毎回こうだとは……」
「だろうな。それよりも、我々は先にやるべきことがある」
「……やるべきこと、とは何ですぞ?」
女王マリアは「いたっ」と声を挙げてしまった。指先からぷっくりと赤い血が滲んでいる。
少し指先を舐めて、彼女は静かに微笑んだ。
「貧困対策、そして、腹を空かせた子どもたちが一人でも減るように国として支援していくことだ」
やれやれ、と大臣は首を振った。
「そんなことは分かりきったことですぞ。そんな夢物語など……」
「夢物語でもいいじゃないか。理想なき政治ほどつまらぬものはない。でないと魔王がいなくなったとて、国は一向に良くならん」
「……女王様ならそうおっしゃると思いましたぞ。ですがくれぐれも、無理だけはしてはなりませんぞ」
「フッ、そういうところは優しいのだな、大臣」
おほん、とターキーは咳払いをして、
「それで、勇者どのは?」
「あぁ、彼らか」少し顔を赤くした女王は、「別のクエストに赴いていたはず……確か、ダンジョンの探索だったかな? 無事に終わったのであればそろそろ帰ってきてもいい頃だろうが……」
「ほほう」ターキーがじっと女王を流し目で見た。「勇者どのについて、随分と詳しいようですぞ」
「ま、まぁな。長い付き合いだから……」
「ふぅむ、まぁいいですぞ。く・れ・ぐ・れ・も! 勇者どのと変な気を起こさないように!」
「あぁ……分かっている……」
物憂げな表情で、女王は再び花を眺めていた。
「あ、お母様。こちらにいらっしゃったのですか」
セーラ姫が庭園に入ってきた。
「セーラか、どうした?」
よく見るとセーラ姫はこの間のような布の服に着替えている。
またか、と思ったマリアは呆れてため息を吐いてしまった。
「ここ最近、何度も城の外に出ているようだな」
「えへへ、バレちゃいました?」
「バレてるもなにも、最早私に隠す気もないだろう」
「だって、城下町にはたくさん面白いものがあるのですもの。もちろん、きちんと勇者様たちと一緒に行動しますので、ご安心ください」
「まぁいい。お前のことを信じるとしよう。それで、今日はどこに行く?」
「今日は、ですね……」
セーラ姫は城下町へと繰り出した。
服のフードを被り、顔を見せないように人混みをかき分けて目的の場所へと向かっていく。商店街の中で何人もの人々とすれ違うが、誰一人として彼女が姫だということに気がついていない。
慣れてきてしまった足取りで、彼女は目的の場所へと立ち止まった。
「こんにちは……」
その建物の中へは、まだ入るときに若干躊躇してしまう。
「おっ、お姫様がおいでなすったようだぜ!」
入るや否や、ルギーの大らかな声が響き渡った。
「皆さん、やはり帰られていたんですね!」
セーラ姫はフードを頭から外し、ゆっくりと勇者たちが座っているテーブルの真ん中へとやってきた。
彼らはテーブルに置かれた料理を食べながら、にこやかに談笑しているようだった。
「思ったよりもダンジョン探索が早く終わりましたからぁ」
「まったく、誰かさんが変な罠に引っかかりさえしなければもっと早く終わったんだけどねぇ」
「おい、それは誰の話だ!?」
ルギーが机をバン! と叩いて怒る。その姿に、思わずセーラ姫も笑みがこぼれてしまう。
「でもよかったじゃないか。ここでご飯を食べていなければ、あの罠でずっと呪いに掛かってしまったままだったよ」
「おう! ミレイさん様々だな! ははははは!」
どういうことか理解できないまま、セーラが首を傾げていると、店の奥から誰かがやって来た。
「いらっしゃ~い♡ って、なんだ、セーラ姫か」
奥から現れたのは、サキュバスの女性。
接客するかと思いきや、セーラ姫の姿を見ると途端に素に戻ったようだ。
「こんにちは、ミレイさん」
「あれから女王様なにか言ってた?」
「感謝していました。これからは子どもたちや貧しい人たちが暮らしやすい国にしていきますと約束してくださいました。あと、このお店の支援もしてくださるそうです」
「いやいや、そんなの悪いよ」
「そんなことはありません! あなたのおかげで、裏路地の辺りの子どもたちが、お腹いっぱいご飯を食べられて幸せになっているのです」
「そ、そう? いやぁ、ウチってほら、サキュバスじゃん。やっぱ、人間たちに幸せな夢を見せてからほんのちょっと精気を貰うのがいいかな、って思っただけだから」
「でもぉ、そのおかげでこんな美味しいお店に出会えたのですから」
「そうだよ。酒場のご飯も美味しいけど、ここの素朴な味も好きだよ」
「そうよね。ここのご飯、美味しいだけじゃなくて、まさかあんな効果があるなんてね……」
テーブルのご飯をもぐもぐと頬張りながら、勇者たちは思い思いに感謝を述べていった。
「そうですぅ、おかげで今日のダンジョン攻略もスムーズにいきましたぁ」
「これからもちょくちょく通わせてもらうぜ!」
またもやセーラ姫は首を傾げる。あまり話についていけないようだ。
「あのねぇ、ここは子どもたちが……って言いたいところだけど、まぁいいか。女王様へのこともあるし、たまにならいいよ。たまになら、ね!」
「やったぁ!」
「ありがとう、ミレイさん」
「はぁ、やれやれ……ま、美味しく食べてもらえるのはこちらとしても嬉しいからね」
ミレイはそう言いながら、勇者たちのテーブルにまたもや大きな皿を置く。そこには皿からはみ出そうな程大きなパンが乗っかっていた。
「あの、みなさん……」ついにセーラ姫が聞いてしまった。「このお店と、ダンジョン探索って、何かご関係が……?」
「あ、そうか。セーラ姫は知らないんだっけ?」
「実はこの店の料理ですけどぉ、食べると特殊な効果があるんですよぉ」
「とくしゅな、こうか?」
ますますセーラ姫は首を傾げた。
勇者ディオが話を続けていく。
「料理の中に魔力のエキスが入っていてね、たとえば今回ダンジョンに行く前は呪い耐性のあるエキスの入った料理をいただいたんだ。おかげで、変な呪いにかからずに済んだよ」
「まぁ、そんな凄い効果があったのですか!」
ようやく合点がいったセーラ姫は、思わず大きく頷いた。
「念のために聞くけど、これって本当に大丈夫な料理なんでしょうね?」
「失礼な! ウチの料理に変なものは入れてないし!」
「がははは! いいじゃねぇか! こんなに旨いんだし! 何が入っていようと気にしねぇよ!」
「やれやれ……」
頭を抱えるリコ。だが、結局いい香りに耐えきれず、彼女もまた一口と舌鼓を打っていた。
「……本当に、いいお店なのですね。わたくし、ほっとしました」
「そりゃそうよ! なんたって……」にこやかに、誇らしげな顔でミレイは言い放った。「ウチってば得意だからさ――」
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