15話 村人Aは見失った
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「わぁ、本当に城下町って色々なお店があるのですね」
セーラ姫は商店街のあちらこちらとうろつき、品物を見て回っている。
勇者パーティメンバーは散り散りになって、既に商店街のどこにいるかは分からない。
そんな彼女のお目付役になったのが……
「お、お待ちください姫様!」
勇者ディオが慌てて彼女を追いかけている。
「ほら、ディオ様! あそこに美味しそうなパン屋さんが!」
「分かりましたから、他の人にぶつかりますよ……」
「だいじょ……キャッ!」
ゴン、と鈍い音と共に姫が誰かにぶつかった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「え、ええ……いたた……ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」
セーラ姫が顔を挙げると、そこにいたのは……
「って、あれ? リコさん?」
「あ、姫さま……」
二人は見つめ合った後、ゆっくりと立ち上がろうとした。
ぶつかったはずみだろうか、リコの周りに本が散らばっている。おそらくは彼女が今さっき買ってきた物だろう。
「はい、これ」
ディオが落ちた本を拾いあげると、
「きゃあああああ! 見ないでッッッッッ!」
と、魔法使いリコは慌てて奪い取るかのようにディオから本を受け取った。
「あのさ、今の本って……」
「これは、ちがっ、違うのっ!」
何が違うのかはともかく、ディオは今拾った本が何なのかは知っていた。
それは間違いなく、王都で禁忌とされている書物。
一応、一般的に出回っている代物ではあり、法的にも問題はない。読んだところで大した知識が得られるわけではない。が、あまりにも官能的な内容であるが故に、それを持つ者は白い目で見られることが多い。禁忌と呼ばれるのはあくまでも読むにふさわしくない者に読ませないようにするためのレッテルのようなものである。
とはいえ、それを仲間の魔法使いが買っているとなると――
「……安心して、黙っておくよ」
「うっ、そう、して……」
リコはようやくゆっくりと立ち上がろうとした。
彼女が顔を挙げたその先に、セーラ姫が目を輝かせながらこちらを見ている姿があった。
「それ、禁忌の書ですよねっ!」
「そ、そうだけど……大声で言わないで……」
「実は私も、興味があって……」
「ええ……」
セーラの発言に、流石にディオは声にならない声を挙げてしまった。
「ほ、本当ッ!?」
「はい、とっても!」
そこから数分間、二人だけの会話が繰り広げられていた。
当然のことながら、勇者ディオは呆然と彼女たちの姿を眺めていた。流石の彼でも理解できない単語が並べ立てられ、ここが往来だということすら忘れているかのようにさえ見えた。
しばらくして、二人はにこやかな表情で手を振った。そのままリコが再びあちらのほうへと向かっていった。
「……楽しそうで何よりです」
「はい、久しぶりに楽しく趣味の話ができました」
やれやれ、とディオが頭を掻いていると――
「ん?」
「どうしました?」
「いや、あそこにいるのは……」
ディオが指さした、商店街の向こう側。
そこにいたのは、一体の魔族の姿だった。
魔族とはいっても、一見すると人間に近い。女性体で、ディオやセーラ姫と見た目の年齢は近い。髪色は長い金髪で、隙間から細長い角が二本、生えている。極めつけは、露出度の高すぎる服装だ。真っ黒なレオタードに近い衣装は、胸元やへその間まで露出している。更には黒くて細長い尻尾が尻の隙間からちょこん、と顔を見せている。
間違いなく、サキュバスの姿がそこにあった。
「あれが女王様のおっしゃっていたサキュバスか……」
「え、そんな、いきなりですか!? まだお昼ですよ!? 彼女らが活動するのは夜だったはずじゃ……」
「うーん……」勇者ディオは思案を巡らせて、「ひとまずついていってみよう」
「え、ええええええええええええっ!?」
そうして勇者ディオは彼女を尾行することにした。
商店街の物陰から物陰、死角を上手く活用しながら、のらりくらりと進むサキュバスを追いかけていく。見たところ、見つかった様子はない。
そうこうしながら、裏路地に差し掛かったところ――
「見失った、な……」
忽然と、入っていったはずのサキュバスの姿がなくなってしまっていたのだった。
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「見失った、な……」
咲場さんを追いかけていった僕たちだったが、結局見失ってしまった。
「う、うん……」
「どこに行ったんだろう?」
「さ、さぁ……?」
僕たちがいるのは、商店街の奥、繁華街に差し掛かる手前あたり。特に店らしいものはなく、暖簾や看板の出ていない建物やシャッター街がずらりと並んでいる。
「まさか、こんなところに出入りしているわけじゃないよな?」
「村野くん……これじゃあまるでストーカーだよ」
姫川さんにそう言われて、僕は「あっ」と我に返った。
「実はさ、この前先生に……」
僕は姫川さんに説明した。咲場さんが最近繁華街に出入りしているという噂、そして妃先生が彼女のことを心配していること。
「それで、村野くんは咲場さんのことを……」
「ま、まぁね。どうしても気になったからさ」
なんて言ってみたけど。
実際は小説のネタにするための興味本位というのが半分くらいあったりする。流石に危なそうな場所だったら早めに退散するつもりだったけど。
「クラスメイト思いなんだね、村野くんは」
「ぼ、僕はただ、先生にあまり心配掛けさせるのもよろしくないなぁ、なんて思っただけだから」
姫川さんが優しく微笑みかけてくる。
この笑顔には何度照れさせられたのだろうか。僕含めて、男子だったらあっという間にイチコロにさせられてしまいそうになる。ぶっちゃけ、可愛らしい。
僕は気を取り直して、スマホの時計を見た。時刻は十八時を過ぎている。
「あ、もうこんな時間か」
「結局あまり見られなかったね」
「そうだね……」
とぼとぼと繁華街から商店街に向かって歩いて行く僕ら。買い物客も大分少なくなってきて、少し閑散とし始めてきている。アーケードの外は夕日が沈みかけている。
正直、咲場さんを尾行するんじゃなかったと今になって後悔してきた。折角の姫川さんと一緒にいたのに、完全に無駄足すぎる。申し訳なさがこみ上げてきた。
「せっかくだから最後にどこか寄り道でもしていかない?」
「どこか、ねぇ……」
姫川さんの提案に、僕はうーんと頭を悩ませる。今からどこか寄り道していくとなると、そんなに時間の掛からない場所がいいとは思うけど……
と考えていたら、ふと商店街の対面にある機械に目が向いた。
「ねぇ、あれ!」
姫川さんも目に止まったようで、一目散にそちらのほうに走って行く。
そこは商店街の中でもひときわ大きなゲームセンター。見る限り、まだ学生らしきお客さんもチラホラいる。
入り口近くに大きなクレーンゲームの筐体が置いてあり、中には寝そべった動物のぬいぐるみが佇んでいる。犬か兎か、何の動物かよく分からないけど、そこそこ可愛らしいとは思う。
「これって何のキャラだろう?」
「知らないの!? あれだよ、ゼロ執事の、使い魔妖精ファンダル! まさか今更こんなグッズが出ているなんて!」
姫川さんが鼻息を荒げながら興奮している。余程ゼロ執事が好きなのだろう。
見る限り、上手く掴めれば一発で取れるタイプのようだ。今月は小遣いが厳しいけど、五百円ぐらいなら使える余裕はある。
僕は思いきって、クレーンゲームに五百円玉を放り込んだ。これで三回分のゲームができる。
「一か八か……」
「え、取ってくれるの?」
僕は声を発することを止めて、じっとアームを睨み付けた。
コンマ一ミリたりとも狂わないように、動くアームを止める。
ジーと鳴り響く機械音と共に、アームが静かに下に下がっていった。
「取れた!」
ガシッ、とアームがぬいぐるみを掴み、宙へと釣り上げる。
だが――
「あっ……」
残念ながら、ぬいぐるみはバランスを崩して落ちてしまった。
「残念……」
「まだまだ、あと二回ある!」
僕はアームが元の場所に戻っていったのを確認して、ゆっくり深呼吸をした。
次こそは、と気合いを入れて軽く手首を揉む。そしてボタンにそっと手を伸ばしていった。
「今度こそ……」
アームが再び動き出した。落ちた衝撃でぬいぐるみが少し斜めになっているけど、寧ろ好都合かも知れない。
アームを止め、静かに降りていく。僕たちはそれを、ただ固唾を呑んで見守っていた。
「よし!」
アームによってぬいぐるみは釣り上げられていく。
今度は運良く、上空に差し掛かったときの衝撃にぬいぐるみが耐えてくれた。ゆっくりと穴のほうへ向かっていく様を見ながら、僕たちは唾を呑んだ。
そして――
ゴトッ!
という音と共に、ぬいぐるみは取り出し口に放り込まれた。
「や……」
「や……」
「「やったあああああああああああああッ!」」
僕たちは思わず二人してハイタッチして歓喜を挙げた。
「まさか、取れるなんて!」
「僕もびっくりだよ! しかもたった二回で! 運が良かったとしか言いようがない!」
「ううん、村野くんがクレーンゲーム上手いんだよ! 凄い!」
「そ、そうかな……」
「そうだよ! 天才!」
僕は思わず照れてしまった。
「あ、あと一回分残っているね。折角だしもう一回やってみるか」
僕はすぐさま店員さんを呼び、同じ筐体のぬいぐるみをセットし直してもらった。どうせ無理だろうけど、ダメ元でもう一個ぐらい試してみてもいいだろう。
先ほどよりかなりリラックスしながら、僕はアームを動かした。
ゴトッ!
……
取れてしまった。
「まさか、二個取れるとは……」
「村野くん、やっぱ天才だよ」
照れくささを通り越して、自分が怖くなってしまった。こんなのはただの偶然だ。自惚れてはいけない。自分にそう言い聞かせた。
それはともかく、手元には使い魔ファンダルのぬいぐるみが二つある。
僕は最初に取ったほうを姫川さんにそっと手渡した。
「えっ、いいの……?」
「う、うん。勿論。二つあってもあれだし、姫川さんにあげるよ」
姫川さんはぬいぐるみを抱きかかえながら、顔を赤く染めた。
「ありがとう……嬉しい!」
本当に嬉しそうに姫川さんはぬいぐるみをぎゅっと握った。
――良かった。
これだけでも、二人で商店街に来た意味があったような気がする。
当初の目的は達成出来なかったけど、まぁいいか。
そんなこんなで、僕たちの放課後デートは終わったのだった。




