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三年D組の勇者パーティの話 ~語り手はモブ村人な僕がお送りします~  作者: 和泉公也
第二章 抑揚の章

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16話 勇者たちは確かめに行った

 翌朝。

 いつもどおりに登校する、いつもどおりの光景。


「おはよう」


 僕は珍しく、自分から教室に向かって挨拶をしてみた。


「お、村野じゃん」


「おはよう、村野くん」


 意外そうに思われることもなく、クラスメイトの皆は挨拶を返してくれた。逆に悔しい気もする。そこまで卑屈になることもないけど。

 僕は席に着いて、鞄を下ろした。教室には次々に他のクラスメイトたちが入ってくる。


「おはよう」


 凜とした声で須磨さんが入ってきた。

 僕は思わず、


「あ、須磨さん。おはよう。昨日は……」


 そう言いかけて、ふと「あっ……」と言葉を詰まらせた。


「おはよう。昨日はまさかあんなところで会うなんてね」


 意外なことに、淡々と返された。


「何々? 昨日何かあったの?」


「別に。商店街で偶然会ってね」


 それだけ言い放って、彼女も席に着いた。

 さすが冷静沈着、といったところか。商店街にいたこと自体は隠すようなことでもないし、本のことを言わなければ問題はない。これ以上話題を広げないようにしよう。


「おはよう、村野くん」


「あ、おはよう。姫川さん」


 教室に姫川さんが入ってきて、挨拶をしてくれた。


「須磨さん、おはよう」


「おはよう、姫川さん」須磨さんは眼鏡をクイッと直して、「それで、昨日は商店街楽しかった? 二人とも」


 ――えっ?


 その言葉に何か察したのか、クラス中が一斉にどよめいた。


「もしかして、お前ら昨日……」


「あ、うん。二人で商店街に行ったけど……」


 よく分からないけど、僕は正直に答えることにした。


「なっ……」


 ――なんだろう?


 そんなに騒ぐようなことかな?


「姫川さん、本当?」


「あっ、うん……」何故か姫川さんは俯いて、「商店街に行けば、新入生歓迎会のアイディアが何か湧くかなって思って」


「あ、なるほど。そういう……」


 クラスメイトたちがガッカリしたかのように僕たちから視線を逸らしていく。


 ――なんかマズかったかな?


「なんかゴメン、姫川さん」


「大丈夫……村野くんは何も悪くない……と思う」


 歯切れ悪く、苦笑いを浮かべる姫川さん。そばで須磨さんが呆れたようなため息を吐いているけど、どうしたものか。


「うーっす、お二人さん」


 ここに来て前守くんが教室に入ってきた。


「あ、おはよう、前守くん」


「聞いたぞ、昨日二人で商店街デートしたんだってな」


 ――ぶふっ!


 もし口に水を含んでいたら吐き出していただろう。それぐらい大きく息を吹き出してしまった。


「ど、どこでそれを……」


「外まで聞こえてたぞ。全く、隅に置けないな!」


 どうやら噂というのは思った以上に早く伝わるものらしい。

 参ったな、あらぬ誤解が尾ひれをつけて一人歩きしなければいいけど……


「あのねぇ」須磨さんが話に入ってきた。「この二人はね、新入生歓迎会の料理のアイディアを考えるために商店街に行ったの。アンタ、同じ班でしょ」


「お、そうだったのか。それはスマンかった!」


 どうやら誤解は解けたようだ。前守くんだけだけど。


「あ、うん。いいよ。けど、結局特にアイディアは浮かばなくて……ねぇ、姫川さん」


「そ、そうだね。何作ろう……」


 姫川さんはまだ照れくさそうだ。


「俺に聞かれてもなぁ。こういうときは夕島に聞くのが一番だろう」


 どうやら結局夕島くん任せのようだ。

 とはいえ、自分たちだけではアイディアがないのも事実だ。夕島くんならもしかしたら何か意見があるかもしれない。


「おはよう、みんな。朝から何の話をしてるの?」


 教室内を見渡していると、ちょうど夕島くんが教室に入ってきた。


「お、ちょうど良かった! 歓迎会のメニュー、お前は何かアイディアあるか?」


「あぁ、そうだね。実は……」


 ――おっ!


 もしかして、何か良い考えが浮かんだのか!? さすが、夕島くん……


「なーんにもない!」


 ガクッ!

 一気に身体のバランスを崩してしまった。


「なんだよっ! ないのかよっ!」


「これでも一晩考えたんだけどね。全く思い浮かばなくて……僕も普段あまり料理とかしないからさ」


 ――あぁ。


 これじゃあ先が思いやられるな。


「ったく、どいつもこいつも役に立たないな」


「アンタが偉そうに言うことじゃないでしょ」


 須磨さんが呆れ気味だ。そりゃそうだろう。


「咲場さんの意見を聞いてみたほうが良いんじゃないかな?」


 ――えっ?


「さ、咲場、さん?」


「そうだよ。同じグループなんだから。彼女のことを無視するわけにはいかないよ」


 それはそうだ。

 だけど、僕はふと、昨日のことを思い出してしまう。

 商店街で、繁華街に向かって入っていく咲場さんの姿――どこに消えてしまったのかは分からない。だけど、あの場所にいたってことは、きっと先生が心配していたことなのだろう。

 先生が心配していたことが、八割方当たってしまったように思えた。

 いや――

 まだ決めつけはよくない。直接そういった現場を目撃したわけではない。


「あ、あのさ……」


 ――どうしよう?


 思わず言葉を発してしまったけど、何て言えばいいんだ?

 相談すべきか?

 見なかったことにしておくか?


 ――ええい!


 僕は何を迷っているんだ!

 夕島くんは、信用できるクラスメイトだ。この間の一件で充分に分かったじゃないか!

 相談すれば、きちんと答えを出してくれるだろう。特に、先生が困っていたら、まず間違いなく親身になってくれる。

 拳を握り、彼の目に視線を合わせた。


「あのね、夕島くん。実は……」


 迷っていた間に、姫川さんが口を開いた。

 そして、昨日の件を僕たちだけに聞こえる程度の小声で話した。

 今の僕の決心は何だったのか、と脱力してしまったが、話が進んだからもう流れに乗ることにしよう。


「……そうだったのか」


「咲場のヤツがねぇ。ま、そんな感じはしてたけどな」


「前守くん、声がデカい」


 おっと、と言いながら咳払いを挟んで、前守くんは口を噤む。


「で、でも、まだ確定したわけじゃないから」


「そうだね。だったら、僕らでもう一度確かめに行こう」


 ――え?


「確かめるって、どこへだよ?」


「本人に直接聞くのが一番だよ」


 ええ……


 そうくる?

 僕は彼のアグレッシブさに、戸惑ってしまった。


「そ、そんなことして大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。僕たちはあくまでも、商店街に入ったら彼女を目撃した、という体で行くだけだから」


 それって昨日僕らがやったことと一緒のような気が。


「いいのかな、それって……」


「構いやしねぇさ」


「いえ、ダメ!」


 姫川さんがキッパリと否定した。


「ダメか? 悪いことしているわけじゃないが……」


「ダメ! 咲場さんのことを疑うようなことは、絶対!」


「でも確かめないと……」


「ダメったら、ダメ! だって……クラスメイトだから」


 いつになく強気な姫川さん。

 彼女なりに人を信じたい気持ちはあるのだろう。まだクラスの一員として日が浅いけど、僕たちに対する信頼感が伝わってきた。


「……分かったよ」


 夕島くんが折れた。彼も流石に姫川さんの気迫が伝わったのだろう。


「ごめんね。不安はあるだろうけど」


「いいよ。あ、でも、咲場さんにメニューの意見は聞きたいな。そういえば、さっきまでそこの階段の踊り場でずっと電話していたっけ。まだあそこにいるかも知れないから、ちょっと聞きに行こう」


「まぁ、それだったら……」


 それだったら、僕たちも賛成だ。というか、最初からそうしていれば良かったような気がする。

 僕たちは教室を出て、すぐ傍にある階段のところにやってきた。


「だーかーらっ! そんなんじゃダメだってば!」


 いた。咲場すみれさんがそこにいた。

 そして、まだ誰かと電話しているようだった。


「さきば……」


「しっ!」


 呼びかけようとする前守くんを制止して、僕たちは物陰から彼女の様子を窺うことにした。


「あのさぁ、ムネはしっかりと揉まなきゃダメだって言ったっしょ!」


 ………………


 …………えっ!?


 今、とんでもない一言が聞こえてきたような?


「聞き間違い、かな? 今、胸がどうとか……」


 僕たちは青ざめた表情で、続きを聞くことにした。


「こないだのキスは失敗したっしょ。そっちはまたリベンジね」


 ――キス?


 えっ……どういうこと!?


「あ、そうそう。ちゃんと皮剥いといてね! 子ども相手だからこそちゃんとやんなきゃダメだかんね!」


 ――しかも相手は子ども!?


 ホント、どういうこと!?


「あ、もうちょっとで授業始まるから! 切るね! 続きは放課後! そんじゃ!」


 それだけ言って咲場さんはスマホを切って、階段を上ってきた。

 彼女に見つからないように皆で隠れて、じっと後ろ姿を眺めていた。


「えっと……」


「……やっぱり本当だった?」


「なんか……」


「……危険な香りが」


 ――どうしよう?


 僕たちは困惑したまま、互いの顔を見合うばかりだった。


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