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三年D組の勇者パーティの話 ~語り手はモブ村人な僕がお送りします~  作者: 和泉公也
第二章 抑揚の章

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14話 魔法使いは禁忌の書を落とした

 結局誘われるがままに、僕は姫川さんと商店街にいる。

 学校からはさほど離れていないが、そこに行く間も大した会話がなかった。

 制服のままとはいえ、女の子と二人っきりになってしまう時間は人生で初だ。何から会話を切り出せばいいかさっぱり分からない。

 ふと姫川さんの顔を見る。彼女もどういうわけか俯いたままだ。


「あの、姫川さん?」


「あ、うん。えっと……」


 姫川さんはまた俯いた。無難な質問からしてみようと思ったんだけどな。


「そういえば、一緒のグループだね。よろしく……」


「うん、よろしくね。あ、実はね、そのメニューをどうしようか考えていて、ここに来れば何か良いアイディアが浮かんでくるかなって思って……」


 たどたどしく話す姫川さん。

 なんだか会話に困っちゃうな。折角、この前の歓迎会で仲良くなれたと思ったのに。


「僕を誘ったのは……? 正直、あまり頼りにならないと思うけど」


「そ、そんなことないよ!」姫川さんが全力で否定する。「転校してきてまだ数日だけど、村野くんっていつも色んなことに頑張っていて……その……色んなことに頑張っているから、頑張り屋さんだってことは知っているよ!」


 ――ううん。


 日本語になっていない褒め方が僕を悩ませる。詰まるところ、なんだか空回りしているだけのように言われている気がするんだけど。

 そんな会話をしながら商店街に入ると、真っ先に甘い匂いが立ちこめてきた。天津甘栗を燻している香りが漂い、僕のお腹が思わずぐぅ、っと鳴り響いてしまう。


「あっ……」


 気恥ずかしくなったと同時に、姫川さんがクスっと笑った。


「大丈夫、気持ちは分かるよ。美味しそうだもんね」


「あ、あはは……」


 とりあえず僕も笑って誤魔化すことにした。

 アーケード入り口付近は大体飲食店や食べ物屋さんが多い。もう少し奥に行くとファッション関連の店が並んでいるんだけど、今日は多分そこまでは行かないだろう。

 ふと、僕はアーケードの反対側に目を向ける。

 あっちの方は、所謂オタク向けのショップが多い。マニアックなゲームやプラモデル、それにアニメグッズの中古品を売買している。そのせいか、いかにも非オタな若い人たちやおばちゃんたちが心なしか意図的に前を通らないように避けている気がする。

 いつもなら僕もあちらのほうをメインで回っている。外れのほうにある古本屋さんにはマニアックなファンタジー小説や創作に役立つ資料が売られていることがあって、ちょくちょく通っていたりする。長いときには二時間ぐらいお店に居座ることもある。

 けど、今日はその店に寄っている暇はなさそうだ。姫川さんも一緒だし、そんな本屋に興味があるとは……


 ――いや。


 そういえば、姫川さんって……

と、僕が彼女のことを考えていると、


「きゃっ!」


 ドン、という音と共に誰かにぶつかってしまった。


「あ、す、すみません! 大丈夫、ですか……」


「あ、はい。こちらこそ……」


 相手の女性は尻餅をついた状態から立ち上がろうとする。


 ……って、


「あれ? 須磨さん?」


「あっ……」


 立ち上がるのをストップした須磨法子さんが、僕らの姿を見つめたまま呆然としている。

 まぁ、放課後の商店街ですれ違っただけなら別段問題はないんだけど……

 彼女の周りに散乱している本に、僕はどうしても目がいってしまう。


「須磨さん、本が……」


「こ、これはちがっ、違うのっ!」


 何が違うのだろうか。

 須磨さんは慌てて落とした本を拾い集めた。

 それも、表紙に男が二人抱き合っている本を――


 ……


 うん。

 僕は、何も見なかった。


「ごめん、痛くなかった?」


「ぶつかったのはいいけど、今のは、その……」


「うん、内緒にしておくよ」


 人の趣味嗜好はそれぞれだし、僕もとやかく言える立場ではない。

 ま、少しだけ小説のネタに使わせてもらうけどね。


「あの……」


 ――あ、いけない。


 すっかり姫川さんのことを忘れてしまっていた。


「……姫川さんも、幻滅した?」


「そ、そんなことないよ! 寧ろ……」姫川さんが目を輝かせて、「それって、鬼龍ファイターズの同人誌だよね! 須磨さん、好きなの!?」


「う、うん……実は。原作もアニメも観ていて……」


「本当!? 私も実は好きなんだ! ゼロ執事も好きだって言ってたよね! つくづく趣味合うね、私たち!」


「そ、そうね……」


 逆に姫川さんが食いついてしまっている。


 ――そうだった。


 この前のカラオケでも、須磨さんがゼロ執事の主題歌を入れて姫川さんが反応していたっけ。


「あのさ、姫川さん」


「うん?」


「ちょっと失礼な物言いかもしれないけど……」


「どうしたの?」


「姫川さんって、もしかして、オタク?」


「そうだよ」


 しれっと言い切った。

 特に恥ずかしがる様子もなく。


「で、でも……こんなBL同人なんて……」


「全然嫌いじゃないよ。同人誌とかは買ったことないけど、配信しているBLアニメぐらいだったら普通に観ていたりするし。ちなみに鬼龍ファイターズなら乱王と黒浜のカップリングが推しだよ!」


「……じゃ、じゃあ聞くけど、夕島くんと前守くんがもしも、カップリングだったら?」


「前守くんが受け」


 姫川さんがそう言うと、須磨さんが思わず姫川さんに抱きついた。


「分かってる! 貴方、本当に分かっている!」


 ――なんだ?


 僕もオタクだし、BLに偏見はないつもりではいたけど。

 この空気はどう扱えばいいのか困惑してしまった。


「だよね! 本当に気が合うね!」


「学校じゃなかなか言えないのよね。ほら、私ってお堅いイメージで通っているから」


「私も転校してきたばかりで、こういう話できる人なかなかいないと思っていたから……うれしい!」


 姫川さんもハグをやり返した。


 ――うーん。


 しばらくは、このままにしておくか。

 と、思っていると二人はハグ状態を解除して、


「あ、でも、このことはくれぐれも学校では内緒でお願いね」


「大丈夫だよ、私たちだけの秘密ね」


「あ、僕も、黙っておきます……」


 というか、言えるはずはなく。

 言う相手も特にはない。夕島くんや前守くんに言ったところで軽く流されそうな気がするけど……

 ま、本人が黙ってとお願いする以上は黙っておこう。


「それで、貴方たちはどうしてここに?」


 ――あっ。


「いや、特に何がってわけじゃないけど」


「その……歓迎会のメニュー、どうしようかなって悩んでいて。ここに来ればなにか良いのが思いつくかなって」


「ふぅん……」


 須磨さんが訝しげな視線を投げかけてくる。どこか口元がニヤニヤしているようにも見える。


「あ、そろそろ行かないと。遅くなっちゃう」


「そ、そうだね! 須磨さん、また明日!」


「はーい、また明日。くれぐれも……」


「はいはい、黙っておきます!」


 最後だけ須磨さんの目が異常に冷たい気がする。余程自分の趣味を晒されるのが嫌なのだろう。念には念を入れてるというか、最早脅しに近い。そして、怖い。


「貴方たちも頑張って、ね」


「う、うん……」


 ――ん?


 頑張って、ってどういう意味だろう?

 歓迎会のことなのだろうか?

 そんな疑問を浮かべていると、須磨さんは既に商店街の向こう側に足を進めてしまっていた。


「びっくりしたね」


「そうだね。まさか、こんなところで須磨さんと鉢合わせるなんて」


 学校から近い商店街とはいえ、こうも偶然出会うことがあるとは、と二人して驚いた。そして、僕たちは向き合って、いつの間にか微笑んでいた。

 気を取り直して、しばらく足を進めていた。日も大分落ちてしまい、行ける場所も限られてしまいそうだ。僕たちは二人してせわしなく商店街のあちこちを見て回った。


「うーん、なかなかいいアイディアって思いつかないね」


「そうだね……やっぱり料理の上手な人にアドバイスを貰った方がいいのかな?」


「料理の上手な人、ねぇ……」


 うちのグループで料理上手っていわれても困る。

 前守くんは自分で食う専門とか言っていたし、夕島くんもどうなんだろう?

 あと、咲場さんは……


「あれ?」


 突然、姫川さんが立ち止まって商店街の先を指さした。

 あちらのほうは、繁華街に近い。飲食店というよりも居酒屋やスナックといった大人の店が並んでいる。更に言えば、いかにも怪しいお店もある。

 そんな方向にいた、見知った顔。


「あれは……咲場さん?」


 スマホを片手に、じっと佇む咲場すみれさん。

 しきりに周囲をキョロキョロと見渡し、繁華街方面へと向かっている。


 ――まさか。


『あくまでも噂だが、最近頻繁に繁華街のほうに出入りしているらしい。それも、夜遅くに』


 妃先生の言っていたことは本当だったのか?


「ど、どうしよう……」


「どうしようったって……」


 二人して青ざめた表情を作りながら、しばらく彼女の様子を見つめていた。

 そして、僕はうん、と意を決して、こう言った。


「つ、ついていこう……か……」


「え、えええええええええええっ!?」


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